第46話 力の迷宮(1)
「……知らない天井だ」
それもその筈だよ、ここは迷宮都市にある高級宿屋・銀の鈴の一室だ。
そりゃ知っている天井な訳ないよね。
そして、僕の寝ている隣には、生まれたままの姿で美女が眠っている。
言わずと知れた僕の婚約者の一人、アイシャ・ローレルだ。
夕べ、風呂上がりのアイシャの余りに色っぽい姿に負けて、とうとう彼女を抱いてしまったんだ。
ちゃんと結婚をしてからと思っていたんだけど……年上美女の湯上がりの魅力に僕の理性は勝てなかった。
女の人に興味がある成人男性、しかも初めての経験ともなれば仕方ない事だ。
……仕方ないよね?
そんな訳で裸のアイシャが隣で寝てるのだけど、色々目のやり場に困ります。
夕べ、散々隅々まで見たわけだけど、やはり困る物は困る訳で……。
取りあえず、色々と身体がベタベタするのでもう一度お風呂に入ってこようと思う。
すっかりとお風呂の魅力に僕も取り付かれてしまったよ。
「~♪」
お風呂に入ってリラックスし、上機嫌に鼻歌を歌っていると扉の向こうからアイシャの声が聞こえてくる。
「マイン君、お風呂に入ってるの?」
うん、そうだよと声を返すと……なんとアイシャがお風呂の中に入ってきた!?
しかも……いや、お風呂だから当たり前か、一糸まとわぬ生まれたままの姿で!
少し恥ずかしそうにしているが、しっかりした足取りで湯船に近づいてくる。
そして、掛け湯をして僕に軽く微笑みを向けてくる。
「時間が勿体ないから来ちゃった。背中流して上げるね」
そりゃ昨日お互いの体はしっかりと見てるし、もっと凄い事をしてるわけだから一緒に入るのは吝かでないというか……嬉しい訳だけど……。
……なんか、大胆すぎませんかね?アイシャさん?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結果的に朝からイチャイチャとする事になってしまった為、宿屋の朝ご飯の時間がギリギリになってしまった。
ご飯を食べる時にも、どうにも自制が働かず、周囲の冷ややかな視線を無視しながらもアイシャとイチャイチャしてしまう。
体を重ねた事でふっきれた所もあるのだろうけど、アイシャも僕もお互いの接し方が明らかに近くなっていた。
「ご飯を食べたら、迷宮に行こうか。早いところ目的を済ませて家に帰ろう。
シルフィが万が一、帰ってきてたら困るだろうしね」
ちなみに朝食もとても美味しかったです。
お風呂といい、美味しさと言い流石に高級宿というだけの事はあるよね。
特にお風呂は大収穫だったよ。
先程のお風呂の中で家に造ったらどうかな?とアイシャに聞いたらそれはもう喜んだ。
なんでもシルフィもお風呂は欲しがる筈なので、造るなら早めに造るべきだとの事だ。
うん、家に帰ったら早速職人さんに頼んでみようと思う。
美味しい朝食を食べ終わり、僕達は一路目的の迷宮への向かう。
迷宮の入り口まで辿り着くと受付をしている騎士の人がいた。
「こんにちは!中に入りたいのですが、いいでしょうか!」
僕がそう訪ねると、受付の騎士さんは、紙を出して「これに名前と定宿を書くように」と言われた。
この紙は、迷宮から出た時にも記入をするらしい。
なんでも中で事故があり、帰って来れなくなった人が出た場合、この紙を確認する事で、誰が帰ってきてないかを確認してるらしい。
僕とアイシャが書き込んだ紙を渡すと代わりに金属のプレートを渡してくれた。
これとさっき書いた紙が対になっている。
ダンジョン内で誰かがこれを拾うような事があれば、やはりその持ち主に何かがあった可能性があると言う事だね。
所定の手続きを終え、簡単な内部の情報を聞いた後、僕等はいよいよ力の迷宮への挑戦を開始する。
#力の迷宮、一階
「へえ、迷宮って言う位だからもっと薄暗い感じだと思ってたけど違うんだね」
中に足を踏み入れて最初に思ったのはこれだった。
たいまつのような物が必要かな?と思っていたけど、アイシャが用意しようとしなかったから不思議だったんだよね。
壁自体から蛍の光のような微妙な淡い明かりが浮き出ている。
そのおかげで迷宮内自体が結構明るいのだ。
「力の迷宮はこんな感じね、他の迷宮だと明かりは必要になったりする場合もあるのよ」
なるほど、場所によって中の様子や雰囲気もきっと変わるんだろうね。迷宮……奥が深いなあ。
アイシャ先生の迷宮講座を聞きながら、進んでいくとモンスターが固まっているのを見つけた。
名前:パワー・スライム
LV:6
種族:スライム族
性別:無し
【スキル】
常時:パワー
【アビリティ】
なし
名前:パワー・ヒートスライム
LV:7
種族:スライム族
性別:無し
【スキル】
常時:熱
【アビリティ】
なし
この前、ギルドの依頼で倒したスライムより若干レベルが高いな。
これも迷宮だからだろうか。
五匹、二種類のスライムが固まってる訳だけど……。
……スキル、なんか訳がわかんないのを持ってるな。
うん、”常時”は分かる。
言葉のままだろうからね、だけど……パワーってなんだ、パワーって!
熱もよく分からないぞ、熱って「熱いっ!」っていうあの熱の事なの!?
取りあえず、切り取ってみるか。
パワーを取って貼り付けてみたけど、良く分かんないな。
常時って付いているからには、何もしなくても効果はあるんだろうけど……。
う~ん、分かんない時はやはり鑑定だな。
【常時:パワー】:ほんのり強くなる。
待てっ!何だ、何だよこのスキル!!スキルのくせに僕に突っ込みさせたよ!!?
何となく……熱も予想つくけど……一応、調べてみる?
【常時:熱】:ほんのり熱くなる。
おおう……予想通りだ……。
流石にコレは要らないよなあ……。
……あ、待てよ!?閃いちゃったぞ、僕。
【常時:熱】を切り取って……地面に転がっている小石を拾って貼り付ける。
貼り付けた小石を手にすると、確かに熱さを感じる。
ちょっと熱めのお湯みたいだ。
更に実験。
違うパワー・レッドスライムから更に【常時:熱】を切り取って再び同じ小石に貼り付ける。
「熱っ!?」
僕がいきなり叫んだのを見て、アイシャが何事?とこちらを見てくる。
「だ、大丈夫だよ、何でもないよ」
アイシャが火傷するといけないので、今の小石から【常時:熱】を一つ切り取って違う小石に貼り付けておく。
「あら、ホントね。この石……妙に熱いわね」
「……だよね、ちょっとびっくりしちゃって」
取りあえず、常時発動のスキルは何かに使えるかもしれない。
今のうちに全部、小石にくっつけて収納袋に入れておこう。
「じゃあ、スライムやっちゃおうか」
そう言いながら、地面に落ちている普通の小石を数個手にとって、スライムに向けて全力で投げつけた。
鋭い風切り音と共に猛烈な勢いで飛んでいき、そのままスライムに直撃する。
スライムの軟体を持ってしても、その衝撃を吸収する事が出来ず、そのまま呆気なく絶命する。
例え、小石であってもレベル61の僕が投げつければ、当然といえば当然の結果だろう。
アイシャはと言うと……驚いた表情で絶命したスライムを見つめている。
まあ、そりゃそうだよね。
石とはいえ、大きさも重さもそれほどでもない小石だもん。
それが風切り音を発しながら飛んでいき、スライムとはいえ一撃で倒しちゃうんだから。
驚いているアイシャを横目で見ながら、どんどん小石を投げていく。
【指弾】を使っても良かったんだけど、極力スキルは使わないつもりでいる。
残った四匹のスライムも最初のヤツ同様、一撃で倒されて行く。
そして、倒したスライムから『スライムオイル』が七個もドロップした。
……これ、多分【プロバビリティー】の効果だよね。
「マイン君、やっぱり凄いわね。ひょっとして私の弓必要ないかしら……」
「ううん、そんな事は無いよ!だってスライムだもの。下の階にいけば強いのが出てくるんだよね?」
「……まあ、そうなんだけどね……」
アイシャを宥めながら、僕等は迷宮の奥へと進んでいく。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m