第44話 ちょっとだけ成長出来たかな?
まだ、空が暗いうちに目が覚める。
顔を洗い、ぼーっとする頭を一気に覚醒させる。
さて、昨夜はゆっくりと考える事が出来なかったからね。
改めて【鑑定・全】のレベルアップについて考えてみよう。
そう思い、片っ端に家中の物を鑑定していく。
だけど、表記が変わったのは、結局始まりの短剣だけだった。
う~ん、対象物が無さ過ぎて、全く条件が分かんない。
今の所、武器の”必要素材”が分かるようになったという事だけか。
取りあえず、今の所はこれでいいや。
問題なのは”始まりの短剣”だ。
成長する説明を読む限り【錬成】スキルがいるみたいだ。
今まではモンスターも含めて、敵対してきた者達が持っていたスキルを手に入れてきた。
だから、特定のスキルを狙って得てきた訳じゃないんだよね。
だから、僕が錬成スキルを得る事が出来る確率は正直言ってかなり低いと思う。
偶然に期待して、手に入れれそうなら優先していくって形かな。
必要となる素材だけは取りあえず集めておこうかな。
幸い、収納袋を作れる様になったわけだし、保管場所に困る事はないだろうからね。
今の僕は正直言って暇だ。ギルドで依頼を受けれる訳でもないし、優先して何かしなければならない事もない。
シルフィが帰ってくれば、また違ってくるのだろうけどね。
当面の目標としては、素材集めと言うのはいいかもしれないね。
……となると、どこでこの素材を得る事が出来るか、かな?
アイシャに聞けばきっとわかるんじゃないかな。
スライムオイルの時に色々とアドバイスを貰った事を思い出しながら結論づける。
さて、色々考えているうちに起き出すには丁度良い時間になったんじゃないかな?
さあ、本格的に今日の活動を始めようか。
アイシャと一緒に作った朝ご飯を食べながら、先程の事を質問をする。
「少し教えて欲しい事があるんだけど……」
「ん~、なあに?」
大分、ウチでの生活に慣れてきたのか寛ぎながら、もきゅもきゅとご飯を食べていたが、それを中断して返事を返してくる。
密かに食べる姿を見て、可愛いと思ったのは内緒だ。
「トロールって何処いけばいるのかな?」
「……また、いきなりね。単純に言えばオークよりも上位の魔物よ?ってマイン君なら楽勝か……。
そうね……この辺りにはトロールの生息域は無いかな。
どうしても倒したいなら、少し遠いけど迷宮に行くしかないわね」
なんか聞いた事あるよ、迷宮かあ。僕には一生無縁な所だと思ってたけど……。
トロールもそうだけど、スキルもいい物があるかもしれないしね、行ってみようか。
「うん、行ってみたいな」
僕がそう言うと、じゃあ行ってみましょうかと軽く返事を返すアイシャ。
まあ、元B級冒険者だし、迷う理由も無いのかな?……けど、遠いならシルフィが戻ってくるのを待った方がいいかな?
「シルフィ、帰ってきちゃわないかな?」
「姫様、10日位掛かるって言ってたから問題無いと思うわよ」
ふむ、じゃあ迷う事はないか。
改めて迷宮に行きたいとアイシャに告げる。
「それじゃ、食べ終わったら矢を補充しに武器屋さんに行ってくるわね」
「うん、分かったよ!食器の片づけは僕がやっておくから!」
そう言うと嬉しそうに彼女は笑い、再び僕達は食事に戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕とアイシャは今、迷宮がある町……というよりも迷宮に隣接して造られた町に向かっている。
そもそも迷宮とは何なのか。
自然の中にある巨大な洞窟や地下空間、人間達が放棄した塔や砦と言った一定の規模の空間を持つ様々な場所を指す。
元々何も無いただの空間だったのが、魔人達の手によってコアと呼ばれる巨大な魔石を設置した事で環境が変化し魔族が生まれ出る空間になってしまった。
設置された魔石の大きさや種類によって迷宮内を徘徊する魔物は変わってくる。
そして設置された魔石を壊すか、持ち去ればその迷宮は崩壊する。
これらの事柄は昔、ダンジョンを崩壊に導いた冒険者達によって確認されている。
今、向かっているダンジョンは通称《力の迷宮》と呼ばれている。
徘徊している魔物は攻撃力が高めの物が多く、稀にレアモンスターと呼ばれる特殊な魔物も出てくる。
そんな迷宮となっている。
「ふう、やっと着いたね!」
馬車に揺れる事、約10時間。
朝、出発して到着したのが既に夕方となっている。
今日はこの町、アドルで泊まって迷宮に入るのは明日からかな。
馬車から降りて大きく伸びをする。
アイシャもかなり疲れたようで同じように大きく伸びをしていた。
あ、そうそう今回は馬車の中に”盗賊”は居なかったよ!前みたいな事があったら怖いからね。
ちゃんと全員を鑑定して普通の人って言うのかな?普通の人しか居ないのは分かってるんだ。
「こんな時間だし、迷宮入るのは明日にして今日はこの町で泊まっていこうか」
「そうだね、長い間馬車に揺られて疲れているし……それでいいんじゃないかな?」
アイシャの了解も取り付けて、まずは宿屋を探す。
お金も余裕があるし、ちょっといい宿に泊まろうかな。
今までの生活では高級宿など夢のまた夢だった。
というか、考えた事すらないよ。
なにせ、日々食べていくのだけで精一杯だったからね。
だから、すんごい興味があるんです。
僕一人で決めちゃう訳にいかないしね、ちょっと聞いてみよう。
「お金も余裕があるし、ちょっといい宿に泊まってみない?」
しばらく考えた後「ま、いっか」と了承を得られ、この町で二番目に高い宿に部屋を取る事にした。
一番じゃないの?って聞いたら『ちょっといい宿』って言ったでしょ、と言われてしまい断念。
そりゃ、これから一緒に生活していくんだもんな。
贅沢は敵!そういう事なんだろうね。
ちなみに一番高い宿は一人一泊金貨3枚。
僕等が泊まる事になった二番目に高い宿は一人金貨1枚と銀貨5枚だ。
どちらの宿も夜と朝の食事付きである。
なお、一般的な冒険者が使う宿の場合、銀貨3~5枚前後が普通みたいだ。
そう考えると、二番目とはいえ、ちょっとというレベルでは無い。
アイシャは大分奮発してくれたと思う。
改めて、アイシャに感謝。
宿に足を踏み入れると、女将さんらしき人がやってきて応対をしてくれた。
「いらっしゃいませ、銀の鈴亭にようこそ。お二人で宿泊という事でよろしいでしょうか?」
……仕方ない事なんだろうけど、女将さんは僕でなく真っ先にアイシャに話しかけてきた。
アイシャも若干顔を顰めながらも、それを女将さんに感じさせないように笑顔を見せる。
成人したての僕よりも当然アイシャの方が代表者に見えるわけで……。
今まではこんな事は気にならなかった。
けど、今は少しだけ悔しい。
だって、僕は彼女と結婚するのだから。
「”あなた”それでいいかしら?」
……え?
女将さんに答えを返すアイシャさん。
彼女のいつもの話し方ではない。
……ああ、そうか。きっと僕の今の気持ちをアイシャさんは分かったのではないだろうか。
或いは彼女自身が気に入らなかったのかもしれない。
ならば、僕は(ちょっと早いけど)彼女の伴侶として頑張ろう。
「はい、二人で一泊で構いません」
流石は高級宿の女将さん、僕等の関係を今の会話で理解したのだろう。
すぐに僕に向かい直し「ご宿泊ありがとうございます」軽く頭を下げた。
ささやかな、本当にささやかな出来事だったけど、僕はちょっとだけ成長出来た気がする。
そして、同時にアイシャさんの優しさに何度目か分からない感謝をしたんだ。
何時もお読み頂きありがとうございました。
今話のタイトル、迷宮絡みにするか悩んだのですが……。
書いておいて何ですが私自身が印象に残ったのでこのタイトルにしました。
気の利いたタイトルで無くスミマセンm(_ _)m
また、本日の二度更新は多分無理です。
期待しておられた方いらっしゃいましたらごめんなさい。
※活動報告の感想返しの件、返信ありがとうございます。