第41話 CASE:シルフィード(1)
旦那様と別れ、愛馬を駆り王都へと急ぐ。
やる事は山積みだ、とにかく急がねば……時間はどんどん過ぎていく。
まずは父上を説得する所から始めなければならない。
旦那様……うむ、口に出すと、なんだか照れるな。
良縁があればとルーカスまで足を伸ばしたが、予想以上に素晴らしい縁を結べたと言えるだろう。
貴族の中にはそれ程良いスキルを持っていなくても家柄を盾に私への縁談を持ってくるからな。
これでそんな煩わしい話も聞く必要が無くなるのもありがたい話だ。
旦那様のスキルは未だ分からないが、子を成せば必ず良スキルを授かってくれる子となるだろう。
王族の義務も果たせ、良き夫も得る事が出来る。
この素晴らしい結果を持ち帰ればきっと父上も満足頂けるに違いない。
だが父上に結婚の事を話せば、当然ながら旦那様のスキルの話は出るだろう。
それとなくクラン上手く持ち出して上手くごまかさなければならない。
オーク・キングという切り札があるから恐らく上手くいくのは間違いないと思うが、父上が旦那様と戦わせろと言い出しそうで別の意味で心配ではある。
まあ……そういう意味では兄上も非常に心配ではあるのだが。
父上もそうだが強い者を見ると腕試しをしたがるあの悪癖は本当にどうにかして欲しいものだ。
王族が所構わず戦おうとするなど、本来ならあり得ない事だ。
それに……兄上はシスコンをこじらせ気味だからな……。
私が結婚なんて言えばどんな反応を見せるか分かった物ではない。
その辺りも上手く立ち回らなければいけないだろうな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「姫様、お帰りなさいませ」
宰相のモルグが城についたばかりだと言うのに早々と私を見つけ、声を掛けてくる。
少しくらい、休憩を入れたかった所なんだがな……。全く油断も隙もあったものではないな。
「ああ、今帰ったよ。父上は今どちらに?」
すぐに父上に会って話をしたかったのだが、何かトラブルが発生したのか閣僚会議を行っているとの事だ。
何でも兄上はともかく弟も会議に参加しているとの事なのでかなりの大事なのかもしれないな。
弟の王位継承権は二位ではあるが、国王の座には全く興味を持たず大手クラン:錬金術図書館を自ら立ち上げ、活動をしている。
その弟が会議に参加しているという事は恐らく王子としての立場より、クランの代表として参加している可能性が高い。
「……ふむ、大事のようだな」
「はい、姫様もご参加なさった方が良いかと存じます」
モルグは私の顔を見たときから会議に参加させる気だったのだろう、さらっとそう言ってのけ、会議が行われている部屋へと私を連れて行く。
まあ、大事が起こっているというならば、是非もないからな。
参加するのは問題ないのだが、モルグのヤツに妙にしてやられた感があるな。
そんな事を考えているうちに会議室へと到着する。
「シルフィード帰還致しました、大事と聞き参上致しましたが、お邪魔でしたでしょうか」
扉を開け、中に入ると一斉に全員が私に注目する。
「シルフィードか。丁度良い所に来たな、お前の意見も聞きたい、そこに座れ」
国王である父上、ファーレン・オーガスタが着席を促してくる。
着席と同時に父上が概要を説明してくれたのだが、中々やっかいな事になりそうな案件であった。
何でも、北方に位置するオオセ公国に魔族共が侵攻を開始したというのだ。
現在、騎士団の一部が情報の真贋を確かめにオオセへと向かっているとの事だ。
冒険者ギルドにも依頼を出しているとの事で、彼らが持ち帰った情報如何によっては、かなりやっかいな事になるだろう。
他国への侵攻ともなれば、当然大量の魔族をまとめ、指示する個体が必ず存在する。
そう、記憶にまだ新しいあのオーク・キングのような個体がいる筈なのである。
オーク・キングのような災害級は流石にその辺にゴロゴロと居る訳ではなく、魔族の本国とも言える魔人国周辺位しか普通は存在しない。
つまり他国侵攻が起こり、その侵攻部隊に災害級が居たとすれば、魔人国が本気だと言う可能性が有るという事だ。
魔王と呼ばれる魔人国の王が十年ほど前に代替わりしてからは、比較魔人国も大人しかった。
だが今回のオオセの件に奴らが絡んでいると言うのならば、かつてのように魔人国が本気で侵略行為を本格化する前哨戦なのかもしれない。
問題のオオセ公国は立地的に魔族を従える魔人国から一番近い場所にある為、その対策について話し合っていたとの事だ。
「なるほど……確かに大事ですね」
その後、数時間に渡り会議が続けられたが、結局の所、騎士団か冒険者達が情報を持ち帰らなければ話しが纏まらないと言う事になり、会議は解散となった。
参加していた大臣達が各担当部署に帰っていくのを見送りながら、ルーカスで起こった事を父上に話すタイミングを見計らう。
「父上、兄上、ルイス……内密の話があります、この後お時間を頂けますでしょうか」
私が真剣な表情でそう言うと、父上が自分の執務室へ移動して話す事にしようと提案して貰う事が出来た。
「で、シルフィ、話というのはなんだ?」
家族ゆえの気安さで父上に愛称で呼ばれ、場の空気が少し緩やかな物に変わる。
だが、これから話す事は先程まで話し合われていた氾濫の話にも繋がり、かつ私の将来にも繋がる話だ。
気合いを入れて話そう。
「前置き抜きで、お話させて頂きます。
私の伴侶を決めて参りました、件のルーカスでオークを倒した少年です」
「……ほう、お前の目に叶う強者だったか、結局彼のスキルは何だったのだね?」
来た!予想通りというか、既定通りというか……まさに予想通りの問いだ。
「彼のスキルは結局分かりませんでした。ここからは先程話していた氾濫の話にも若干関わる話となりますが、まずこれを見て下さい」
そう言って、旦那様より預かったオーク・キングの亡骸を収納袋から取り出した。
ズンという落下音が響き、床の上にオーク・キングの凶悪な姿が現れる。
「な、なに!?こ、これは……」
父上の表情がみるみるうちに驚愕の表情へと変わっていく。
兄もルイスも同様に目をまん丸に広げて、驚いている。
それはそうだろうな、災害級の亡骸をまさか執務室で見る事になるとは夢にも思うまい。
「オーク・キングか、これはっ!!!?」
最初に落ち着きを取り戻したのは父上だった、流石だな。
兄弟二人は、まだしばらく落ち着かなさそうだ、まあ気持ちは分かるがな。
「その通りです、オーク・キングの亡骸です。
ルーカスの町の裏手にあります森の奥にコイツが率いたと思われる集落を発見しました。
その集落で件の少年は単独でこれを撃破、王家で買い取りたい旨、提案し譲り受けました。
更にいえば、コイツの側近……つまりオーク・ジェネラルも三体この袋に入っております」
「馬鹿な!?オーク・キングを単独で倒すだと!?あり得ないだろう!!」
兄が大声を出して私の言葉を否定する。
「確かに信じがたい話でしょうね、かくいう私も目の前で見なければ信じれませんよ」
「……なるほど、それほどの力を持つ者ならばお前が伴侶に、と言うのも頷けよう。
だが、尚更その少年のスキルの正体を知る必要があるとは思わぬか?」
ここが正念場だ。
「正論で言えばそうでしょう、だが彼はどうしてもスキルの事は言えないと言った。
王家の威光を振りかざし、強引に言わせる事も出来たでしょうが、私はそれを愚策と判断しました。
考えてみて下さい、結果はともかく彼の力は下手をすれば一国の軍隊よりも強力なのですよ?
嫌がる事を強要して彼が他国に出奔したらどうしますか?それに出奔ならまだマシでしょう。
我々の”敵”となったらどうしますか?災害級を倒せる者と戦いますか?私はごめんです」
「……なるほどな、確かに一理ある」
「……それに私自身が彼を気に入りました。
性根も穏やかですし、物腰も非常に柔らかい。
伴侶として考えるなら、これ以上無い程の相手だと思います。
打算抜きにして、彼を私は支えていこうと考えております」
私の言葉を聞いて父上は静かに目を閉じる。
そして、しばらく静寂が流れる。
「よかろう、お前の嫁入りを認めよう。
その少年と縁を深め、スキルの詳細を聞く事が出来たなら改めて報告してもらえば良い」
「いえ、父上……嫁ぐ以上は彼が嫌がるのならば、私はそれを行う気はありません」
旦那様と約束した。
絶対にスキルの事は話さない、と。
父上への説得はどうしても理詰めとなってしまったが、事実ではあるので仕方の無い所だろう。
「そうか、彼と縁を持てる事を最善とするべきと言う事なのだろうな……」
父上はそう言って、再び目を閉じた。
「俺は絶対に認めん!可愛い妹を嫁になぞ出せるかっ!」
……このシスコンめ、空気を読め!
何時もお読み頂きありがとうございました。
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宜しくお願いします。
……ついにと言うかとうとうと言うか、日間二位になっておりました。
本気で驚いています。
そして、同時に皆様のおかげと感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
また感想を沢山頂き、ありがとうございます。
時間が掛かるかもしれませんが、順次返信をしたいと思います。
返信が遅くてもありがたく読ませて頂いております。
勉強になる感想ばかりで非常にありがたく思っております。
今後に生かせるよう頑張ります、ありがとうございました。
【改稿】
2016/12/16
・氾濫に関する記述を修正。