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第39話 CASE:アイシャ(2)

アイシャ視点です。

「行ってらっしゃい」という言葉に見送られ、マイン君と結婚するんだという実感が改めて湧いてくる。

考えてもみれば、家族と死別してから「行ってきます」「ただいま」という言葉は使う事が無かった。


マイン君に家族が必要だ、そう姫様に私は主張したけれど、実は私にも家族というのは必要な物だったのかもしれない。


一緒に作った朝ご飯であり、妙に緊張した夜の時間だったり……。

そう言った少しずつの事柄が、何か今まで感じた事の無い幸せな気持ちを呼び寄せてくる。


姫様の強引さに押し負けた感が否めないけど、結果的にみればこの決断は良かったのだと思う。


そんなささやかな幸福感に浸りながら職場であるギルドに到着した。

昨日の混乱状況を考えると表口から入ると、パニックになりかねないわね。


そう思い、裏口の職員専用の扉をくぐって建物内に入る。


すると今日のステージハンドの女の子達と顔を合わせた。


「……アイシャせんぱ~い、今日で本当に辞めちゃうんですかぁ?」

「それより結婚って本当なの!?アンタ結婚絶対しないと思っていたのに!!……羨ましいっ!」

「アイシャさん、今までご苦労様でした」


急な事だったから、みんなに迷惑を掛けちゃうなあ……ごめんね。


「うん、本当にみんなには悪いと思うんだけど、こう言うのって決めたら即行動しないと中々前に進まないでしょ?」


一度、頭を下げてからみんなに説明する。

元々、人のいい子達ばかり集まった職場だ。きちんと説明を繰り返すと最後にはエールを送ってくれた。


そのまま、ギルド長に正式な『退職願い』を提出しに執務室へと向かう。


「おはようございます、アイシャですがギルド長はいらっしゃいますか?」


声をかけ、ノックをすると中から「入れ」と声がする。

少し機嫌が宜しくない感じである。


失礼します、と中に入ると渋面のギルド長が腕を組んで椅子に座っていた。


「なんて顔してるんですか」


思わず、そう問いかけると更に顔を顰めて「誰のせいだ、誰の」と非常に不機嫌そうな声を返してくる。


私のせい?まあ、そうとも言うけどギルド長も悪いのよ?

マイン君のギルド抹消をしなかったらもう少し違った展開もあったでしょうに。


そんな事を考えながらも、顔に出さないよう笑顔でギルド長の机に”退職願い”をそっと置く。

チラッとそれを見ながら、更に眉を顰めるギルド長。


心の中で『そんなに顰めると皺が取れなくなるわよ』と文句を言いながら「お世話になりました」と口に出す。

そうすると流石に諦めたのか、いかにも不承不承ながら退職願いを受け取って、引き出しの中にしまう。


「……んで、何時からクランとして活動するんだ?」


「そうですね、取り敢えず姫様が戻らないと何ともならないですから、10日位は掛かるでしょうね」


取り留めの無い話をしばらくした後、執務室を退出し最後の受付業務に向かい歩いていく。





「そうそう、先に今日はどんな依頼があるのか、確認しなきゃね」


通常依頼ボードというロビーに設置している掲示板に依頼は貼り付けられており、冒険者達はその掲示板を確認してから受付で依頼を受注する。

実はそれ以外に受付嬢専用の掲示板がカウンターの奥、冒険者達の死角になっている所に存在している。


これは専属受付嬢が何を確保しているとか、指名依頼とか解禁日が決まっている依頼など冒険者にまだ提示出来ない依頼を含めた全ての依頼が掲示されている。


私が見に行こうとしているのは、当然ながらこちらの掲示板だ。

依頼を俯瞰していると世の中の動向がある程度見えてくる。


以前マイン君に提案したスライムオイルが枯渇しているとか、×××というモンスターが○○○の町周辺で大量に発生したとか、……そう言った事から事前に出来る事を予測するのだ。


これはクランではその性質上、絶対に出来ない事だ。

その地方の全ての町に存在しているからこそギルドには幅広く依頼が集まってくる。


対してクランにはごく一部に偏った依頼しか出ない為、依頼から情勢を確認する事は無理というわけだ。


そんな訳で職員用掲示板をざっと見渡していくと一件の依頼が気になった。


対象ランクはB級以上、ここより遙か北方に位置するオオセ公国にゴブリンやオークなどの魔族が大群で押し寄せてきたとの情報が入った。

その真偽の確認をしてきて欲しいと言う物だ。


その情報が本当ならばオオセ公国の被害状況の確認と現状の魔族の情勢の確認。

そして可能ならば、怪我人の救助をして欲しいという結構難易度が非常に高い依頼だ。


肝心のオオセ公国はといえば、死の大地と呼ばれるどの国も所有していない荒野を挟んで魔人国と接している。


この依頼の目的は恐らくオオセ公国で起こったと言われる魔族の侵攻に魔人国が関与しているかどうかを確認する事だろう。


魔人国と言えば、オークやゴブリンを始めとした魔族と呼ばれる人外の魔物を先兵とした武闘派の国として有名だ。

ここ十年程は支配者が代替わりしたとかで大人しかった。


だが、以前多かれ少なかれ低級の魔物、そうゴブリンやコボルトなどを使い各国へと抗争をしかけてきていた。

その為、魔人国は各国からは当然共通の倒すべき国として認識されているのである。


もし、魔人国が他国への侵攻を開始したとすれば支配者が変わった事で大人しかった魔人国が再び各国へと攻撃を仕掛けてくる可能性が出てくる。


「……これは私達にも影響があるかもしれないわね」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


最後の冒険者の受付を済ませ、仕事が終わる時間となった。

予想通り、混乱は見られたが昨日から続く事なので仕事が終わる頃には流石に落ち着いていた。


「ふう、終わったわね」


受付カウンターの上を片づけ、まだ残っている同僚に今までのお礼を言って更衣室へと向かう。

更衣室へと向かう最中、同僚で後輩のミルと同じく後輩のメアリーの二人が花束を持ってこちらに走ってくるのが見える。


「「先輩、お疲れ様でした!」」


仕事で疲れているだろうに元気よく声を出して、花束を渡してくる二人に思わず笑みが出てしまう。


「ありがとう、あと忙しくなっちゃうかもしれないけどごめんね」


そう言うと二人とも「大丈夫です!任せて下さい」と気持ちよく送り出してくれた。


立派になったわね、と思いながらも思わず、その言葉を聞き不覚にも涙がこぼれる。


こうして、わたしのギルド職員としてのキャリアは終了したのだった。

何時もお読み頂きありがとうございました。


感想、評価頂けますと励みとなります。

宜しくお願いします。


なんと本日日間ランキングが8位になっていました!

いや、本当にびっくりです。

自分の書いた作品がまさかこんなに上位に来るとは思っていませんでしたから。


昨日も書きましたがこれも皆様のおかげです。

これからもどうぞ宜しくお願いします。


なお、明日からしばらくシルフィード視点になる予定です。


宜しくお願いします。



【改稿】


2016/12/16

・氾濫に関する記述を修正。


2016/12/27 

・コブリン→ゴブリンに修正。

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