第38話 時空魔法の実践・検証
良い武器が手に入って良かったよ。
魔法短剣とはいえ、まだ発動となるキーが何か分からないので、それほどの戦力にはならないかもしれない。
当面は格闘や始まりの短剣をメインに使っていこう。
また、無理して折れちゃったら困るもんね。
いざとなればトゥワリングを【リアライズ】で作ってもいいしね。
アイシャやシルフィには一度見られてるからね。
それも有りだろうと思う。
「ただいまっ」
誰も居ないのは分かっているけど習慣となっているので、きちんと声に出す。
これは大事な事だと思うからね。
『おはよう』『こんにちは』『さようなら』『ただいま』『おやすみなさい』
お父さんとお母さんからしっかり教えられたんだ。
人間関係の構築の第一歩はまず挨拶からって。
今回の魔法短剣の事を含めて色々な人から僕は助けて貰ってる。
だから、これからもちゃんと挨拶はしなきゃね!
井戸水を飲んで少し休憩をした後、人目に付かない所という事で解体小屋に足を向ける。
目的はオーク・キングから手に入れた魔法【固有魔法・時空】の実践研究だ。
僕が知らないだけかもしれないけれど、時空魔法なんてのは今まで聞いた事が無い。
基本的に魔法というのは火・水・風・土・光・闇の六属性から成っている。
そこに雷・氷のレアと呼ばれる二属性が加わって計八属性しか無い筈なんだ。
だけど、今僕の目の前には、この八属性以外の魔法が存在する。
オーク・キングが使っていた瞬間移動みたいな使い方をするのは間違いないだろう。
けど、他にも何かしら使い方がありそうな気がする。
そこで色々実験をしてみて試してみようと、そういう事だ。
まずはオーク・キングがやっていた瞬間移動をやってみようと思う。
あそこに移動しようと解体部屋の一番奥をイメージしながら【固有魔法・時空】を行使してみる。
すると目の前に黒い渦がいきなり現れた。
これは……ここに入るという事かな?
けどなんか、流石にどうなるか分からないから、ちょっと怖いな。
うん、試しに折れた鋼鉄短剣の柄を投げ込んでみよう。
『ポイっ』
すると、僕が移動しようと思っていた部屋の一番奥に今投げ込んだ柄が現れてカランと音を立てて地面に落ちた。
「すごい……これ、すごいぞ」
この黒い渦の中に入ると目に見える範囲の場所に移動出来るという事なんだろうか?
けど、オーク・キングは【気配察知・中】の範囲外からいきなり出現した。
なんだ?何が移動範囲のルールになるんだ……。
条件について頭を悩ませていると目の前にあった黒い渦が霞むように消えていった。
なるほど、きっと制限時間があってその時間が過ぎると勝手に消えるんだな。
……おっと、移動のルールを考えなきゃ。
色々、試行錯誤してみるが何も思いつかない。
取りあえず、やってみるか……。
今度は扉越しの通路をイメージして【固有魔法・時空】を使用してみる。
さっきと同じように黒い渦が目の前に出現した。
今度は柄を投げ入れるのでは無く、まず自分の手を黒い渦にゆっくりと入れていく。
そして、肩まで入れたら引き抜いて、自分の腕に異常が無いかを確認する。
うん、特に問題は無いみたいだ。
では……黒い渦に体ごと一気に飛び込んだ。
すると、期待通りに頭の中で考えていた通路へ、扉を開ける事なく移動する事が出来た。
これは、移動する場所をイメージ出来ればそこに移動が出来ると言う事だろうか?
もう少し実験しないとダメだね。
今度はこの解体小屋から自宅の炊事場に移動してみよう。
先程と同じように自宅の炊事場をイメージして【固有魔法・時空】を使用すると三度黒い渦が目の前に出現する。
黒い渦を抜けると……炊事場だった。
やはり、この魔法はイメージした場所へと移動出来る魔法なんだ。
恐らくオーク・キングは僕の気配察知の範囲外から、あの場所へと移動をした。
そして、更に目視で僕の目の前に移動を重ねて攻撃をしてきた……そんな所だろう。
その後、何度かの検証を繰り返した結果、いくつかの事が分かった。
・イメージをした場所に移動が可能、移動距離は恐らく無制限(スライム広場までは移動出来た)
・イメージが出来ない場所、つまり一度も行った事が無い場所へは行けなかった。
・黒い渦は開いてから約一分で消失する、但し任意のタイミングでも消す事が出来る。
移動手段としても有効だし、戦闘時にも間違いなく主導権を取る事が出来る。
万が一、またオーク・キングのような災害級に出会ったとしても、相当有利に戦えるだろう。
例えば、トゥワリングを【リアライズ】で作り、強化系のスキルを使えるだけ使う。
その後、敵の真後ろに移動をして、背中から【武技:シャークグロウ】の流れで戦えば下手したら一撃で倒せてしまうかもしれない。
まあ、そこまで甘くは無いか……。
とにかくこれで使い方の一つは大体把握出来た。
次は他の使い方を考えてみよう。
……とは、言っても未知の魔法だし、全く見当がつかないよね。
と言うわけでもう一度鑑定をしてみようと思う。
【固有魔法・時空】:任意で発動、空間と時間を操る魔法。
うーん、空間というのは今検証した”空間移動”だと思うんだけど……、時間ってなんだろう。
対象物の時間を止めたり、そんな感じなのかな?
いや、だとすればオーク・キングがそれを使って来なかったのが不自然だ。
空間と時間……なんだろうなあ。
うーん、と考え込んでも全く思いつかない。
……こんな時は悩んでいても仕方ないね。
何か別の事でもして、気分を切り替えよう。
そう考えた僕は炊事場に移動して、井戸水を飲む。
そのまま、寝転がって何かやる事が無いかをぼーっと考える。
「あー、そう言えばこの前取ってきた薬草がまだ残ってたよね……」
スライムオイルを取ってきたときに少し自分の分と思って端数分を残しておいた事を思い出す。
よし、ポーションでも調合しようかな。
そう考えて、お父さんの遺してくれた収納袋から薬草を全部取り出した。
「あー、二日も経つと大分萎れてしまうよなあ……」
んん?
あれ?あれれ?
何かが頭に引っかかるぞ……。空間……空間……そして時間?
まてよ、ひょっとして収納袋って、まさに”空間”じゃないか!?
これに時間を足したら……。
なんか、凄い事思いついちゃったかもしれないぞ。
そう思って、炊事場にある小麦粉の入っている革袋を持ってきた。
中の小麦に何かあってはいけないので、布を敷いてその上に小麦粉を移動させておく。
よし、実験だっ!
手に持った袋に対し【固有魔法・時空】を発動。
袋の中に大きな空間を作るイメージと時間が止まるイメージを注いでいく。
魔法が発動した手応えが帰ってきたので、袋の中に漬け物の入った大きな樽を入れてみる。
すると……。
……入った。
収納袋が出来ちゃった……。
今度は樽を取り出して、お湯をいれた湯飲みを持ってくる。
そして収納して、ドキドキと待つ事一時間。
中から湯飲みを取り出すと……熱い。
なんか、トンでもない物が出来ちゃったぞ。
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今日、なんか尋常じゃない閲覧件数だなとちょっと疑問に思っていたら……。
なんと日間47位に本作がランクインしていました!?
え?まじ?と一瞬目を疑いましたが、どうも本当みたいです。
凄く凄く嬉しかったです。
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