第35話 幸福な朝ご飯
本日、二回更新します。
二回目の更新は15:00の予定です。
「……朝か」
別の部屋とはいえ、異性と一つ屋根の下で眠りについた事など今まで無かった。
そのおかげで正直、緊張してあまり寝る事が出来なかったよ。
特に何かをしようとしたわけではないんだけどね。
寝ぼけ眼で寝床から抜け出し、ヨタヨタと井戸まで歩いていき、顔をよく洗う。
冷たい井戸水が眠気でぼーっとした頭の中をスッキリと洗い流してくれたおかげ何とか覚醒を果たした。
「……よしっ!朝ご飯を作ろう、アイシャさん好き嫌いはあるのかな?」
気合いを入れるべく独り言を呟きながら炊事場に行くと、既にアイシャさんが朝ご飯を作り始めていた。
「あ、マイン君!おはようございます!勝手に使わせてもらってるけど大丈夫だったかな?」
あれ?食材の場所とか分からない筈なのにどうやって作ってるんだろう?
一瞬そう思いながら、炊事場の中をキョロキョロと見回すと見慣れない家具と道具がいくつかあった。
ああ、寮から持ってきた物なんだろうと推測を立て、食材の出所も理解する事が出来た。
「おはようございます!すみません、僕がやろうと思っていたのですが……。アイシャさn「ん、んっ!」…アイシャは起きるのが早いのですね」
僕がそう言うと、まず咳払いで呼び方を指摘した後、ペロっと舌を出して微笑みながら返事を返してくれた。
「いえ、いつもはもう少し遅いのですが……」
なるほど、僕と同じで緊張して寝れなかったのかもしれないね。
そりゃあ、婚約者になったとはいえ、男と一緒に一つ屋根の下で寝る訳だ。
女性の場合、僕が忍んでくる可能性があるから、余計に緊張をした事だろう。
婚約者と言っても、出会ってまだ四日目だ。
お互いをこれから知っていく努力をして、自然体で暮らせるようにならないとね。
これから僕達は家族になるわけなんだから。
と言うわけで、朝ご飯を作るのを手伝う事にする。
「手伝いますよ」
アイシャさんが作ろうとしていたのは黒パンと目玉焼きと芋のスープだった。
朝という事で軽目のメニューを選択したみたいだ。
二人で仲良く手分けして作ったおかげで、あっという間に完成する。
なんか、物語とかでよく見かける新婚さんみたいで妙に照れてしまったのは内緒だ。
よく見るとアイシャさんも顔が赤いから、同じように照れているのかもしれないね。
「「いただきます!」」
一緒に作った朝ご飯を一緒に会話を楽しみながら食べる。
いつもの静かでただお腹を満たすだけの朝食と違って凄く幸せな……心が暖かくなる時間を過ごす事が出来た。
忘れてたよ……お父さんとお母さんが居なくなってから、感じる事が出来なかったこの感じを。
ああ、そうだ。
すっかりと忘れていたけど、この機会に聞いてみた方がいいかもしれないな。
「ところでアイシャ……クランについてもう少し詳しく教えて貰えないかな?」
「クランの事?いいわよ。何が聞きたいのかしら?」
「冒険者ギルドが有るのになんでクランなんて言う物があるのかな?」
一緒に朝ご飯を作ったのが良かったかもしれない、僕達二人の言葉使いが素に近くなってきた感じだ。
シルフィ風に言えば”距離が縮まってきた”かな。
そんな事を考えながら、アイシャからの話を聞く。
「……そうね、一番の違いは依頼主かしら?」
ギルドは一般人を中心とした依頼が中心で、基本的に万の仕事を受けているのに対してクランは貴族や王族からの依頼が中心となるらしい。
勿論、例外はあるけど基本的にはそんな感じとなってるそうだ。
また、クランはギルドのように何でも引き受けるという訳では無い。
目的別に結成された組織なので、依頼内容とクランの運営目的が合致した物しか引き受ける事はない。
今、このオーガスタ王国に現存するクランはいくつかあるが、大手と呼ばれるクランは三つあるらしい。
まず、第二王子・ルイスが結成した「クラン:錬金術図書館」
その名の通り、錬金術を極めようとその手の有名人が集まっており、第二王子自身も相当な実力を持つアルケミストとの事。
元A級冒険者カシューが結成した「クラン:舞い上がる砂塵」
このクランは元高ランク冒険者が結成したというだけあって、戦闘に特化した集団だ。
純粋な武器を用いた戦闘を信条としているらしく回復系のスキルを持った者以外に魔法使いは所属していない。
護衛や討伐等の依頼を請け負っている。
そして最後の一つはかなり変わり種で「クラン:従魔の輪廻」という。
名前から分かるようにテイマーを中心としたギルドで貴重な魔獣を蒐集する事を目的とした集団である。
素材回収等を主に請け負うクランで結成者は、やはり元B級冒険者でテイルズというらしい。
この他にもいくつかクランは存在するが、規模的にはこの三つに及ばないとの事だ。
クランへの依頼は貴族や王族が持ち込む事が多いため、基本的に守秘義務がある物が殆どだ。
シルフィが王都に戻りクランの申請を国に申し込むのは、この守秘義務を果たせる団体なのかどうかを審査するのが主な目的となる。
また、クランの方向性によってはある程度の人数がいる事も必須となる。
そりゃ、そうだよね。
討伐を目当てとした団体なのに、戦力が足りてないなんて事になれば当然依頼を果たす事が出来ないんだから。
貴族や王族が冒険者ギルドを余り使わないのは構成員に荒くれ者が多い為、この守秘義務を守る事が出来ないと考えられているからだ。
尤も、一部の高名な冒険者には定期的に王族や貴族も依頼を行っており、高額な報酬が出ているようだ。
アイシャも冒険者時代に王族からの依頼を何度か受けている。
その依頼の際にシルフィと面識を持ったとの事だった。
「……なるほどね、僕等のクランはどんな方向性でいくんだろう?」
「私達の場合は、戦闘特化になるでしょうね。”舞い上がる砂塵”と同じ方向性という訳です」
「そうか、それで昨日アイシャがシルフィに人数が三人では認められないのでは無いかと話してたんだね」
「普通ならそうなんだけどね、発起人が姫様なので信用という面では間違いありません。
戦力的にも二つ名持ちが二人居て、更にオーク・キングを単独で倒したマイン君がいるんですからね。
単純な戦力だけで計れば”舞い上がる砂塵”よりも高いと思いますよ。
姫様もそれを見越してオーク・キングとオーク・ジェネラルの亡骸を預かっていったんだと思いますし……」
なるほど、結局は王様が僕に対してどういう反応をするかで色々決まると言う事だね。
これはもうシルフィを信じて、結果を待つしかないね。
クランが設立出来れば、僕が二人にスキルを打ち明ける覚悟が持てるかどうかだよね。
そんなこんなとクランの事を聞いているうちに用意した朝ご飯は綺麗に片づいた。
「ではマイン君、私はギルドに行くけれど、一人で無茶しないでね!行ってきます!」
アイシャに手を振り、見送ると朝ご飯の片づけをすべく、調理場へと一人向かう僕だった。
二人分の食器に幸せを感じながら。
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【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。