第33話 クラン設立に向けて行動開始
「さて、これで正式に君と私は婚約者と言う事だな。
”王女様”等という呼び方では無くこれからは名前で呼んで欲しい。
……そうだな、シルフィと呼んで貰えれば嬉しく思う」
むむむ、いきなりハードルが高いなあ……。
年上で美人な王女様を愛称で呼べなんて……。
けど、これから僕の奥さんになるんだし”王女様”なんて呼びたくないし、きっと呼ばれたくもないよね。
非常に照れるけど、頑張ってみよう。
「……し、しるふぃ……」
僕が震えた声で小さく愛称で呼ぶと、王女様、じゃないシルフィはにっこりと微笑んでくれた。
「ふふっ、悪くないな。呼び方一つの話なのだが君との距離が随分近くなった気がするよ」
確かにその通りだ、僕も今までよりも彼女の事をずっと身近に感じるよ。
「わ、私の事はアイシャと呼び捨てでお願いしますっ!」
まじですか!?アイシャさんを呼び捨てなんてっ!?シルフィよりもハードルが高いよっ!
「……呼び捨てじゃなきゃ……ダメですか?」
一応、聞いてみる。
「……姫様は良くて私はダメなんですか?」
いかん、アイシャさん泣きそうだ。これ反則でしょう!!!
「……あいしゃ……」
シルフィの時のように小声で呼んでみる。
すると、アイシャさんも……いや……アイシャもシルフィ同様に嬉しそうに微笑んでくれた。
その様子を見ていたシルフィはいきなり大声で笑い出した。
「あはははは、マイン……いや旦那様と呼ぶ方がいいのかな?旦那様は私達の尻にしかれそうだな」
旦那様って……いかん、これは照れる。
シルフィみたいな綺麗な人にこんな呼ばれ方をされたら困ってしまう。
それに尻にしかれるって、そりゃそうでしょう。
僕は成人したてなんだよ!?二人とも僕より年上なのに強く出る事なんて出来るわけ無いじゃないか!
「私は慣れるまでは、マイン君かしら……流石に恥ずかしいわ」
恥ずかしそうに照れているアイシャが余りにも可愛くて思わず目を離せないよ。
結婚話が出る前までは綺麗なお姉さんって認識だったけど、自分の伴侶……。
すなわち奥さんと意識してしまうと見え方がこんなに変わるもんなんだね。
シルフィも最初は騎士様がわざわざ訪ねてきた時は、怖い人に見えたけど今は優しくて綺麗な人にしか見えない。
こう言うのを惚気って言うんだろうか。
恋愛経験ゼロだった僕にはよく分からないけど、きっとそうなんだろうと思う。
二人は家族なんだ、と思うと心が暖かくなってくる。
気持ちもすごくほっとしてリラックス出来る。
さっき、シルフィにこれからの人生の事を問われた時のどん底の気分が嘘のようだ。
二人には心の底から感謝、だね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、旦那様。私はさっき話したように一度王都に帰る。そこでお願いがあるのだけど……」
シルフィが僕に頼み事?なんだろ。
よっぽどの事じゃなければ、何でも聞いちゃうけどね。
「お願い?」
「ああ、王家にオーク・キングの亡骸を売っては貰えないか?可能ならオーク・ジェネラルもお願いしたい」
ふむ、これは逆にありがたい話なのかもしれない。
肉屋さんと錬金術屋さんにオーク・キングとオーク・ジェネラルなんて持ち込んだらきっと大騒ぎになっちゃう。
かといって、放置しておけば腐ってしまう。
食べて消費出来るような量でもない。
そうなったら最後、もう残る選択肢は捨てるしかないわけだ。
けど、王家が買ってくれるというなら、きちんとした値段で買い取ってくれるだろう。
シルフィがさっき僕がオーク・キングを倒した事を王様に報告すると言ってたから、亡骸を見ても”多分”大騒ぎにはならないだろう。
ただ、魔石は何かに使える気がするので取っておきたい気がするな。
「はい、構いませんよ。……ただ、魔石だけは手元に残したいんですけど……」
「だ・ん・な・さ・ま……口調!」
……シルフィが怖い。
「……うん、構わないよ。魔石だけ残したいんだけど」
うん、素直に言い直す。
「勿論、それは構わない。こちらはお願いする立場だからな」
そんな訳でオーク・キングとオーク・ジェネラルは王家に売る事になった。
解体はしない方がいいという事なので、魔石だけ取り出してシルフィの持っている収納袋へ亡骸を移動させる。
「確かに預かった。それではこのまま王都に向かおうと思う。
10日前後で戻ってこれる筈だが……戻ってきたら今後の事を煮詰めよう。
アイシャ、旦那様の事をその間頼むぞ」
「はい、姫様。お任せ下さい」
こうして、僕とアイシャの運命を大きく変えた張本人は一路王都へと帰っていったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、私はギルドに戻りますね。ギルド長に退職の件とマイン君との結婚の話をしてきますね。
……あと、ギルドの寮に私は住んでいるんだけど、退職したら当然出て行く必要があって……」
ああ、そうだよね。
そりゃギルドを辞めたけど、寮には住ませて下さいなんて言えないよなあ。
そうなると当然、ウチに住んで貰うのが一番だよね。
うわ、緊張してきたよ……。
「ええ、そうですね。勿論ウチに来て下さい。アイシャさんがギルドに行ってる間に空き部屋を掃除しておきます」
「……呼び方……」
「鋭意、努力致します……」
シルフィに続いて呼び方の事で突っ込まれてしまった。
これは慣れるまで大変だなあ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま、戻りました」
執務室の扉を叩きながら、部屋の中にいるギルド長に声を掛ける。
中から入室の許可を確認して、部屋の中に入っていく。
「おう、戻ったか……ご苦労だったな」
苦虫を潰したような微妙な表情でギルド長は私を出迎えた。
オークの集落の件は姫様と一緒に既に報告済みだ、オーク・キングの討伐についても当然報告している。
集落にオーク・キングが居たと報告した時のギルド長の青ざめた表情は中々に見物であった。
そして、そのオーク・キングが既にマイン君の手によって倒された事を聞いた時の表情はそれ以上に必見物であった。
「それで、姫さんからマインのスキルは聞く事が出来たのか?」
どうやら姫様が何の目的でマイン君に会いに来たのかはギルド長も予想していたようだ。
まあ、それも当然だろう、つい先日の事件でマイン君のスキルは特別な物というのは分かっている。
そんな特別なスキルを持っていると思われる人物に王女が尋ねてきた、となれば少しでも頭が回る人間ならその目的を想像出来ない訳がない。
だから、ギルド長はこんな質問をしてきたのだろう。
「いえ、聞いておりません」
私がそう言うと目に見えてがっかりとした様子をギルド長は見せた。
彼はかなり今回のマイン君への処分に対し、気にしているようなのでスキルの事が姫様を通じてでも分かればマイン君をギルドへ復帰させようとでも考えていたのかもしれない。
そういう名目を持って、なんとか将来有望な冒険者を自分の管理している支部に戻したいと思ってるのだろう。
だからこそ、今なおマイン君のスキルを気にしてるのだ。
彼が当初マイン君のスキルを知りたがっていた理由とは、全く違う理由でそれを求めているという事実は皮肉な事だと思ってしまう。
最初から、ギルド長が折れておけば良かったのに、私からするとそう思わざるを得ないんだけど。
「……そうか、んで姫さんの目的は、やっぱ伴侶捜しの一環か?」
「ええ、そうですね。……実はその事で大事なお話しがあります」
マイン君の元に姫様と私が嫁ぐ事、それに伴い三人でパーティを組む事、そしてクランとして国に申請する事をギルド長に報告する。
「……まじか」
そこまで聞いて、ギルド長がかすれた声で呟く。
ギルド長にとって一番問題なのはクランの申請が国から認められた場合、マイン君をギルドに復帰させる道が閉ざされる事にある。
普通ならば、クランの申請など滅多に通る事は無い。
しかし、申請者が”姫騎士”の異名を取る凄腕の騎士であり、この国の第一王女だ。
手前味噌だが、メンバーもたった三人ながら、実力者揃いと言ってもいい。
”姫騎士””聖弓””災害級殺し”
恐らくこの申請は通るだろう。
私は心の中でご愁傷様です、と手を合わせるのだった。
「……ん?待て……そのクラン、アイシャも人数に入ってるんだろ?ギルドはどうするんだ?」
ああ、気が付きましたか。
中々、言い出しづらかったのでいいタイミングで話を振ってくれました。
「はい、ご想像の通り辞めさせて頂こうと思っています。幸い、マイン君の専属だったので何か引き継ぐ必要もありません」
「……まじか」
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【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。