第32話 シルフィードの提案
「ふむ、アイシャの気持ちは分かった。……では、私からも提案をしよう。
マインの問題を解決出来るかもしれない可能性の提案をな」
王女様からの提案。
また、何か大事になりそうだぞ……。
「提案の前に聞きたい。君は私とアイシャの二人から求婚されているが、どうする?
知っているかどうかは知らないが女性の王族と結婚する場合、国王が認めれば一夫多妻は認められるぞ。
有用なスキルを持つ者の血を広く残す為には有効な事だからな。
ああ、そうそう勘違いして欲しくないのだが私に王位継承権は無い。
私と結婚しても王族の一員として迎えられる訳ではないぞ、王家の親類扱いとして新しい家を興す事になる筈だ、まあ所謂新興貴族というヤツだな。
当然、王家から何か君に対して制限や自由を拘束する事はないから、その辺は心配しないでもいい」
「え?私も求婚した扱いになるんですか!?」
「そりゃ、そうだろう?一生彼を支えたいと言ったじゃないか」
「確かにそう言いましたけど……心の準備が……その……色々……」
なんか、結婚する事が前提の話し方じゃないでしょうか?……コレ。
まあ、スキルを人に話せないという問題さえなければ、僕には異存なんて無いんだけど。
だって二人ともすっごい美人だし、本来なら僕みたいな男が望んでも届かない高嶺の花だもん。
しかも、そんな高嶺の花である二人共と結婚出来るなんて、何かの冗談じゃないかと疑ってしまう。
けど、ギルドを辞めるアイシャさんはともかく王女様とは多分、無理だろうね。
「……正直言えば、嬉しいです。二人ともすっごく美人ですし……僕なんかには勿体ない。
ただ、何度も言いますけどスキルの事は言えないんです、だから……」
僕が沈んだ声でそう告げると、王女様はニヤリと不敵に笑い腕を組む。
な、なんでしょう、この余裕な態度は?
「スキルの件が解決するなら、結婚も吝かではない。そういう事だな?」
なんか凄い自信たっぷりに言うよね?そんな簡単に僕の問題は解決しないと思うんだけど……。
王女様の提案って一体どんな物なんだろう。
「まず、私はこれから王都に戻る。そして父上に対し、マインとの結婚を報告する……ここまではいいな?」
いや、全然良くないけど……。
「いやいや、王様にスキルの事がばれちゃダメなんですって!」
思わず王族の王女様に突っ込みを入れてしまう。
……だって、仕方ないよね?不敬とか言われないよね?
「さっき、言っただろう?絶対にスキルの事は言わないと。伴侶となる君が困る事をするわけないじゃないか。
父上にはスキルの事は絶対に言わない、代わりにオーク・キングを君が単独で倒した事を話す。
そうしないと私の相手として認めては貰えないだろうからな」
ほっ、不敬って言われなかった……って!?ほっとしてる場合じゃない!!!?
いやいやいやいや、それも不味いでしょう!?自分でも分かってるんですよ!災害級を一人で倒す事がどんなに異常な事か位!?
絶対、スキルの事に話が繋がっちゃうよね!?それ!
「そこは上手くかわしてみせるさ。で、ここからが提案だ。さっきアイシャが言っていたパーティの話だがな。
取り敢えず私もそれに混ざろう。そして国に申請をするのだ”クラン”としてな」
え?どういう事?
「姫様……それは無理がありませんか?いくら何でも三人のクランなんて認められないと思うのですが……」
「普通ならそうだろうな……だがな」
そう言いながら、王女様は僕を見て再び不敵に笑う。
「考えても見ろ、姫騎士の称号を持つ私と引退したとはいえ元B級の冒険者”聖弓”のアイシャ、更にオーク・キングを単独撃破のマインの三人だぞ?
クランとして認められる戦力は十分に満たしているだろう?」
「いや、待って下さい!お願いだから……僕の分からない話をしないで下さい。そもそもクランってなんですか!?」
僕の二度に渡る突っ込みを受けても王女様はクランについて教えてくれた。
曰く、クランとは簡単にまとめるとこんな感じらしい。
・特定の目的に特化し、個人経営でのギルドのような組織を構成した物(戦闘、商業、錬金術など)
・クランを設立するには国の承認が必要、国にとって有益と判断されない場合はまず承認されない。
・クラン並びにそれに属するメンバーがその運営上、不要と判断した依頼、指示、命令は組織として拒否する事が出来る。
・ギルドは国家間に跨がり存在するのに対し、クランは属する国でのみ、その存在を承認される。
大雑把に今回の僕の件に関係する事をまとめるとこんな所みたいだ。
ようするにクランを僕とアイシャさん、王女様で設立すれば他者(国を含む)から僕の秘密について問われても答える必要は無いと言う事みたいだ。
今のアイシャさんと王女様と同じ状態という事だね。
スキルは知らないけど僕の力を知っている状態という訳だ。
但し、クランと言う組織が認められるのはオーガスタ王国の中だけなので、他国でその特権や権利、義務は発生しない。
なるほど、確かにこれなら『あいつおかしいぞ』と思われるだけで実際に僕が何をやっているかは第三者に分からないと言う事だ。
万が一、強引に聞きだされそうになっても、国に申告すれば、その人間は国から罰せられる事になる。
もし、これが実現すれば、問題となるのは僕がアイシャさんと王女様を信頼出来るかどうかと言う事だけだろう。
勿論、これらの事は今の所は机上の空論の訳で、実際に暮らしていくうちに何かしらの問題が出る可能性はある。
だが、何も思いつかなかった今までの状態からは大きく前進出来るのは間違いなさそうだ。
「……なるほど、確かにそれなら解決するのかな?」
「まあ、国が認めてくれるかとか、父上がどういう反応をするかとか解決すべき問題はあるのだがな……まあ、私も勝算なくこんな提案はしないよ」
「クランの設立が認められるのであれば、取りあえずの問題は解決出来そうですね……結婚の事はともかくクランの設立については私も賛成します」
アイシャさんも基本的にはこの提案については賛成のようだ。
僕も他に何かしらよい案があるわけでもないので、基本的には賛成ではあるんだけど……結婚……かあ。
「あの……お二人は本当に僕と結婚してもよいと思っているんですか?正直僕よりも良い方はいくらでもいると思うんですけど……」
僕がそう尋ねると、間髪入れずに王女様が答えを返してきた。
「ああ、私は異存ない。
君は自分に自信が無いようだが、オーク・キングとの戦いを見た後では
君以上の男に巡り会うのは逆に難しいと思うがな」
「……そうね、正直自分の気持ちが君への恋愛感情なのかどうか今でも分からないのだけど、
結婚と聞いて何故か嫌だとは思わないわ」
アイシャさんも取り敢えずではあるが結婚に対して否定的ではないようだ。
むむむ、男の僕が一番躊躇しているってのはどうなんだろう……。
けど、二人がこれだけストレートに結婚に対して答えを出してくれてるんだ。
これに応えなければ男じゃないよね、きっと。
スキルの事を話すか話さないか、それはこれから一緒に暮らしていく中で信頼を築けたら考えればいいや。
二人ともスキルの事は聞かないって言ってくれてるんだし、それに今は甘えよう。
「……分かりました、結婚……しましょう。どうぞ宜しくお願いします」
こうして僕の結婚が……唐突に決まりました。
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宜しくお願いします。
結婚というのは正直唐突ではあると自分で思うのですが、マイン君を支えるには家族が
必要だろうと考え、このような形に落ち着きました。
正直に打ち明けますと、アイシャはヒロインの予定では無かったのです。
気が付いたら、あのポジションに居たため、一夫多妻という評価の分かれる流れになってしまいました。
しばらくはクランの設立に奔走しますが、新たな嫁を増やす予定は今の所ありません。
※アイシャのように気が付いたらそうなってしまったという可能性は無いわけではありませんが。
なお、クランについて次回辺りでもう少し突っ込んだ説明を入れるつもりです。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。