第31話 アイシャの提案
姫様とマイン君の話が始まった。
恐らく姫様の一番の目的は”マイン君が自分の伴侶として相応しいかどうかの確認”だろうと思う。
それに付随して、スキルの確認をするつもりでは無いかしら。
姫様にとって、いいえ王族にとって伴侶のスキルは非常に重要な意味を持つのだから。
マイン君と姫様が結婚、その事を考えると胸が苦しくなる。
この苦しみは……もしかすると私はマインに異性としての好意を抱いているのだろうか。
自分の気持ちはよく分からない…だけど、姫様とマイン君が結婚すると聞くと心がざわめくのだ。
……確かに彼の事は弟のように気に掛かる存在だった。
礼儀正しくて、いざとなれば女性の盾にもなれる勇気を持つ少年。
そして、何かを期待をしてしまう存在感も合わせ持っている。
彼の専属受付嬢を受けた時に感じた予感めいた物、それは間違い無かったと思う。
だってそうでしょ、単独で災害級の魔物を狩るなんて、絶対にあり得ない偉業なのだから。
こんな事は恐らく英雄として名高い国王様でも無理な所行だと思う。
そんな大きな力を持っている彼が私の目の前で泣いている……それも号泣だ。
姫様の言った言葉が彼の心を深く抉ったのだろう。
彼はまだ成人したての少年だ。
しかも、両親を早いうちに無くし、今日まで必死に一人で生きてきたのだ。
やっと成人を迎え、スキルを授かりに神殿に向かった時の彼の心は間違い無く、これからの人生に対する希望の光に満ち溢れていたに違いない。
そして、私は聞いてないので分からないが彼は素晴らしいスキルを授かった、筈だ。
きっと彼にとっては人生で最上の喜びであっただろう事は想像に余りある。
だが、先程の姫様の言葉は彼の希望に満ちあふれていた未来を真正面から打ち砕いてしまった。
勿論、姫様はそんな事は全くもって意図してはいなかったのだろうが。
恐らくマイン君もスキルを隠して生活をしていく事の難しさを理解していたのだろう。
だけど、それを深く考えてはいなかった筈だ。
いや、考えないようにしていたのかもしれない。
だから、姫様の真正面からの言葉に……彼は涙したのだと思う。
姫様は悪い人ではないのだけど、こういう心の機微を中々理解出来ないのは彼女の悪い部分だと思う。
マイン君の問題で取り急ぎ、解決しなければならない事はなんだろう。
……多分、彼に必要なのは信頼出来て何でも相談出来る仲間なんだと思う。
今、泣いているのも彼の中で行き場のない気持ち、感情が爆発したからだろう。
もし、今までに彼の中の不安だった気持ちを相談出来る人間が側にいたら、こんな事にならなかったと思う。
彼には心を支えてくれる……心の底から信頼出来る相手が必要なんだ。
今も泣いている彼を見て、私の心は決まった。
後は私の中にある強い想いを彼に伝えるだけだ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マイン君!私とパーティを組みましょう!!!」
泣いている僕にアイシャさんがいきなり声を掛けてきた。
しかも、全く思いも寄らない事を提案している。
余りにも予想外過ぎて、思わず泣くのが止まってしまったよ……。
「……え?」
ああ、王女様も鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしているや。
多分、僕も同じような顔をしてるんだろうけど……。
「マイン君、今ここで誓うわ。私は貴方を絶対に裏切らないって、スキルも別に教えてくれなくていい!
世界が敵に回っても私だけは貴方の味方でいてあげる。この先の人生、誰にも相談出来ないと言うなら私がいて上げる。
だからこれからは怯えながら生きる心配なんてしなくていいわ」
突然のアイシャさんの剣幕に僕はどうしたらいいのか分からない。
ただただ、ぽかんと大口を開けて、アイシャさんの言葉を聞くだけだ。
そんなアイシャさんの様子と僕の姿を見て、王女様は苦笑を浮かべている。
だってそりゃ、そうだろう。
その気持ちは現在進行形で僕も良く分かる。
「なあ、アイシャ……それはプロポーズなのか?」
呆れながら、王女様がアイシャさんに問いかける。
ああ、確かに!言われてみればプロポーズとも取れる発言だ。
王女様に指摘されてアイシャさんはハッと我に帰ったのか、自分の発言を思いだし顔を真っ赤に染めた。
「え、え?い、いやそ、そんなこと、は……確かに……マイン君の事は気になりますけど……」
アイシャさんの挙動が明らかにおかしくなりだした。
「マインとパーティを組むと言うがギルドはどうする気だ?受付嬢をしながらパーティは組めないだろう」
テンパっているアイシャさんに王女様は冷静に問いかける。
そうだよ、アイシャさんはギルドの人気受付嬢だ。
僕とパーティを組む時間なんてない。……とてもじゃないけど取れる訳が無い。
するとアイシャさんは真剣な表情となり、思ってる事を話し始めた。
「……ギルド長がマイン君のギルド登録抹消を言い始めた時からずっと考えていました。これでいいのか、と」
アイシャさんはどうやら僕がギルドカードを返却した辺りから、ずっとこの前のギルド長の対応について考えてくれていたらしい。
そして、彼女自身が僕に何かを成し遂げるような予感めいた物を感じていたとの事。
だからこそ、今まで誰に誘われても断っていた専属受付嬢を引き受けてくれたんだって。
そしてその予感はオーク・キングとの戦いを目の当たりにして、確信に変わったそうだ。
王女様の目的(伴侶の見定め)が想像出来た彼女は自分でも気が付いていないうちに嫉妬に近い感情を持ちモヤモヤとしていたとの事。
そこにきて、僕が号泣したものだからついつい感情を顕わにしてしまったらしい。
「ギルドなら辞めるつもりですよ」
アイシャさんは何の躊躇いも無くきっぱりと言い切った。
僕の為にいいのだろうか……けど、やっぱりアイシャさんは信用が出来る。
そんな確信を持つ事が出来た。
アイシャさんとだったらパーティを組んでもきっと大丈夫だ。
根本的な問題解決にはならないけれど、僕一人で考えるよりも絶対にいい答えが出ると思う。
「私はマイン君が何かを成し遂げるというなら、それをこの目で見てみたい。そして心が壊れないよう支えたいと思ってます。
姫様はプロポーズかと先程、私に問いましたが、この気持ちが恋と言う物なのか今は分かりません。
そもそもマイン君とは歳も離れてますし……出会ったばかりですし……」
王女様に続いて、アイシャさんまで……。
いきなり湧いて出た恋愛話に僕の頭の中は全くついていけていない。
そりゃ、僕も男だし、アイシャさんや王女様のような美人と結婚出来ると言われれば、嬉しく無いわけがない。
……ただ、余りにも唐突すぎるし、問題の解決にはならないよね。
「ふむ、アイシャの気持ちは分かった。……では、私からも提案をしよう。
マインの問題を解決出来るかもしれない可能性の提案をな」
王女様からの提案。
また、何か大事になりそうだぞ……。
何時もお読み頂きありがとうございました。
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宜しくお願いします。
何度も見直しましたが、上手く纏まらずこのような感じになりました。
出来るだけ唐突感を出したく無かったのですが、今の所はこれが精一杯です。
お見苦しくすみません……orz
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。