第03話 組み合わせの奇跡
そして、冷静になった僕は……とんでもない事を思いついてしまった。
スキルは組み合わせで、その能力を大きく向上させる。
王様の高能力な剣術+腕力強化のように、単体の効果をかさ上げし、より強力なスキルとなったように。
もしかすると、僕の得た二つのスキルも相乗効果のある組み合わせなのかもしれない。
僕はその思いつきとその得られるかもしれない効果に期待と恐怖を覚えながら、実践してみる事にする。
まず、ゲスカルトを鑑定する。
名前:ゲスカルト
種族:ヒューム
性別:男
年齢:31歳
職業:盗賊
【スキル】
裁縫
短剣・極
俊足(小)
当然、先程鑑定した内容と変わらない。
そして、ここで僕は【カット】を使用する。
対象はゲスカルトの所持するスキル【短剣・極】だ。
すると、脳内に先程のペースト同様、カットが発動した手応えが返ってくる。
そして、もう一度ゲスカルトを鑑定する。
名前:ゲスカルト
種族:ヒューム
性別:男
年齢:31歳
職業:盗賊
【スキル】
裁縫
俊足(小)
!!!
思った通りだ、スキルを切り取りする事が出来た!
【カット】は目に見えた物を”切り取る”スキルだ。
【鑑定・全】を使う事で目で(正確には脳内で)見る事が出来る情報もその対象となるんだ。
そして、切り取ったスキルは……。
ペーストを使って僕のスキル欄に貼り付けてみる。
名前:マイン
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人見習い
【スキル】
鑑定・全
カット&ペースト
短剣・極
!!!!!!!!!
……出来た!出来てしまった!!
なんて事だ、人は神から授かる事でしか得る事が出来ないスキルを僕は更に得る手段を手に入れてしまった。
自分自身に起こっているこのトンでもない出来事にとてつもない衝撃を受ける。
果たしていいのだろうか、僕がこんな力を手に入れてしまって。
ある意味、ゲスカルトの正体を知った時よりも大きな衝撃を受けた僕はしばらく呆然としてしまう。
だが、動揺も時間が立てば徐々に小さくなっていき、次第に冷静になっていく。
家についたら、これから先どうしていくのか考えないといけないな……。
まずは、ゲスカルトから残りのスキルも切り取ろう。僕のスキル欄に貼り付けよう。
名前:ゲスカルト
種族:ヒューム
性別:男
年齢:31歳
職業:盗賊
【スキル】
なし
よし、これでいい。
仮にヤツの目的がルーカスの町にあったとしても、思うようにはいかないだろう。
……多分。
僕が出来る事はここまでだろう。
いや、町についたらヤツの動向を見た上で、門番の人に相談してみよう。
そうすれば、門番の人が対処してくれるはずだ。
取り敢えず、ヤツの対処について目処が立った事で、全身から緊張感が抜けていく。
まだ、馬車の中で暴れ出す可能性は十分あるので、油断は出来ないけど体の力を抜いてリラックスする事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王都を出発して、そろそろ五時間程経ったくらいだろうか。
遂に危惧していた事が起こった。
恐らく、ゲスカルトの仲間達なのだろう。
唐突にこの馬車を目がけて向かってくる武装した集団を発見した。
馬車内の人達が外に目を向けた瞬間、満を持してヤツが動いた。
「ヒャッハー、てめえら大人しく……ウガッ」
……が、しかし事前に仕込んだペーストで靴が床に貼り付いていた為、勢いよく立ち上がった物の立ち上がった勢いそのままに豪快に床に倒れ込んでしまった。
突然の事だったが、すぐに車内にいた冒険者達に取り押さえられ縛り上げられる。
そして、護衛についている冒険者とおぼしき人に合流し、向かってくる盗賊集団を迎撃する体制を整える。
「俺達も力を貸そう、御者さんよ、当然報酬は少しでも出してくれるんだろ?」
「ええ、勿論です」
そんな会話を聞きながら、僕は向かってくる集団を急いで鑑定する。
集団は全部で八人、特に気になったのはこの三人だ。
名前:ラフレ
種族:ヒューム
性別:女
年齢:26歳
職業:盗賊
【スキル】
両手剣
視力強化・中
名前:アイーン
種族:ヒューム
性別:男
年齢:30歳
職業:盗賊
【スキル】
礼儀作法
脚力強化・小
名前:ショウブ
種族:ヒューム
性別:男
年齢:42歳
職業:盗賊
【スキル】
魔法・風
残りの五人は戦闘向きのスキルを持っておらず、脅威とは思わなかった。
取り敢えず、魔法を使えるヤツは危険だ。
早速切り取りを使って無力化し、僕のスキルへ貼り付ける。
更に残りの二人からも、素早くスキルを切り取りを完了させ、僕のスキルへと貼り付けていく。
……しかし、盗賊なのに礼儀作法って……。
スキルが使えない事に最初に気が付いたのは、ショウブという名の盗賊だった。
遠距離から魔法を使うつもりだったんだろう。
何度使おうとしても、魔法が発現しない事で目に見えて動揺している。
次に、気が付いたのはラフレという女盗賊だ。
急に視力が落ちたのだろう。
目を擦るそぶりを何度も行っている。
そんな様子を見ているうちに距離はどんどんと縮まり盗賊達と冒険者達は戦闘へと突入する。
スキルが使えなくなった事で思うように戦う事が出来ない盗賊達と数で勝り、戦闘経験も豊富な冒険者達とでは戦いにもならなかった。
本当は内部からゲスカルトが攪乱し、その隙に魔法を含めた攻撃でこちらを制圧するつもりだったのだろう。
大前提が全て覆されてしまった盗賊達は一人、二人と倒されていく。
そして戦闘開始から10分後、ゲスカルトを含め九人いた盗賊達は二名が死亡、七名が捕らえられ僕達の馬車は無事に生き残る事が出来たのだ。