第283話 アイシャの実家と王家からの新たな依頼(1)
「……ところでマイン君、姫様が帰ってきたらどうするの?」
アイシャが僕にそう尋ねてきた。
「……うん、前に話していた行ける場所を増やす旅に出ようと思ってるんだ」
「そう言えば世界樹の迷宮まで行って止まっていたわね、天空の迷宮というのもあるんだったわね」
「……い、一体何の話ですか?聞いた事の無い迷宮の名前が出ましたが?」
シーラが訳が分からないと口を挟む。
「うん、取り急ぎ、牢獄の迷宮の傍にあるというアルザの町に行こうと思ってるんだ」
僕がそう宣言するとアイシャは目に見えて落ち込んだ表情を見せる。
「……マイン君」
「ごめんね、アイシャ僕はどうしてもアイシャのご両親にきちんと挨拶がしたいんだよ」
「ありがとう。そう言ってくれるのはすごく嬉しい。……けど、うちの両親を見て失望されるのが私は怖いの」
「……大丈夫だよ、僕は何があったってアイシャを失望したりしないし、ご両親の事もね!」
僕は胸を張りアイシャの目をしっかりと見据えてそう断言した。
「……わかったわ、そこまで言うならもう止めないわ」
よし、消極的ではあるけどアイシャの了解を得る事が出来た。次の目的地はアルザの町だね。商業都市という位だから
きっと面白い物が手に入るんじゃないだろうかという期待もある。
行き先が決まり、アイシャの消極的同意も得られた事で僕はうきうき、しながらシルフィの帰りを待つ事にしたんだ。
すると暇だったのか、わっふるが僕の背中にぴょんと飛び乗ってきた。
「わふっ」
そしていつのごとくよいしょよいしょとよじ登り、定位置の僕の頭の上に到着し、わふっと口を開けてそのまま眠ってしまった。
その様子を見たサーシャが目を輝かせてぷるぷる震えていた。
『な、なんて可愛いのかしら。わっふるちゃん!』
そういえばサーシャは初めて会ったときからわっふるに心奪われていたっけ。
僕の家に来てからもサーシャは積極的にわっふると接触していた。
わっふるも今ではすっかりとサーシャに慣れてたまにサーシャの頭の上に乗ってる事もあるんだ。
わっふるが言うには、シルフィとサーシャは髪の毛が多いから乗りにくいと言う事で僕の頭がベストポジションらしい。
◆◇◆◇◆
シルフィSide
「兄上っ!」
私が名前を呼びながら兄上の私室の扉を開けると兄上は不在で先日兄上の妻となったスターシオン殿が出迎えてくれた。
「あらあら、シルフィード殿下ではないですか?どうされたのですか主人は……アルト殿は騎士団の寄宿舎に行っておられますよ」
おっとりとした口調でスターシオン殿は教えてくれた。
く、寄宿舎か……面倒な場所に……。
とはいえ、面倒だと言ってはいられない。私は礼を述べて兄上の部屋をあとにした。
駆け足で寄宿まで移動すると、入り口には第二騎士団長のセシルと先日旦那様と模擬戦を行ったカールが話し込んでいた。
いかんな、これは……カールのやつに捕まると面倒くさい事になってしまう。
なぜだか判らないがカールのやつは私を見つけ話しかけてくるととにかく長い同じ事を何度も何度も話し続けるのだ。
そして私が話を終わらせようとすると、先回りしてまた話を継続してくる。悪い人間では無いが正直言うと私は苦手だ。
ああやってドアの前に陣取られるとカールを回避して中に入るのは無理だろう。
私は覚悟を決めて大きく息を吸い込み、ツカツカと廊下を歩き出した。廊下を歩けば当然私の来ている鎧がガチャガチャと金属が擦れる音を
出すので、セシルとカールがこちらに気がつく事となる。
「……シ、シルフィード殿下」
私の姿を視認したカールがそう口に出すのが耳に入ってくる。
「任務ご苦労、セシル団長 兄上に用事があって参った。道を空けてくれ」
敢えて私はカールは無視して二人に声をかけた。
「はっ、シルフィード殿下、アルト殿下はこの奥でございます!」
セシルが部屋の中に居る兄上に聞こえるよう、大声でそう返事を返してきた。
私はドアを軽くノックして声をかける。
「兄上、私だ。シルフィードだ」
すると間髪をいれずに中から返事が返ってきた。
「おう、シルフィか?丁度良いとこに来た。中に入ってくれ」
……丁度良いところ?
一体何の事だろう?兄上が私に用事など珍しい事もあるものだ。
部屋の中に入ると、血まみれになり、砕け果てた鎧を前に難しい表情をしている兄上の姿が目に入った。
「おおっ、シルフィどうした?義弟絡みで何かあったのか?」
……全く、何かあるとすぐに旦那様絡みと考えるのは辞めてほしいものだな。
そう考えながらも自慢の伴侶が今まで行ってきた事が脳裏を掠めてふぅとため息が漏れた。
……確かにそう思われていても仕方ないなと自虐気味に笑みもこぼれる。
「実はな、兄上…… 先日、うちのクランで牢獄の迷宮という場所に行ってな」
「牢獄の迷宮?聞いた事が無い迷宮だな?それでどうした」
「そこで、とんでもない武器を入手したのだが、うちには扱える者がいないので売ろうかと考えているんだがいくらで売ればいいのか
皆目見当がつかない。そこで兄上に相談ようと……」
「とんでもない武器だと!!?一体どんなのだ?」
「破級の両手剣と神級の両手斧だ。」
「破級と神級だとォッ!!」
兄上の驚きは当然の事だろう。一般的に流通している武器はせいぜい私の持つライナス・スワードのような超級までだ。
破級など一生目にする事が無いだろう。ましてやアーティファクト等は伝説の類いだ。
「……全く、義弟のやつはどこまで規格外なんだ??」
「で、どうなんだ兄上?」
「すまんが検討もつかんよ。神級なんぞそれこそ国が買える程の価値がある。」
「だが、義弟の事だ、スキルも手に入れたのだろう?お前達で使った方がいいんじゃないか?」
「うん、そういう話も確かに出たのだが、私は片手剣で慣れているし、アイシャは弓を新調したばかりだし、ピロースのヤツは両手鎌を使うと言うし
旦那様に至っては短剣で更に素晴らしい武器を持ってる訳だしな」
「そういう事か。なら相談だが私にその2つの武器を預けては貰えないだろうか?」
「ど、どういう事だ?」
兄上に詳細を尋ねたところ、先ほど見ていた鎧の残骸に指を向けながら驚きの事実を告げられた。
先だって話があった王都に出現し出したという石像の魔物が生み出す魔物に幽霊のような魔物が存在するらしく
その魔物と相対するとその騎士は突然気が触れたように仲間の騎士に向かって剣を振るい出して騎士団に甚大な被害がでているようだ。
そこで国王である父上は私達の永久なる向日葵とカシューの舞い上がる砂塵に討伐依頼を出す事に決めたそうだ。
兄上は未知の魔物に対して強力な武器を欲しており、今回、私が持ってきた話はまさに渡りに船だったらしい。
「……兄上の言いたい事はよく判った。私の判断で決める事が出来ないので一度持ち帰らせてもらえないだろうか」
私がそう告げると兄上は涼しげな表情で「判った。帰るのなら私も一緒に行こう。さっきも話したとおりクランへの依頼があるからな」
いつも拙作をお読みただきありがとうございます。
更新が不定期になっており誠に申し訳有りません。
病気以後の文章の修正作業ですが地道に開始しました。
予想していたよりも早く修正作業出来そうです。
コレに伴い、本編の更新もゆっくり進めて参ります。
以下宣伝です。
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『カット&ペーストでこの世界を生きていく』コミカライズ
原作:咲夜
漫画:加藤コウキ様
キャラクター原案:PiNe様
去る9月19日に集英社ヤングジャンプコミックスから第1巻
が発売となっております。
おかげさまで大好評となっているようで、各書店様で入手しづらい状態になっているそうですが
見かけましたら是非、お手に取って頂ければと思います。
なお、コミックス版は若干原作と違っている展開がございます。
また巻末のオマケページにはヒヨルドとライルの後日談が4コマで掲載されています。
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また10月10日に原作書籍版3巻が発売が決定しました。
9月10日の予定から1ヶ月後ろ倒しになりました。
本日、刷り上がったばかりの3巻が私の手元に届いていますので10/10には間違い無く発売になると思います。
また、3巻からイラストレイター様が変更となります。
アマゾンの予約はすでに始まっております。
是非、お手にとって頂ければと思います。
皆さんの応援が続けば更なる[次]が見えて参ります。
今後とも何卒、変わらぬご支援、応援のほど宜しくお願い致します。
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ツイッター@Sakuya_Liveの方でまた続報は逐次アナウンス致します。
こちらの方も覗いて頂ければと思います。
本編の方ですが今後は新展開を交え元々のプロット通りの展開を書いていきます。
活動報告の方で、「酒場の用心棒」の続きをリクエスト頂きましたので
時間が取れれば、そちらも考えたいと思います。
更新はのんびりと行いますのでお待ち下さい。