第268話 シーラ姫、結婚の行方
「シーラ姫、結婚はしなくても僕達のクランに入って貰う方法があるんだ」
「……ぇ?」
僕の真顔での返答にシーラは気の抜けた様子で呟いた。
「実はね、貴方達ローラシア王国の方々が神獣シヴァ様と縁を結ばれたように僕も神獣フェンリル様と
縁を結んでいるんだよ」
僕がそう答えるとローラシア王が大声で会話に割り込んできた。
「シヴァと縁だとっ!! 巫山戯た事をぬかすでない! アレは疫病神だ」
神獣様の事を疫病神なんて言うなんて……。
まあ、一度殺された訳だから良い感情は無いからだろうけど……。
勇者召喚等という禁忌に手を出した自分が悪いという事は考えないのかな?
「神の使いである神獣様を悪く言われるのですか?」
僕が強い口調でローラシア王にそう告げるとファーレン様も会話に加わってきた。
「ジョージよ気持ちは理解出来ない事もないが、発端はお主が原因であろう?」
「それにマインを軽視しているようだが、マインは神獣様と知己を得ている、なにせ神獣様が己の子供を託す程だからな」
「こ、子供を託すだとっ!!?神獣がヒューム族にか?あり得ない」
『わっふる、クゥ僕の居場所わかるかい?』
いいさ。そこまで言うなら見せて上げるよ、僕の家族を、ね!
「ファーレン様、今わっふるとクゥを呼びましたのでドアを開けても良いでしょうか」
ファーレン様は「……ほう」と一息吐き、自らドアの前まで移動していった。
「ジョージよ、あり得ないかどうかその目でしっかりと見るがいい、間もなく神獣様の子供達がここにやってくる」
『わふ。すぐいくぞ、まいん!まってろ』
『きゅっきゅー、まいんおにいさま、くうはすぐにいくのですきゅきゅー』
【念話】で二匹から返事が返ってくるのとほぼ同時にドアのゴンゴンとノック音が響き渡った。
ファーレン様がそれを確認してすっとドアを開くとピンクと紫の物体が猛烈な勢いで飛び込んで来た。
……そう、言うまでも無く我が愛すべき家族の一員。わっふるとクゥだ。
「……な、なんなのだ??この魔物達は……」
「神獣様の子供達だ……」
「わっふるおいで」
僕がそう呼びかけるとわっふるはわふっと一声あげて嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振って僕の背中にとびつき、ヨイショヨイショと良い登って定位置の頭の上の乗っかった。
「この子が神獣フェンリル様の長男でわっふるです」
僕がローラシア王にそう告げるとわっふるは美前足をあげてローラシア王に向かって手を振った。
「クゥもおいで」
クウにも声を掛けた。
すると凄い勢いでクゥは僕に向かってくる。
『きゅきゅきゅきゅきゅ~~~』
「そ、そのピンクの物体はなんだ?」
「この子は神獣ケートス様の一人娘のクゥです」
「……フェンリルとケートスだとぉ」
ローラシア王は大声で叫んで口から泡を盛大に吹き出してバタッとその場で倒れてしまった。
「そ、それで結婚しないでクランに加入できるほ方法とはなんだろう?」
シーラが舞を躍りながら僕に問いかけた。
シーラが舞うのをやめると倒れていたローラシア王がむくっと立ち上がった。
「今のは?」
「かいふく……いえ、正確には気付けのための舞です」
こともなげにシーラは答えた。
だが、僕は……初めて見たシーラの舞に魅了されてしまった。
「凄いや、流石治療師として名高い巫女姫様だね!」
興奮気味にそう言ってから、僕は【神獣の契約】の事を説明したんだ。
すると、ローラシア王が大声で僕らの会話に割り込んできたんだ。
「ゆ、揺るさ~~~~ん。神獣の契約だとぉ。そんな事は【絶対に許さん。それぐらいなら結婚しろ!!!認めてやる。お前達の結婚を!!!」
「ジョージ……そこまで神獣様を毛嫌いする事は無いだろう?」
「神獣様の契約はそんなに怖い物ではないぞ。我がオーガスタ家ではほぼ全員が受けておるしな」
ファーレン様がローラシア王に向かってそう言い放った。
「お前達が結婚すれば儂はお前の義父となるのだ。マインは神獣に貴様が儂への攻撃を辞めるように説得するのだ」
「そうだ、それがいい!。貴様が責任持って神獣を説得するのだ」
……なんで僕がそんな事をする必要があるんだろうか……?身から出た錆だろうに。
「とりあえず、シーラ姫との結婚は保留という事で良いですかね?それに仮に結婚しても僕は神獣様にそんな事は頼みませんよ」
僕がそう宣言すると、シーラは俯き悲しそうにしている。
「じゃあ、ファーレン様、僕は戻りますね。お義兄さん達を待たせていますから」
「判った。ついでにルイス達も連れて行くが良い」
……確かにルイス様達も話し合いに参加してもらうのが良いだろう。
ルカ様は移動扉の事は知ってるので移動扉を使う事に問題無い。
シーラともう少しちゃんと話した方がいだろうと思い、彼女も一緒に連れて行く事にした。
「わっふる、クゥいくよ」
僕達はシーラを伴ってルイス様とルカ様を探しに出た。
「マイン殿はわたしとは結婚したくないのか?」
廊下に出た途端、シーラが必死な表情でそう訪ねてきた。
「う~ん、正直言えば僕にはもう素敵なお嫁さんがいるからね これ以上は分不相応だと思うんだよ。ルカ様からの求婚も断ってるしね」
「わ、私は マイン殿との結婚の話が出てからあなたの事だけを考えている。……だから良かったら是非私を娶って貰いたいんだ」
シーラの真剣なまなざしを見ているとさきほどの彼女の舞が脳裏に浮かび上がってきた。
……うん、そうだね、どうやら僕も彼女の事が気になるみたいだ。
「少し、待って貰えないかな? ルカ様に許可を貰えたらという事ではだめかな?」
いくらルカ様がルイス様に嫁ぐからといって、彼女に一言も無しにシーラを娶る訳にはいかないだろう。
……さて、ルイス様とルカ様はどこにいるのかな?
『わっふる、ルイス様とルカ様がどこに居るか、感知出来ないかな?』
ここはわっふるの感知能力に頼ろう。
僕がそう訪ねるとわっふるはくんくんと鼻をならして気配を探ってくれた。
「マイン殿はその神獣様の子供達と意思の疎通が出来るのか?」
シーラが遠慮がちに問い掛けてきた。
「うん、今ルイス様とルカ様の居場所を探して貰ってるんだ」
『わふ。まいん見つけたぞこっちだ』
わっふるが反対方向へ駆けだして行く。
「見つけたみたいだ」
そうシーラに告げてわっふるの後について僕も走り出した。
しばらく進んだ先のドアをわっふるがガリガリと爪で削っていた。
『わっふる。ダメだよ』
慌てて辞めるように【念話】で話しかける。
するとわっふるは扉をひっかくのをやめて僕に向かって右前足を挙げる「わふっ」
『まいん~、ここにふたりがいるぞー』
そうか、この部屋か。僕はわっぷるを掲げあげて頭の上に乗せてドアを軽くノックした。
すると中から「誰だ?」と緊張した様子のルイス様の声が聞こえてきた。
「僕です。マインです」
そう答えると安心したように声が帰ってきた。
「……なんだ、義兄上か、どうぞ入って下さい」
ドアを開けて中に入ると震えながらルイス様に抱きついているルカ様と目があった。
「さっきのドアを削っていた音は……わっふる殿だったのか?」
「ああ、怖かった~。もうわっふるちゃんたらっ!めっだよ」
ルカ姫がわっふるを指差してぷんぷんと怒っていた。
わっふるはルカ様に怒られてしゅんとして僕の頭の上で寝たふりをしている。
「……そ、それでは義兄上、用件を聞こう」
ルカ姫をそっと抱きしめながらルイス殿下は僕にそう切り出した。
「えぇ、お義兄さん達と結婚式のひどりについて打ち合わせをしているんです、そこでお二人にも参加して貰おうと思いまして」
「なるほど、ご両親が移動するための時間もみないといけないからか……」
流石ルイス様だ、事情を話していないと言うのに一発で理解しちゃったよ。
「そういう事です。ルーカスの僕のクランハウスでお義兄さん達が待ってます。行きましょう」
「……判った……ん?シーラ様もおみえなのか?」
「はて、シーラ様は結婚しなくてもよくなったのではないのか?父上がそんな事を言っていたが……」
ルイス様がシーラをみてそんな事を呟いた。
するとルカ様が僕に向かって笑顔で話しかけてきたのだ。
「マイン様、私の事が原因でシーラ様との結婚を取りやめるならやめてくださいね」
「確かに、私はマイン様の事が好きでした、けど、今の私には|この人(ルイス殿下)が居てくれます」
「シーラ様、マイン様に少しでも想いがあるのなら遠慮なんかしないで下さい」
「ああ、ルカ。よく判ったよ。マイン殿、私を貰ってくれないか?」
せっかくまとまりかけていた話が振り出しに戻ってしまったよ。
結果的に僕らから切り出さないでルカ様の許可を得られた訳だけど……。
…ルカ様の気持ちが問題無いと言うのは心理的には随分楽になるよね。
改めて真剣に考えてみよう。
「まずは取りあえずはお互いを理解する時間を持つ為にという事で神獣様の契約というのを受けようと思う」
シーラがルカ様の言葉を聞き、そう提案してきた。
確かに、それはよいアイデアだと思う。
僕とシーラにはお互いを知る時間が絶対に必要だろう。
例のレインボードラゴンを倒す旅でお互いをしれば良いだろう。
いつも拙作をお読みただきありがとうございます。
日々の更新が滞っておりまして誠に申し訳有りません。
活動報告の報告の方で第三回人気投票を行っております。
是非投票お願い致します。
投票数が少ない場合、ノーコンテスト(企画無効)と致します。
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何卒お願い致します。
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原作:咲夜
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5/30から連載開始しております。毎週水曜更新との事です。
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加藤先生がとても頑張って頂いておりまして原作者の私から見ても続きが気になる出来映えです。
よろしければ是非こちらも読んで頂ければと思います。
ツイッター@Sakuya_Liveの方でまた続報は逐次アナウンス致します。
こちらの方も覗いて頂ければと思います。