第27話 その時、彼女達は(1)
アイシャ視点です。
本日、二回更新します。
二回目の更新は15:00の予定です。
「……ここが彼の家ですね」
マイン君のスキルの事をあれこれ考えているうちに目的地である彼の家に到着した。
一人暮らしだと聞いていたけど、思ったよりも大きなお家だ。
なんでも亡くなられた御父様が名の通った狩人だったらしく、結構な収入を得ていたとの事だ。
ギルドを抹消されたマイン君は御父様の後を継いで狩人になるつもりなんだろう。
私がそんな事を考えていると姫様は「ふむ」と一言呟いて、玄関をノックした。
「マイン殿、すまぬが出てきては貰えぬか」
反応が無いので、再度同じ事を繰り返すが、やはり返事は帰ってこない。どうやら留守のようだ。
「……さてと、どうしたものか」
姫様はマイン君の足取りが無くなってしまった事でかなり気を落とされているようだ。
姫様の目的を知ってしまった、私はと言うと少し安心したようなホッとしたような複雑な気分である。
……そう、姫様の目的は……私には関係ない筈なのに。
何故だか、もやもやした気分を整理できずにいると、ふいに背後から声を掛けられた。
「あんたらマインの坊主に用事か?あいつならオークの肉を取ってくるって町の裏手にある森に出かけていったぞ」
振り返ると血がついたエプロンをした恰幅の良いおじさんが声を掛けてきたのが分かった。
「肉屋のおじさん!?」
私がそう呼ぶと、おじさんも私に気が付いたらしくよぉっと手を上げてきた。
「おお、アイシャちゃんじゃねーか、相変わらずの美人さんだな!」
「おじさん、マイン君がオークを狩りに行ったって本当なんですか!?」
「本当だぜ!この前もオークの肉を売りに来たしな、まったく大した坊主だぜ。余程いいスキルを神さんから貰ったんだろうよ!」
姫様は新たなマイン君の足取りを得た事に歓喜の表情を浮かべている事だろう……フードを被っているから見えないけれど。
当然、このまま彼の後を追う事になるだろう、オークを狩りに行ったという事は、姫様の護衛のために持ってきた弓は無駄にならない筈だ。
それに彼には悪いけど、元冒険者の私なら戦っている姿を見ればある程度どんなスキルを持っているのか確認出来る。
無論、ギルド長に報告する気は無いけれど、やはり気になる事に変わりはない。
私と姫様はおじさんにお礼を述べて、マイン君が向かったと言う町の裏手に広がる森の中へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ズガガガーーンッ!』
森に足を踏み入れて、かなり奥まで進んで来たが一向にマイン君の姿はおろかオークすら見つける事が出来なかった。
どうしたものかと思案していると、突然森の奥の方から何かの破壊音が聞こえてきた。
……恐らく彼だ、彼がオークと戦っている音だろう。
姫様も同じ事を考えたのだろう、フードを下ろし素顔を顕わにし、私に頷いてみせる。
「急ぐぞ、アイシャっ!!」
姫様がそう言って駆け出していく。勿論、私も遅れず付いていく。
音の鳴った方向に向かって数分ほど走って行くと、木々が徐々に少なくなっていった。
そして、森を抜けたその先で私が見た物は……オークの集落だった。
「……こんな場所にオークの集落があるなんて……」
私が呆然としていると、姫様がマイン君を見つけたようだ。
「ま、まずいぞ、アイシャっ!」
慌てふためく姫様が見ている方向に目を向けると……火の魔法の直撃を受けるマイン君の姿だった。
慌てて弓を振り絞り、矢を三本充填し……思い切り引き絞る。
狙いをマイン君に向けて石斧を落とそうとしているオークに定め……射出した。
『ギュオオオオォォォォォォォォッ』
風を切りながら飛んでいく矢を確認して、大声で叫ぶ。
「マイン君っ!!!!!諦めないでっ!!!!!!!」
私の声が聞こえたのだろう、こちらを見て驚く姿が見えた。
その姿を見て、思わずフッと笑みを浮かべてしまう私。
ああ、良かった間に合った。
そう私が射った矢はマイン君を害そうとしていたオークに命中し、彼を助ける事に成功したのだ。
だが、まだ安心は出来ない。
彼は先程火魔法の直撃を受けた事で全身に大怪我を負っている。
あそこにいる四体のオークを倒さなければ、彼は死んでしまう。
そんな事、私は絶対に認めない。
続けて弓に矢を充填し、立て続けに放っていく。
「アイシャさん、ダメだっ、逃げてっ!!」
マイン君が叫んでいるのが聞こえるが、そんなのは無視だ。
私だって元B級の冒険者だ、例えオークが相手だとしてもそう簡単に不覚は取らない。
それに姫様だってここにはいる。
”姫騎士”と二つ名で呼ばれる王国内でもトップレベルの戦闘力を持つ姫様がいるのに逃げる必要など何もないのだ。
姫様が腰に佩いていたミスリルソードを抜きさり、オークに斬りかかるタイミングを計っているのが見える。
しかし、姫様が斬りかかる事は無かったというよりも必要が無かったというべきか。
なんとマイン君が立ち上がり、瞬く間に四体のオークを切り伏せてしまった。
しっかりと確認は出来なかったけど、斬りかかる前の一瞬マイン君の体が光った気がするので自己強化系のスキルを使ったんだと思う。
彼のスキルは自己強化系の何かという事なのだろう……あれ?だけど姫様は彼のスキルは戦闘用の物では無いと言ってたような……。
姫様を見ると、同じ事を考えたのだろう。
形の良い眉をギュっと寄せて考え込んでいる様子だ。
何はともあれ、当面の敵は居なくなったのだ。
急いでマイン君の所へ行こう、早く回復魔法を掛けてあげないと……!
「マイン君!大丈夫!?待っててすぐに回復をするから!!」
「大丈夫です、自分でやりますから……、それより二人ともすぐに此処から逃げて下さい。間もなくオーク・ジェネラルが三体此処に来ます」
自分で回復をするって……?マイン君の授かったスキルの二つめは回復魔法なの?
って、それより今何て言ったの?オーク・ジェネラルって言った?ジェネラルってS級のモンスターだったわよね?
それが三体来る?なんでマイン君、それが分かるの??ああ~分からない、分からない事だらけよ!
私が混乱しているうちに姫様とマイン君は会話を続けていた。
「ま、まて!?オーク・ジェネラルだと?なんでS級モンスターがこんな所にいるんだ!?」
「理由は分かりませんし、考えている時間はありません、すぐに逃げて下さい!!それにジェネラルがいると言う事は……」
「オーク・ジェネラルが居ると言う事は……そうか!?オーク・キングも居ると言う事か!!!?」
ああ、そうだ……、オーク・ジェネラルと言えばオーク・キングの親衛隊だ。
確かに姫様の言う通り、オーク・キングがいるのかもしれない、不味いわ!マイン君の言うように逃げなきゃ!!
けど、逃げるならマイン君も一緒じゃないと……。
『ウガォォォォォォォォォォッ!!!!!!!』
私の思考は突如あたり一面に響き渡った何かの叫び声に中断された。
この体が勝手に震え上がる叫び声は……。
「二人とも急いで……早く此処から逃げて!はやくっ!!!!」
マイン君がその声を聞いて尚更慌てて、私達に逃げるよう訴えかけてくる。
そう、叫び声の主が、何なのか……私は分かってはいる。分かってはいるんだけど認めたくなかった。
けど、目の前に突如現れた巨大な金色の戦斧を持ったオーク。
それを見た瞬間、認めざるをえなかった。
そしてマイン君の叫び声が私の想像を肯定したのであった。
「なんで、”キング”が先に来るんだっ!!!ちくしょうっ!!!!」
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