第245話 ミスリルインゴットの行方。
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「ちっあの野郎逃げやがったか?」
転送石を使いやがったのか?そんなそぶりは無かったが……。マインとか言ったな。まあ、今日の所はミスリルインゴットに免じて見逃してやろう。
あの様子を見たところ、ピロースとルカの奴隷契約が無くなった理由をあいつは知ってそうだな?
あの二人を失うのは俺にとっても痛いからな、あの野郎を捕まえて無理矢理にでも吐かせるしかないな。
取りあえず、今は親父に頼まれたこいつを親父に届けないとな。
その男は懐から黒く光る石を取りだして地面へと叩きつけた。
すると地面には不思議な黒い渦が出現し、男はさっとその渦の中へと身を躍らせたのだった。
男が使ったのは、”転送石”。使用すると、過去に行った場所から任意の場所へと移動する事が出来る魔道具だ。
非常に便利な魔道具であるが、一度使うと割れて使用出来なくなる。貴重品なのであった。
そんな貴重な魔道具を使い、その男は一体何処に行ったのだろうか。
男は自分の親である、魔王カイエンの元経向かったのだ。つい先ほど、カイエンから依頼された物を首尾良く入手出来たが故に。
手に入れた物は貴重な鋼材である。ミスリルの塊だった。聖銀と呼ばれ、魔力の伝導率が極めて高い金属。
「親父、待たせたな、頼まれてたミスリル持ってきたぜ。ところでこんなもん、何に使うんだ?」
「先日、ロゼリエから妙な事を聞いたんだがな」
親父は俺の顔を一瞥したあと、問いに答えるでは無く全然関係無い話をしてきた。
「なんでもロゼリエは急にスキルを使う事が出来なくなったらしい。その時は失敗の言い訳かと思ったのだが」
「ロゼリエのヤロウ、そんな面白い事になっていやがったのか」
「つい先日、儂もいくつかスキルが使えなくなった」
「な……に?ちょっと待て、親父、何が使えない?」
「【消滅】と【六道地獄】と【千里眼】の3つだ」
「どういう事なんだ?」
「で、お前は大丈夫なのか?」
「ああ、俺は問題ないぜ」
「儂の推測では例の特異点……マインとか言う小僧が絡んでいると思うのだ」
「だが、お前が問題無いというのなら関係無いのかもしれんな」
「それで、質問の答えだが、儂のスキルが使えなくなったので、身を守る手立てとしてミスリルで武器を作ろうと思っていてな」
「なるほど。そういう事か。だが、何故ワザワザミスリルを?」
「今儂が他社に対して圧倒的なアドバンテージがあえうのは魔力量だけだ。ミスリル製の武器ならこの圧倒的な魔力を攻撃力に転化出来るであろう?」
「判ったよ、親父。しばらくの間、俺がガードをしてやるから安心してるんだな」
「いや、お前は特異点を倒してくるのだ、あいつをこのまま放置しておくと我らに致命的な事がおこるやもしれぬ」
「おっけい、親父。任せてくれあいつの首を親父の前に必ず持ってくるからよ」
……とは言った物の……あの野郎がどこにいるのかわからん。ミスリルを狙っていたらしいからな。
不確かだが、力の迷宮で張り込むのが一番確実だってことだろうな?
……だが親父の護衛をどうするかだ。親父はスキルがつかえないときてる。
ちょっと強いヤツが攻めてきたら殺られるかもしれねえ。それは不味い。
親父が死ねば、魔王軍は一気に瓦解するだろう。
周辺国が反魔王軍で力を併せて来ている今親父が倒れるのは致命傷になりかねん。
俺が護衛に付いていられれば一番いいんだが。今はマインとか言うあの餓鬼をやらなきゃならん。