第243話 勇者召喚(4)Case:赤城大和
「千尋、助かったぜ」
「大和君、駄目だよ。油断しちゃ。ここは日本じゃないんだよ。命の価値観が違う場所なんだよ」
「ああ、確かにな。けど千尋のスキル随分凄いじゃないか?」
「大和君が危ないって思ったらなんか勝手に出来たの」
「そっか、さんきゅな」
俺と千尋がそんな会話をしていると騎士団長が俺たちに近づいてきた。
「ヤマト様、油断しすぎですぞ、如何に聖剣が強くとも使い手が未熟では魔王には通じますまい」
……だがチヒロ様は素晴らしかったですぞ。ヤマト様をしっかりとフォローされておりました」
ちぇ、そんなの言われなくても判ってるよ、偉そうに言いやがって。騎士団長だか何だかしらねーがお前らがしっかりしないから
俺たちがこんなとこに来ないといけなくなったんだろうがよ。
「取りあえず、もう2~3匹倒して経験を積みましょう」
騎士団長はそう宣言して再び、森の奥へと進み始めた。
そして、再びイノシシの魔物と出会い、今度は最初から千尋の【神の鎖】で拘束してから俺がイノシシに斬りかかっていく。
本当なら俺一人で格好いいところを見せたかったのだが、こういったチームプレイも大事だと思い、納得する事にする。
それにこういった連携を取る事で千尋との仲が進む事も期待出来るしな。
俺と千尋の連携攻撃で数匹のイノシシを倒すと騎士団長も満足したようでようやく王城への帰還命令が出たのだった。
帰路の最中の食事は先ほど倒したイノシシの肉が振る舞われた。
野外での食事という事で粗野な食べ物が出てくるかと思いきや、日本でも食べた事が無いほど美味い料理が出てきたので
驚いていたら何でも料理スキルというのを持っている人間が帯同しているとの事で
妙に納得した。どうやらこの世界はスキルによって成り立つ世界らしい。
俺が持っている【聖剣】スキルや千尋の【神の鎖】は非常にレアな物で強力なスキルらしい。……へへ、俺たちはまだついてるって事だな。
◆◇◆◇◆
「姫様がお戻りになりましたぞー」
……ふう、久しぶりの我が家ね。なんか浮き足立ってるけどどうしたんだろう。
まあ、今はマリーヌに会ってオーガスタの成果を話さないと行けないわね。
「マリーヌは何処?」
出迎えに来ていた兵士にそう尋ねるとなんとも歯切れの悪い答えが返ってきたのだ。
「はっ、マリーヌ様は自室で休まれているかと」
「マリーヌが?何?体調でも悪くしたの?」
「……ええ、まあ、その……勇者召喚が行われまして……」
え?何ですって?勇者召喚が行われたですって!!?
じゃあ、マリーヌはもうこの世に居ない?……けどさっきの兵士は”休んでいる”と言っていた。
私は逸る気持ちを抑えつけて、親友の部屋へと急ぐのだった。
「マリーヌ、いる?私よシーラ、オーガスタから帰ってきたわ」
「……姫様っ!よくご無事で」
「マリーヌ、教えて勇者召喚が行われたって聞いたわ。貴方が召喚を行ったの?」
「ええ、私とミレーヌが行いました。勇者殿のスキルで生き返る事が出来まして……。ただ、ミレーヌは生き返った後で更に勇者召喚を強要されましてまた死んでしまいましたが……」
「あの馬鹿親父めっ!」
幼いミレーヌに何度も死の体験をさせるなんて人間のする事じゃない。
流石に私も呆れたわ、「もうあんなの親でも何でも無い。こんな国出て行ってやる!!」
「姫様、落ち着いて下さい。最早この国の希望は姫様だけです」
「そ、そんな事言っても……あんな国王の下ではこの国は長く持たないわよ。オーガスタのファーレン様は良い指導者であられました」
私はマリーヌに宥められ、取りあえず、父王に会って話をする事にしたのだ。
「シーラ、やっと帰って参ったか!」
「父上、オーガスタの新たな英雄マイン殿にお会いする事ができ、協力を仰ぐ事が出来ました」
「だまれい、恥を知れ、シーラよ!ファーレンのような成り上がり者に借りなど作れる物か!!」
「我が国は勇者の力で生き残る事が出来るのだ!リッツやオオセと一緒にするでない!!」
「勇者召喚で思い出しました。何故おこなったのですか?しかもミレーヌは生き返らせて、また更に召喚をさせたと伺いました!」
「正直申し上げて私は父上に、この国に……失望いたしました。申し訳ないのですが国を出させて頂きます」
「待て!待たぬか!!シーラ!お前も王女なら、我が国の状況をもう少し理解しなさい」
「だから、オーガスタまで出向いたのです!マイン殿の協力も取り付けて参りましたと言ってます」
「何度言えば判るのだ、オーガスタのような成り上がりの太助はいらんと言ってるだろう」
「では、どうされるのです?」
「……だからこその勇者召喚だろう?」
「貴重な巫女の命と兵士達の士気を犠牲にしてですか?呼び出した勇者が魔王軍を退けれるかも不確かだと言うのに?」
「……大丈夫だ。今回の勇者は聖剣を得ている。先代魔王ヴォルテックスを討ち取った勇者と同じスキルだ!」
「とにかく、成人したてのミレーヌに何度も召喚を強いるお父様の事は理解出来ません。さらばです」
「待て、待つのだシーラ出て行ってどうするというのだ?行く当ても無かろうに……」
「ご心配なく!私は希望のマイン様に嫁ぐ事にしますから」
「と、嫁ぐだとぉ、認めん、そんな事は断じて認めんぞっ!」
やかましいわからずやは放って放って置いて私は国を出る準備をしなければ……。
国を出るときにマリーヌとミレーヌの姉妹を置いていく事なんて出来ない。
二人を説得しなければ……。




