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第241話 勇者召喚(2)Case:赤城大和

……ここは?どこだ?俺は現国の時間、余りに眠くて机につっぷして寝ていた筈だ。

気がつくと岩壁に囲まれた8畳ほどの部屋に居た。

俺の名前は赤城大和。私立大宮高校の二年四組の所属する高校二年生だ。

周りを見回すとクラスメイトの近藤千尋と大下孝の二人が首をかしげながら周りを見ていた。

「なんだ?ここは?大和、ここはどこだ?クラスのみんなは?」

「落ち着けよ、孝。俺も何がなんだかわかんねえんだ。気がついたらこんな場所に居たんだ」

大和君、大下君、これは

ひょっとしたら……異世界転移と言うヤツじゃないかしら?私が読んでるラノベでこんな状況を

良く見るわ」

「何いってんだ、千尋。頭おかしくなったんじゃねーのか?」

(千尋の言ってる事は俺も考えた。だが、まさか自分の身に起こるとは考えられなかったので口には出さなかったが……)

もし、これが本当に異世界転移ならそろそろ案内人の役割を持つ奇麗な王女様辺りが現れる筈だが……。

「静かにしろよ、孝。千尋が言ってる事は案外的外れじゃないのかもしれんぞ」


「ばっかっ大和、お前まで狂ったのか?」


一人騒がしい孝はほっといて俺は千尋の隣へ移動する。

近藤千尋は同じクラスで大宮高校のアイドルと噂される美少女である。

ご多分に漏れず、俺も好意を抱いている片思いの君だった……この状況はそんな千尋と仲良くなれるチャンスだ。

「なあ千尋、これはやっぱり……なあ?」

「大和君もそう思う?間違い無いと私は思う」

「ああ、チート貰ってハーレムだ!!!」

俺が思わずそんな事を口にすると千尋はジト目で俺を見ながらじりじりと俺から離れていった。

「確かに、そんな展開が多いのは認めるけど、大和君も男って事なのね」

ため息を付きながら千尋にそんな事を言われてしまった。失言だ。


        ◆◇◆◇◆



「国王様、ミレーヌに勇者召喚をお命じになったと聞きました」

姫様の命で精霊の泉へと向かっていた私は用事を終えて、王宮に戻り、勇者召喚が行われた事を知ったのだ。

私の名はマリーヌ、この国ローラシア王国の巫女頭を務めている。


妹のミレーヌは恐らくもうこの世にはいない。

勇者召喚を行うには召喚を行う巫女の命が必要となるからだ。その勇者召喚が行われたと言うのなら妹はもういないのだろう。


つい先日、成人を迎えたばかりだったミレーヌ。幼い頃に両親を亡くし、姉妹で力を併せて生きてきたのに……その大事な妹はもうこの世には居ない……居ないのだ。

成人のお祝いを二人で開いたときのあの子の姿を思い出すと涙が溢れてくる。


「お姉ちゃん!これで私も大人の仲間入りでしょ!?私もお姉ちゃんや姫様みたいな立派な巫女になれるかな?」


……いくら、王命とはいえ、あの子の命を犠牲にしてまで行わなければならない事なのかと疑問に思う。

恐らく、私が泉に向かっていなければ、妹では無く私が儀式を行う事になっていた筈である。

姫様がオーガスタ王国に助けを求めに向かったのはこれで無駄になってしまった。


まさかジョージ様がこれほど早くに勇者召喚に踏み切るとは私も姫様も想像出来なかったのだ。

「何故です?何故成人したてでこれからの希望に満ちあふれていた妹を……勇者召喚は周辺各国との協定で禁止されていた筈です!ジョージ様!!妹をミレーヌを帰して下さい!」

「マリーヌよ、国王である私の決定に意を唱えるとは言語道断であるっ!」

「お前にも勇者召喚を命ずる、すぐに準備を行うのだ」

「我が国の存亡が掛かっておるのだ!ぐずぐずするなよ急げ」

嫌がる私を神官達は無理矢理押さえつけ召喚部屋に連れて行かれたのだ。召喚部屋には見慣れない服装を着た三人の男女がぼぉっと佇んでいた。

恐らくあれが勇者なのだろう。妹の命と引き換えにやってきた異世界の戦士達。

あのような者達の為に妹はその命を散らしたのだ。


「さあ、マリーヌすぐに召喚を行うのだ」

神官の一人が高圧的に私に命ずる。

仕方ない。ここでごねてみたところで、いずれにせよ召喚は行わなければならないだろう。


それにっこに私がやらなければ恐らく姫様が召喚を行う事になるはずだ。

……駄目だ、姫様を失うわけには行かない。そんな事になればこの国はお終いになってしまう。

私の命で姫様を救う事が出来るならば本望だ。

「判りました、召喚を行います下がって下さい」

高圧的な態度をしていた神官も私がそう言うときゅうん大人しくなり私の言う事に従い、下がっていった。

一方、他の神官達によって描かれていた魔方陣も描き終わったようで私は魔方陣のうえで舞始める。

舞い始めた瞬間、魔方陣が鈍く光りはじめ、私のからだからごそっと何かが抜けていくのが感じられる。

そして、激しく目眩を感じ、動悸が激しくなっていく。

「く、苦しい……」


思わず口から出てしまう。

ミレーヌ、あなたもこんな苦しみを味わったのね?あなた一人を逝かせないわ。私もすぐに追いかけるからね。待っててね。

苦しさを我慢し、しばらく舞い続けていると、体を支える事も出来なくなり、前のめりに私は倒れ込んだ。

あぁ……私も死ぬのね……。姫様ごめんなさい。先に逝く事をお許し下さい。

「マリーヌ起きなさい」

先ほど高圧的に命令をしてきた神官が地に倒れている私の身体からだを強引に抱き起こし無理矢理その場にたたせされたのだ。その際、体をいやらしく触られたのだが、文句を言う

気力すらも残っていない。

恐らく、私は間もなく意識を失い冥途へと旅立つのだろう。



……千尋に嫌われたかもしれない事でショックを受けていると俺たちの周りにぼぉっと光り輝く物体がいくつも現れた。

その物体はゆっくりと人間の形を取っていき、色彩がついて行き、しばらくすると人間の姿を取っていった。

よくよく観察してみると、見た目からしてチンピラな若い男が数人と特攻服?を来た目つきの悪い女性が数人だった。

そいつらは、大声で喚き散らす。

「なんだ、ここは!!?」「オメーらなんなんだ?」「俺たちをどうするつもりだ」

チンピラ達は俺たち三人を見て口々に不平不満を口にする。

「静かにしろよ、俺たちもわけがわかってねーんだ」

俺がそう一喝するとチンピラ共は静かになり、俺たち三人をじろじろと無遠慮に見てくる。

「おい、そこの美人のねーちゃん、こっちにきな」

「……ひぃ」

チンピラの一人が千尋を見て舌なめずりしながら声をかけてくる。俺はすっと彼女の前に立ちはだかって千尋に絡んでいたチンピラを睨みつけた。

「大和君……ありがとう」

千尋は相当怖かったらしく、前に出た俺の左腕に自分の腕を絡めチンピラから隠れるように俺の後ろに回った。

「おうおう兄ちゃん。女の前だかあって格好つけんじゃねーか?」

チンピラが標的を俺に切り替え絡んでくる。

「あたりまえじゃねーか、女の前で格好つけずにどこで格好つけんだ?」


「アハハハ、確かにその通りだねえ。格好いいじゃないか、あんた。ヒロヤあんたの負けだよ!ひいておきな」


ちんぴらに紛れていた目つきの悪い女が大笑いしながら仲裁に入ってきた。

それ以後、誰も言葉を発する事なく居心地の良くない沈黙が場を支配する。

すると


「よくぞ、来て頂きました。勇者様がた!」

沈黙を切り裂いてか細い女性の声が響き渡った。声のした方を見ると、西洋風の衣服に身に包んだとんでも無く美しい女性がふらつきながら

やたらがたいの良い男性に支えられ立っていたのだった。

……ほら、ビンゴだ。やはり異世界転移じゃねーか。お約束ならば彼女は王女様あたりでこれから俺たちは王様の元へと案内されるのだろう。




「色々判らない事だらけでしょうがまずは付いてきて頂けませんか?」

美しい女性は肩で息をしながら俺たちに向かってそう声をかけてくる。


「マリーヌ様がこう申しているんだ!さっさと付いてこい!」

ついて行って良い物なのか悩んでいると脇に控えていたやたら体格の良い男が怒鳴り声をあげる。

「ミライ神官。勇者様方に無礼な物言いは慎みなさい」

「……しかし、マリーヌ様」

……ほう、神官ときましたか。これはますます異世界召喚?転移?で間違いなさそうだ。

「千尋、やはり予想はあっていたみたいだぜ」

俺は思わず笑みを浮かべて千尋にそう話しかけた。

「ええ、そうみたいね大和君。けど未だに信じられないわ……異世界なんて!本当にあったのね?」

「よくぞ、来てくれた。勇者諸君。余がこのローラシア王国王ジョージ・ローラシアである。現在我が国は魔王軍の侵攻を受けて滅亡の危機に瀕しておる。」

そこで異世界から勇者を召喚し、魔王を倒して貰おうと君たちにここに来て貰ったと言う訳だ。

「巫山戯るなよ、おっさん!俺たちをさっさと元の場所に戻しやがれ!!魔王と戦えだと?俺たちは軍人でも格闘家でもない一般人だ。そんな事は出来るわけないだろう」

ちんぴらの一人、ヒロヤと呼ばれていた男が一気にまくし立てた。

だが、都合がいい。知っておかなければならない事をあの男はしっかりと聞いてくれた。

だが、情報が余りに少なすぎる今は、怒っている場合じゃなく冷静にならなきゃ駄目だと俺は思うのだ。


「まあまあ、落ち着いて話をしようじゃないか?」

「落ち着けだと!これが落ち着いていられるか!?」

「では、まず先ほどの問いにこたえよう」

「元の世界に戻す事は我々には出来ない。魔王は恐らく知っているはずだ。魔王を倒せば必然的に帰り方も判るだろう」

「てめ~ふざけんな!勝手に連れてきて返す方法が無いとか馬鹿にしてんのか!!」


チンピラが言うように巫山戯た話だと俺も思う。だがこれはある程度想定内だ。ここが本当に所謂異世界だと言うのならここまではお約束通りだからな。

だが、魔王なら知ってるだろうとか、無責任にもほどがある。

「おい、おっさんよ。魔王が知ってるという根拠は何だ?根拠を示せよ」

俺が会話に割りこみそう述べると。

「無礼者!国王陛下に向かってその口の利き方は何だ!」

体格の良いおっさん達に怒られてしまった。

「しらねーよ、そんなもん。俺らからすれば無関係な一般人を拉致した人さらいの首魁だろ……そいつ。なんでそんな悪党に俺らが敬語ではなさなきゃなんねーんだ?」

「きっさまーっ」

図星を疲れて怒ったのか、違うのか、さっきから怒鳴りつけてくる偉そうな神官が俺の胸ぐらを掴み、持ち上げる。神官というのにやたら力持ちだな。

ぐぅ、く、くるし、苦しい。

「ミライ神官、おやめなさい、勇者様に失礼ですよ」

先ほどから苦しげで体調が悪そうな美人さんが仲介に入り、俺は地面へと下ろされたのだ。

……マリーヌと呼ばれていたっけ?この美人さん。よし決めた。俺のハーレムの一員になって貰おう。


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