第240話 勇者召喚
「マリーヌ!巫女頭のマリーヌを呼べっ!今すぐにだっ!」
「国王様、今、マリーヌ様はシーラ様の命で精霊の泉に向かっており、不在でございます」
ぬううう、何という事だ。
魔王軍の侵攻はもう目前まで迫っておるというのに一刻も早く勇者召喚を行う必要があるというのにも
関わらず、肝心の勇者召喚を行う巫女がいないとは……。
勇者召喚は巫女なら誰でも行使出来るわけでは無い。巫女としての資質が高ければ高いほど召喚出来る勇者の人間が多く成るのだ。
ただし、召喚が成功すると、召喚を行った巫女の命が失われてしまうのだ。
現在ローラシアで召喚を行う事が出来る程の資質を持った巫女は三人しかいない。
一人は巫女頭を務めるマリーヌ。彼女は一番高い素養を持っている。
二人目は国王の一人娘で第一王女の巫女姫シーラ。三人目はマリーヌの妹でミレーヌだけだ。
国王ジョージは、マリーヌとミレーヌに勇者召喚を命じる決断をつい先ほど決心したのだった。
娘のシーラを除外したのは別に自分の娘だからではない。
シーラはリッツ王国が魔人国の侵攻を退けたと言う報を聞き、その原因がオーガスタ王国に新たに現れた英雄の
おかげだと知り、オーガスタ王国へと単身向かってしまい、不在だったからに他ならない。
ローラシア王ジョージは元々情に薄く兵士や側近を簡単に見捨てる事が出来る男だったのだ。
「……ふむ。ではミレーヌを呼ぶが良い」
冷酷にジョージ王はその名前を告げた。
「こ、国王様っミレーヌ参りました」
目の前には、今年成人を迎えたばかりのまだあどけない少女が一人深く頭を垂れて私に声をかけてきた。
「ミレーヌ、よくぞ参った。我がローラシア王国の現状は聞き及んでおるな?」
「……は、はい。魔王軍の侵攻が激しく王都にまで迫る勢いだと……」
「その通りだ。そこで我は決心した。王家に伝わる秘術勇者召喚を行う事を」
「……ぇ、ええっ?勇者召喚ですか!?あの秘術は周辺諸国から使用しないようにと条約が結ばれていた筈では?」
「最早条約など気にしている場合では無いのだ。そこで巫女ミレーヌよ、今すぐお前に勇者召喚を行って貰いたいのだ」
◆◇◆◇◆
国王様の強い命令を受けて私は勇者召喚の儀を急遽執り行う事となった。
勇者召喚を行った術者(巫女)は例外なくその命を失う。
つまり、国王様は私に死ねと命じたのだ。
はぁ……成人したばかりで私ってば死んじゃうのか……。そう考えると自分でも気がつかないうちに目から勝手に涙が溢れてくるのだ。
「死ぬ前にお姉ちゃんに会いたいな。幼馴染みのマークにも会いたい。好きだって一言言いたかった。私はもうすぐ死ぬ」
召喚を行う為の拾い催事部屋の床に、高位の神官達の手により複雑な魔方陣が描かれていく。
魔方陣が完成すると神官長が国王様に恭しくお辞儀をしながら、魔方陣の完成を告げた。
「よし、ミレーヌよ、早速召喚を始めるが良い!」
国王様のその一言で部屋中に厳かな音色が響き渡った。
私はその音色に併せて決められた舞を踊り始める。すると、体から力がぐっと抜けていき息苦しくなる。
心臓が激しく鼓動している。
ドクンドクンとその音が聞こえてくるようだ。
……いけない、意識がだんだん遠く成ってきた。
私の意識が曖昧になったころ、私の周辺に3つの光り輝くもやのような物が出現した。
「おお、成功ですじゃ!三名も召喚出来ましたぞ」
神官長が嬉しそうに叫んでいる。
どうでもいい。この苦しさから速く解放して欲しい。これが死ぬって言う事なのね……お姉ちゃん、さようなら。