第239話 シャイニング・シューティングスター
「……しかし、私には自分の身体くらいしかお支払い出来る物がありません」
……これは、相当思い詰めているね。
なんとか冷静になってもらいたいところなんだけどな。
「……では、私をマイン様のクランに入れて頂けませんか?こう見えても私、高位の回復魔法や支援魔法を使えるのです」
高位の回復魔法や支援魔法という事はシオン姉ちゃんみたいな感じだと思えばいいのかな?確かにありがたい存在ではあるけれど……
一国の王女を他国の一クランが預かってしまって良い物なのか?
取りあえず、シーラ様の身柄の件は後回しだ。今は始まりの弓を制作しなければ……。
「シルフィ、ルイス様に皮のなめし作業はやってもらえたかい?」
「……あ、いやシーラ様の件ですっかり忘れてた。渡しはしたんだけど……すぐに戻って貰ってくる」
そう言ってシルフィはダッシュして移動扉で王宮へと戻っていったのだ。
「ルイスっ!」
「姉さん、マンティコアの皮だろ?全く忘れっぽいんだから……ほら、コレ持って行って」
どうやらルイスは作業を進めていてくれたみたいで、既になめし作業は完了していたようだ。
収納袋をルイスから受け取り大急ぎで旦那様の元へと私は駆けていく。
「はぁ、はぁ…、旦那様っ!マンティコアのなめし革貰ってきたぞ!」
これで、やっと始まりの弓を【錬成】出来る筈だぞ。これで我がクランのメンバー全員の武器が新調される事になるな。
「シルフィ、中から出して、そこに並べてくれるかな?」
「マンティコアのなめし革が3つとエルダートレント材を10本だからね」
私は旦那様の指示に従い、素材を地面に並べていく。
「出来たぞ、旦那様」
私がそう告げると旦那様も収納袋をガサガサとやりながら素材の前までやってきた。
旦那様が始まりの弓と魔石を2つ地面に置いていよいよ【錬成】の始まりだ。
「じゃ、造るよ!まぶしいから気をつけてね」
旦那様がそう言うと素材1つ1つから光の線がにじみ出て繋がっていく。全ての素材が繋がると激しい閃光が周りにまき散らされる。
10秒ほど経つとあれほど眩しく光っていた閃光がゆるやかに治まりはじめ、眩しく虹色に発光し、大きく形状が変化した始まりの弓だけが残っていた。
「これが……アイシャの新しい弓……」
そう呟くと
旦那様が大声で「出来たっ!!」
と叫んだ。
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名前:シャイニング・シューティングスター
攻撃:+210
階級:聖級
属性:成長・光
特攻:魔族・竜族
必要素材:レインボウ・ドラゴンのなめし革×1、アイアンインゴット×20、特級魔石×1
武技:アーチング・メテオ
スキル:エンドレスショット
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「やはり、これも次の成長があるみたいだ……」
旦那様はそう言い天を仰いだ。
「シルフィ、次に必要な素材だけど……レインボウ・ドラゴンのなめし革が必要みたいだ」
「丁度いいじゃないか?どうせ狩りに行くつもりだったんだろう?」
「機会があればと思っていただけだからね。好んでドラゴンと戦いたく無いよ」
「大丈夫だ旦那様なら、絶対勝てる!」
「……シルフィード様はマイン様を心から信じてらっしゃるのですね 全くもって羨ましいですわ、素敵な旦那様で」
「それが成長した弓なんですね。どうです?強い武器になりましたか?」
シーラ様が屈託のない笑顔で聞いてくる。
『アイシャ、今どこにいるんだい?』
『クランハウスの会議室まで来れるかい?弓が完成したよ』
【念話】でアイシャを呼び寄せる。
「ええ、聖級武器なので相当強い武器だと思いますよ。専用の武技もありますしね……」
「僕に弓術のスキルが無いので正確には分かりませんけど」
「まあ!、マイン様が使われないというならどなたがご使用されるのです?」
「僕の妻の一人で聖弓のアイシャですよ、間もなく此所に来ますよ」
「聖弓のアイシャ様もマイン様の奥様なんですの!?」
「ええ、そうです。成り行きで」
「マ~イン君、来たわよ」
「アイシャ、見てくれ!この弓」
シルフィが笑顔を浮かべて出来上がったばかりのシャイニング・シューティングスターを掲げて
アイシャに見せている。
「あら、素敵な弓ね。黒い弓じゃないのね?短剣が成長しても黒色ののままだったから弓もそうだと思っていたわ」
……そういえばアイシャの弓は【鑑定】した事無かったな。
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名前:エリュートスボウ
攻撃:+170
階級:破級
属性:光
特攻:人型
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「破級の弓かあ……アイシャの弓ってかなり高性能だったんだね」
「ええ、随分長い間この子にはお世話になったわ」
アイシャは愛おしそうに今までの弓を見つめて軽く手でさすりながら弓に語りかけている。
「今までありがとうね。これからはゆっくり休んでちょうだい」
……だが新しい弓はその弓(破級)をも遙かに凌ぐ高性能品だ。
間違い無くアイシャの役に立つだろうし、今まで以上に長く使える一品となるだろう。
僕は今までの弓と新しい弓の能力を紙に書きだしてアイシャに見せた。
「あら、本当に凄い弓ね 姫様の剣やマイン君の短剣のように専用の武技まであるのね?」
「……けどこのスキルって何かしら?」
「ちょっと待ってね、今調べるから」
なんだろうアイテム自身にスキルが付いているなんて事があるのか……初めて見たよ。こんなの。
【エンドレスショット】:矢を番えなくとも勝手に次の矢が装填される「永続効果」。
「なんか弓を番えなくても矢が自動で装填されるみたいだよ」
何という破格な能力なんだろう。
この弓なら
迷宮攻略中に矢が切れても気にしなくてもいいんだ。
矢を用意しないでもいいなんて、弓という武器の扱いにくさを補う性能、これだけでこの弓を使う価値があるという感じだね。
これをアイシャが持って戦うところを想像するとワクワクしてくるな。
こうなってくると俄然他の武器も見てみたくなるよね。
とにかく、今は僕の短剣をもう一段進化させよう。そのためにはミスリルの入手は不可欠だ。
「これで、私もクランに貢献出来るようになるわね」
「アイシャ様、新しい弓おめでとうございます」
「ええ、ありがとう……ってあら?どちら様?」
ああ、そうか、アイシャはシーラ様を知らないんだ。
「これは失礼しましたわ……私はローラシア王国第一王女のシーラ・ローラシアですわ。宜しくお願い致しますね、聖弓のアイシャ殿」
「こ、これはシーラ様、お初にお目に掛かります、アイシャ・フォロトゥーナと申します」
『……ちょっと、ちょっとマイン君、何でローラシアの御姫様がここにいるの?』
『ごめん、ごめん、成り行きというか王様に押しつけられたと言うか……なんだよ』
『……ふう、判ったわ。しかし私達の周りはお姫様だらけね』
『で、マイン君。この後どうする気なの?』
『……うん、ザナドゥと決着つけてこようかと思ってるよ。ついでにミスリルを取りに行ってくるよ』
『尤も、トロールゲイザーからやり直しになるけどね』
「さて、マイン君。これからどうするの?」
【念話】で打ち合わせた事をあらためて口に出して確認してくるアイシャ。これはシーラ様を意識しての事だろう。
「そうだね、ザナドゥとの決着とミスリルの入手が当座の目標になるかな」
「そうなると、またトロールゲイザーからやり直し?」
「うん、そうなるね」
「ちょ、ちょっと待って下さい!トロールゲイザーとか物騒な名前が出てきましたけど?」
シーラ姫が即座に突っ込みを入れてくる。自分もレインボウ・ドラゴンなんて物騒な名前を出していたのにね。
「ええ、トロール・ゲイザーですよ、そもそもうちのクランではトロール・ゲイザーは亜種含めて三体倒してますので」
「はあ~?凄いクランだと王宮でのやり取りで予想してましたけど、そこまで規格外だったとは……」
シーラ様が深いため息を付きながら、僕達の顔を見回していく。
「姫騎士・聖弓・希望……の二つ名持ちが揃っているのは伊達では無いと言う事ですね」
「改めてお願い致します。私もこのクランに入れて頂けませんでしょうか?」
『マイン君、シーラ様も娶るの?』
『なんでさ?』