第238話 マインの二つ名
これ以上ややこしい話にならぬよう、僕は始まりの片手剣を取りだして国王様に手渡した。
「国王様、これが始まりの片手剣です」
真っ黒の剣身、真っ黒の柄の片手剣を手渡すと国王様は首をかしげて僕と剣を交互に見る。
「これが始まりの片手剣か。見た感じ、珍しいだけの鈍に見えるが……」
「ええ、最初は仰る通りの鈍です。素材と一緒に錬成すると進化して業物に成りますよ」
「ほう、ほう、そうかそうか……ではルイス後は任せるぞ」
国王様はニカッと歯を見せて豪快に笑いながら始まりの片手剣をルイス様に手渡した。
「義兄上、【錬成】はお任せしても?」
「ええ、構いませんよ。素材が揃ったら声をかけて下さい。素材の収集はどうするのですか?」
「……ああ、それは俺が冒険者ギルドかカシューの所かどちらかに声をかけて依頼を出すつもりだ」
「なるほど……、その依頼、うちのクランで受けましょうか?」
「依頼の詳細についてはアイシャと詰めてもらえれば……」
僕がそうお義兄さんに提案するとお義兄さんと国王様、ルイス様の三人は心底嬉しそうに笑顔を浮かべて喜んでいた。
「シルフィ、勝手に決めちゃったけど大丈夫だよね?」
「ああ、旦那様さえよければ問題無いだろう……」
「どちらにせよ今はうちのクランは始まりの武器造りに力を入れている訳だからな、ついでに一本作るだけの事だろう?」
「あらあらまあまあ……では、私からも依頼を出させて頂いても?」
シルフィの独り言を聞きつけたシーラ様までも話に乗ってきた。
「……と言いますか、実は折り入ってマイン様とシルフィード様にお願いがありますの」
シーラ様は意味深な表情を見せ、一度国王様やお義兄さんの顔を見て軽く頷いている。
国王様やお義兄さんも苦笑しながらシーラ様に頷き返している。
一体、何の事なんだか全く分からない。シルフィを見ても「はて?」と分からない様子だ。
そもそも、何でここにローラシアの王女が単身で訪れているのだろうか?
『シルフィ、シーラ様は何でここにいるの?』
『それが……私もよくわからないんだ』
……必要ならまた説明はもらえるだろう。
今は気にしない事にしよう。
「マイン、シルフィード、別室でシーラ姫の話を聞いてくれ。そのうえでシーラ姫に関する案件はお前達に一任する事にする」
僕とシルフィの【念話】を聞いていたわけではないだろうが、国王様が急にそんな話をしてきた。
この場でと言わず、別室で、という事は国王様達は関わる気が無いと言う事なのだろう。
やれやれ……また厄介事の可能性が高いな……。ルカ様の件が片付いたと思ったら今度はシーラ様か……。
サーシャの事も考えなければいけないのに……。
「別室という事はうちのクランハウスででも話した方がいいのか?」
シルフィが国王様に確認する。
「ああ、それで構わない。移動扉の使用も許可しよう」
「シーラ殿、さきほどの件だが、悪いがマイン達に相談してみてくれ。正直、私と話すより適任だろう」
国王様がそう言うとシーラ様は僕らの方に向き直り深々とお辞儀をする。
……いや、事情も分かってないのに頭を下げられても……困ってしまう。
以前僕が国王様から依頼を受けて作成した移動扉だが、セキュリティの為王宮の地下に設置されている。
使用する場合は、例えそれが王家の人間であったとしても国王様の許可が必ず必要となっているんだ。
今回、わざわざ国王様がそんな移動扉の使用を許可したのは恐らくシーラ様に僕のスキルを見せないですむようにするための配慮なのだろう。
「では、移動するとしようか」
シルフィの号令一下、僕とシーラ様が王宮の地下へと移動を開始する。
「一体どこに向かうのですか?」
シーラ様は突然の展開に驚くより先にわくわくした様子で僕らの後をついて行く。
「シーラ殿、今からお見せするのは我がオーガスタ王国の重大な秘密の場所である。他言無用にて願いたい」
地下に潜って行く事、およそ5分。目的の”移動の間”に到着した。部屋の中にはポツンと扉が無造作に一つ置いてあるだけだ。
先頭をシルフィ、シーラ様、僕という順番で歩き、先頭のシルフィがさっさと扉を開けて中に入ってしまう。
「え?えっ?シ、シルフィード様?何処に?」
突如居なくなったシルフィに驚いたのだろう。シーラ様は不安そうな声をあげる。
「大丈夫ですよ、シルフィは無事ですから安心して下さい。それに何かあったとしても僕がシーラ様を命にかえてもお守りしますから」
「マ、マイン様は私が王女と知っても特に畏まったりしないのですね?……フフフ」
「あああ、申し訳ないです。最近僕の身の回りに王女様がとても多いので余り緊張しなくなってしまいました」
「まあ、そうですよね。そもそも奥様が王女様ですものね。シルフィード様ととても仲が良さそうで正直焼けてしまいますわ」
「ああ、シルフィもですが家にはサーシャも居ますからね」
「サーシャ様?……ひょっとしてリッツのサーシャリオン様ですの?」
「そうです。新たに娶る事になりまして……」「凄いです、マイン様はオーガスタとリッツ、二国の王族と言う事なのです」
「……いやいや、王族なんて滅相もないですよ」
「流石、”希望”のマイン様ですの!」
「ん?何の事です?」
「あら?ご存じ無いのですか?世間では貴方は”希望”のマインと呼ばれているんですの」
「えっ?二つ名?ですか?全く知りませんでした」
希望なんて、全く大げさな……。まさか僕に二つ名とはね?シルフィやアイシャなら二つ名があっても全然不思議ではないのだけど……」
「取りあえず先に進みましょう。その扉を開けると黒い渦がありますから、そこに飛び込んで下さい。その先でシルフィが待っている筈です」
「はいですの」
シーラ姫は素直に返事をして、扉を開け、なんの躊躇いもなく黒い渦に飛び込んで行った。
その様子をきちんと見送ってから僕も後に続く。
扉を抜けるとシルフィの顔が目の前にあった。
「旦那様、随分と遅かったな?」
「いや、ちょこっとだけシーラ様から話を聞いていたんだよ」
「……話?」
「うん、何でも僕にも二つ名が付いたらしいんだ」
「旦那様の二つ名!?これでクラン(エターナルサンフラワー)は全員が二つ名持ちと成った訳か……」
僕の二つ名の事を聞いて興奮するシルフィを宥めながら僕は全員をクランの会議室へと誘導する。
「雑談はおいておいて取りあえず、シーラ様の話を聞こうよ。会議室がいいね」
会議室についてすぐにシーラ様が話し始めた。
内容をまとめるとこんな感じだ。
魔人国の侵攻が激しくなってきたので。国王がついに”勇者召喚”を決意したとの事。
そして勇者召喚を行う為にシーラ姫の親友である巫女頭のマリーヌさんが召喚の儀式を執り行う事になったらしい。
以前、国王様が言っていたようにこの儀式をお粉には巫女の命が必要になるという事なのでマリーヌさんは死んでしまう事になると。
そこで、魔人国相手に善戦をしているオーガスタ王国に増援を出して貰えないかと魔人国の脅威が和らげば勇者召喚をしなくてもすむから、と
なんでもマリーヌさんは国一番の美女で性格も穏やかで国民や兵士達の人気が非常に高いらしい。
僕からすればシーラ姫も相当な美女なんだけど……。更に美人って……一体どんな人なんだろう?
それで、国王がその事を国民に公示した為、兵士達の士気が下がりっぱなしなんだそうだ。
シーラ様としても、親友の命をかけてまで勇者召喚はしたくはないとの事で。
召喚された勇者が魔王軍を退けてくれるのなら有りかもしれないが、召喚される勇者にも当たり外れがあるみたいでそんなリスクを背負って
マリーヌさんを死なせたく無いというのが本音のようだ。兵士達の士気の低下も見過ごせない程であり、第一王女としては見逃せないので
強国であるオーガスタに単身やってきたみたいだ。
けど……魔王軍を押し返すなんて僕に言われても難しいんじゃないかな?一人でどうにかなる問題じゃない気がするよ……。
そこまで話を聞いて、僕がそんな返事を返したらなんとアイシャから予想外の提案が出されたんだ。
「マイン君、何も軍勢を押し返す必要は無いと思うわよ」
「ん?どういう事?」
「よ~く思い出してみて、あなたがリッツ王国で貴方が行った事を……」
リッツで僕がした事?
「まだ分からない?こう言えば思い出すかしら?ブラスティー」
ああ、そうか!そうだった。魔王軍は他国を侵攻するにあたって魔人を指揮官に添えてるんだった。
だから、その魔人を倒せば一気に軍が瓦解するんだ。ローラシアの担当魔人の名前が分かれば【地図】で探し出せる!
「どうやら思い出したみたいね」
「ああ、ありがとう。アイシャ!」
「……そうですか……やはり無理ですか?」
「受けて頂けるなら私の身体を報酬として差し出します!!何卒お願いします」
……どうやらシーラ様はアイシャと僕のやり取りは聞いていなかったみたいだ。とんでもない事を口走っているぞ。
「シーラ様、現在ローラシアの侵攻を担当している魔人の名前が判れば、僕がそいつを倒してきますよ」
「あ……ありがとうございます!!マイン様 このお礼は先ほども申し上げましたようにこの身体でお支払いさせて頂きますので!」
「ちょ、ちょっと待って下さいシーラ様。僕には妻が三人おります。妻達に申し訳が立ちませんので……それに、もっとご自身を大切にして下さい」
いつも拙作をお読みただきありがとうございます。
よろしければ是非ツイッター(@sakuya_Live)も出来ましたらご覧下さい。
簡単な作品に関するアンケートや更新に関する情報をつぶやいております。
緊急にお伝えしたい事などもツイッターでまずつぶやくようにしています。直近ですとコミカ確定の報とか
ツイッターと活動報告でも告知済みですが書籍第2巻の発売も決定しております。
現在書籍化作業中です。★2018年1月10日に発売です★
また上記でも軽く述べておりますが本作のコミカライズが決定しました。
具体的な詳細はまだ出ておりませんが 順次、ツギクル様の作品ページや私のツイッター、活動報告などで
ご案内致します。
また、病気で倒れて以後の誤字については順次対応の予定です。
実生活が中々落ち着かないため、なかなか即時の修正は出来ません。