第24話 オークの集落(3)
”オーク・ジェネラル”
それはS級と呼ばれるモンスターで高位の冒険者や騎士など何十人がかりで討伐をしなければならないモンスターだ。
そしてジェネラルが此処にいるという事は更にその上位の存在である”オーク・キング”がいると言う証となる。
ジェネラルはキングの親衛隊と呼ばれており、必ずキングの側に出現するからだ。
すぐ側のジェネラルの気配の大きさから考えるに、先程【気配察知・中】で確認した北の大きな気配は恐らく三体ともオーク・ジェネラルの可能性が高い。
だが、ジェネラルならば、恐らく自分のレベルとスキル構成なら、何とか倒す事が出来るだろうと思う。
問題はオーク・キングだ。
流石に倒せるかと言われると疑問と言わざるをえない。
ジェネラルがS級ならキングは災害級と呼ばれる存在だ。
それこそ国中の最強クラスの冒険者や騎士をかき集め、何百人単位で消耗戦を挑まなければ倒す事は不可能だろう。
キングがいるなんて、自分の見通しが甘かった事を後悔する。
しかし、捕まった女性を放置して逃げるという選択肢は僕には無い。
どうせ、ここまで暴れてしまったのだ。
キングは間違いなく僕を狩るべく行動を開始している事だろう。
……とにかく今は倒せるだけ倒し、自分の力を高める事に集中しよう。
それしか、僕と捕らわれている彼女が生き残る好機は無いのだから。
そうと決まれば、目の前の三体をさっさと始末して僕が強くなるための礎となってもらう。
時間が掛かれば掛かるほど、キングが僕を補足する確率が高くなるのは間違いない。
いつもようにスキルを急ぎ奪い、自己強化を掛けれるだけ掛ける。
先程までの戦闘でハイオークまでなら【範囲魔法・火極大】を全力で放てば倒せる事は分かっている。
ならば、やる事は一つだけだ。
ジェネラルをコレで倒せるかどうかは分からないが、倒せないまでもそれなりのダメージを与える事は出来るだろう。
魔法でダメージを与えた後、全力で狩るまでだ。
そう決めた僕は三体のオーク達が固まるのを見計らい、一瞬のタイミングを見極め全力で魔法を解き放つ。
『ズガガガーーンッ!』
先程にも増して大きな轟音が鳴り響き、周りの建物を巻き込みながら、オーク達に直撃する。
予定通り、二体のオークは絶叫をあげて地面に崩れ落ちた。
そして、これも悪い意味で予想通り、ジェネラルは全身大やけどを負ってはいるが雄叫びを上げて僕目がけて突進してくる。
その勢いに慌てる事なく【補助魔法・速度低下】をぶつけると目に見えてジェネラルの動きは遅くなった。
恐らく僕のレベルが上がった事とスキルのレベルが上がった事で命中率が高まっているのだろう。
動きが鈍くなった隙を見逃さず【気配遮断・中】で後ろに回り込み、渾身の力を篭めて背中を切りつける。
流石、ジェネラルだけあって、鋼鉄の短剣をもってしても、すんなりと切断する事は出来なかった。
『ウガァァァァァァァァ!!!』
痛みからなのか怒りからなのか、更に激しく雄叫びを上げ、腕を激しく振り回すジェネラルの懐に一気に潜り込み、短剣の武技である「シャークグロウ」を叩きつけた。
つい先程、こいつから取り上げたスキル【豪腕・極】+【腕力強化・極】が乗った武技の威力は凄まじく、文字通り真っ二つにジェネラルを切り裂いた。
「ふぅ、やった……」
息の根が止まっている事を確認し、すばやく死体となったジェネラルを収納にしまう。
そして北側から来るジェネラルだと思われる敵がいる方向とは逆、つまり南に向かって一気に逃走する。
だが、慌てていて【気配遮断・中】【気配察知・中】を使わなかったのが不味かった。
ただのオーク三匹とハイオークの一体の群れとかち合ってしまった。
これは、この状況はかなり不味いっ!!
北に居たオーク・ジェネラルと思われる三体が今まさにこちらに向かっているのだ。
このままだと挟撃を受ける形になってしまう。
その一瞬の動揺が不味かった、ハイオークの中に魔法を使うヤツがいたのだ。
ハイオークが放ってきたのは、恐らく【範囲魔法・火極大】
慌てて【火属性・耐性】を使うものの直撃を受けてしまった。
「ぐぅぅぅ」
余りの熱さと痛みに思わず、呻き声が出てしまった。
そして全身から血が噴き出し、思わずよろめき膝をついてしまう。
額から流れ落ちる血が左目の視界を奪いさる。
直前に掛けていた【火属性・耐性】が軽減してくれなかったら、恐らく僕は死んでいただろう。
僕が膝をついたのを見たオークは口の端をいやらしく上げ、笑みを浮かべる。
…そう恐らくこれは笑みなのだろう。持っていた石斧を大きく振り上げ、僕に止めを刺しにきた。
ダメだっ、やられるっ!!!
「マイン君っ!!!!!諦めないでっ!!!!!!!」
聞いた事のある声が耳に届くと同時に白い軌跡が三つ、僕の頭上を通過する。
その三つの軌跡が、今まさに僕に止めをさそうと襲いかかっていたオークに直撃した。
オークはその衝撃を受けきる事が出来ず、たたらを踏んで後ずさる。
声のした方向を見ると……そこにはギルドでお世話になったアイシャさんが凛とした姿勢で弓を構えて立っていた。
僕が振り返った事に気が付くと、更に追撃を掛けるべく次の矢をつがえはじめているのが見えた。
そして、アイシャさんの後ろにもう一人見た事が無い女騎士もいるようだ。
何故?何故ここにアイシャさんが居る?
あの、女騎士さんは誰なんだろう?
ああ、だめだ、アイシャさん……此処にはオーク・キングがいるんだ。
僕の事はいいから、早く逃げて!
此処は絶望的な戦地なんだ、アイシャさんのような綺麗な人がいたら……真っ先に狙われてしまう。
アイシャさんがオーク共に陵辱されるなど、絶対に……絶対に認められない!!!!
「アイシャさん、ダメだっ、逃げてっ!!」
僕は腹の底からアイシャさんに向かって叫び声を上げる。
しかし、僕の叫びが聞こえているのか、それとも聞こえていないのかアイシャさんは更に射続ける。
一射、二射、三射……。
アイシャさんから連続して放たれる矢はオーク目がけて正確無比に飛んでいく。
流石、元B級冒険者だけあって、オークに的確にダメージを与えているようだ。
ハイオークにもオーク程では無いにせよ、確実にダメージを与えている。
アイシャさん達を逃がす為にはこいつらをさっさと倒すしかない。
しっかりしろ!マインっ!!
そう考えをまとめ、素早くヤツらのスキルを奪い取り、自分に【補助魔法・徐々回復大(体力)】を掛ける。
まだ、多少よろめきはするが、しっかりと立ち上がり、両手の短剣を握りしめる。
【脚力強化・小】と【俊足(小) 】【身体強化・小】【身体強化・大】を重ね掛けし、一気にオークへと肉薄する。
先程のような出会い頭の事故のような場合ならともかく、強化をしっかり掛けた今の状態なら、油断しなければ問題無く倒せる。
そしてその目算通りに、四体のオーク達はあっさりと僕に切り伏せられた。
だが、油断はまだ出来ない。
北側から迫ってきていたオーク・ジェネラル達がすぐ側まで来ているのだから。
オーク達が倒した事を確認し、アイシャさんと隣の騎士さんは僕の元へと走ってきた。
「マイン君!大丈夫!?待っててすぐに回復をするから!!」
「大丈夫です、自分でやりますから……、それより二人ともすぐに此処から逃げて下さい。間もなくオーク・ジェネラルが三体此処に来ます」
オーク・ジェネラルと聞き、アイシャさんよりも隣にいた女騎士さんの方が驚きの声を上げた。
「ま、まて!?オーク・ジェネラルだと?なんでS級モンスターがこんな所にいるんだ!?」
「理由は分かりませんし、考えている時間はありません、すぐに逃げて下さい!!それにジェネラルがいると言う事は……」
僕がジェネラルが向かってくる方向とは反対側を指さして、逃げるように促す。
「オーク・ジェネラルが居ると言う事は……そうか!?オーク・キングも居ると言う事か!!!?」
女騎士がそう叫んだ瞬間、狙っていた訳では無いだろうが、オークの集落全体に響き渡るような雄叫びが聞こえた。
『ウガォォォォォォォォォォッ!!!!!!!』
……間違いない、ヤツだ。
僕の【気配察知・中】に反応がいきなり現れた。
ジェネラルと比べて、更にとてつもなく大きな気配……。
間違い無い、オーク・キングだ。
遂にヤツの存在が顕わになった、ヤツがこの場に現れる前に何としてもジェネラル三体を倒さねばならない。
「二人とも急いで……早く此処から逃げて!はやくっ!!!!」
だけど、僕の懸命の訴えは……間に…合わなかったっ……間に合わなかったんだ……。
なんでだ、なんでなんだよっ……!!
「なんで”キング”が先に来るんだっ!!!ちくしょうっ!!!!」
お読み下さってありがとうございます。
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次で、きっと次でオーク集落は終わる。
そんな風に思っていた時が私にも有りました……。
オーク集落編?もうしばらく続きそうです。
申し訳ありません。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。
・言い回しを修正。