第228話 ルイスの婚約
「……はい、私こそルイス様にはふさわしく無い女ですがこんな私でよろしければ……」
「何を言ってるんですか!ルカ様みたいに素敵な女性はなかなかいないですよ」
「……じ、実は……私魔族に捕らわれている間、魔人の性奴隷にされていたんです」
「マイン様が対処して下さったので事なきを得ましたが魔人の子も身ごもってしまいまして……」
「なっ、なんだって!!!それは誠ですか?お、おのれぇぇっ、魔人共めぇ」
「こんな私でもルイス様のお嫁さんになれますでしょうか?」
「ルカ様、私の意思は変わりません。寧ろそんなお辛い思いをされたのなら、こそ、あなたは幸せになるべきだ。いやっ!、してみせる。この私が!」
「……ル、ルイス様是非、私を貰って下さい。この結婚是非お受けしたく思います。生涯、貴方と共に暮らしたいと思います」
ルイス様……このお方が私の生涯の伴侶……。私のような女を事情を知った上で愛してくれる。とても素晴らしい方。
「あ、ルカ様、この件って誰が知っているんですか?」 「マイン様とピロース、シルフィード様、アイシャ様の四名かと」
「父王陛下と我が父には私と義兄から話しておきましょう。ルカ様はお辛いでしょうから」
「ルイス様……すみません、お願い出来ますでしょうか」
「私達は結婚するのですから、他人行儀はよしましょう。私の事は是非、ルイスとお呼び下さい」
「……はい、では、ルイス……では私の事もルカとお呼び頂けますか?」
「よ~し、ルカ。二人で一緒に絶対に幸せになろう!」
「そういえば義兄が来ていたな、少し話をしてくるか。ルカ、その後で僕達の結婚の報告を父達にしにいこう」
「わかりました、マイン様とお話が終わるまで待ってます、ルイス」
(恐らくいつもの居室にいるだろう)
私は自然と足早となりながら義理の兄が居ると思われる部屋へと向かう事にした。
……コンコン
「すまん、ルイスだ。義兄上、姉上 居るか?」
「何だ、ルイス……、旦那様も私もいるぞ」
「ああ、姉上、ちょっと話がしたいのだが時間を貰えないだろうか?」
「……ん、なんだルイス、ルカ様と用事があったのではないのか?」
「あ、姉上、それだ。ルカの事で話があるんだ。すまないが時間を取ってくれないか?」
「……ルカ?ああ、取りあえず中に入ってくれ」
「すまない、姉上」
「まあ、座れ」
「ルイス殿下、それでどのようなご用件で?」
「ああ、義兄上、ルカの事だが、彼女が魔人の子を身ごもったというのは本当なのか!?」
「……」
「……ええ、本当です。どこでその話を?」
「本人から聞いたのだ」
「……そう、ですか。ルカ様が……」
「既に僕の【カット】で妊娠の事実は切り取ってますが、妊娠していたのは間違い無いです」
「やはり、そうなのか……出来れば誤りで居て欲しかった」
「そうですね。僕もそう思います」
「ところで、ルカ様と何かあったのですか?」
「ああ、父上が私とルカの婚姻を望んでいるのは知ってるか?」
「ええ、知ってます」
「先ほど、その話とは関係無しに私から彼女に求婚をしたのだ」
「良くやったぞ、ルイス!で、彼女は?」
「ええ、受けてもらえましたよ」
「おお、それはおめでとうございます。ルカ様を必ず幸せにしてあげて下さい」
「ああ、勿論だ。彼女は絶対に幸せにならねばならない、で、子供の事はもう気にしないで良いのだな?」
「ええ、間違い無く。次に彼女が妊娠したら間違い無くルイス殿下のお子ですよ、安心して下さい」
「それで、義兄さんにお願いがあるのだが……私と一緒に父とジャック様のところに報告に行ってはもらえないだろうか?」
「はい、勿論構わないですよ。……けどルカ様の承諾は得ているのですか?」
「……勿論だよ彼女が悲しむ事を俺がするわけないだろう?」
「……そうですね、では参りましょうか」
僕はルイス様にそう言いながら【地図】を開き、お二人がどこにいるかを探し始める。
執務室に見当をつけて確認してみると、大正解。二人とも揃って居た。
つかつかと部屋を出て行く僕にルイス様が慌てて声を掛けてきた。
「ち、ちょっと待ってくれ、どこいくんだ」
「執務室です。そこにお二人がいるようですので」
「なるほど、何故判った?」
「そういうスキルが有るのです」
「もう、義兄上は何でも有りですな……」
「さあ、行きましょう」
トントン
執務室のドアをルイス殿下がノックする。すると中から「誰だ?」とファーレン様の声が聞こえてきた。
「ル、ルイスです。父上、お話がございます」
「話だと?急ぎなのか?今オオセ国王殿と話し中だ。緊急でないなら後にしろ」
「ジャック様もお見えなら尚更都合が良いです。父上!時間を下さい。大事な話なんです」
「わかった、わかった。珍しいなお前がそんな声を出すのは」
ルイス様の切羽詰まった声にファーレン様も大事な話だと理解したのだろう自ら扉を開けてこちらの様子を伺い見ている。
「おお、なんだマインも居たのか、二人ともさっさと中に入れ」
「マ、マイン殿!その節はお世話になりました」
中に入った途端、ジャック様から大変丁寧なお礼の言葉をいただき、恐縮しながら席に腰をおろすとジャック様が話しかけてきた。
「マイン殿、ルカの事だが……前も話したとおり嫁にもらってもらえぬか?あれもあなたの事を好いているはずですし」
なんだってっ!?その話はきっぱりと断った筈でしょ!!
「ジャック様、この前もお話した通り、私には妻がおりますので、大変申し訳ないのですが……」
それだけ口にしてからルイス殿下の様子を確認してみる。
口元をきゅっと引き締め肩を震わせているみたいだ。まあ、そりゃ、そうだよね
「それです!マイン殿」
「今マイン殿の下にはオーガスタ、リッツの王女が嫁いでおります。ここでオオセの王女が嫁げばマイン殿の名の下に各国の協力関係も高まり
魔王軍へ反撃の大きな狼煙となりましょう。後はローラシアも巻き込めれば言う事無しなのですが……」
ここまで一気にジャック様が話すとファーレン様が
「ローラシア……か 姫巫女シーラ様か?」と呟く。
言ってる事は理解出来るし、それが良い案だと言うのもよく判る。
ただし、当人の意思が全く絡んでないのだけは理解しがたい。
「ジャック様、大変申し訳ないのですが、僕はこれ以上お嫁さんを貰う気はありません。」
僕が改めて拒否したところで、ファーレン様が口を開く。
「で、ルイス、用事とは何だ?」
「今の話を聞いた後では大変に話しづらいのですが……先日お話をいただきましたルカ様との結婚ですがお受けしようと思いまして」
「ルカ様には正式に結婚を申し込みお受けいただきましたのでそのご報告と……えっと」
「なるほど……それは吉報だな」
「えっと、ルカ様ですが……お助けした際に確認したのですが……魔人の子を身籠もっておりました」
「子供については僕がスキルで対応したのでもう生まれる事は有りませんけれど」
「大事な事なのできちんとお話しておこうかと……」
僕がそう言うとジャック様は、がっくりと膝を床に付き、目から大粒の涙を流し大きな声で泣き出してしまった。
「ルーイス、お前はその事実を知った上でルカ様を娶ると言うのだな?」
ファーレン様がルイス殿下に詰め寄る。
するとルイス殿下は起立して、まっすぐにファーレン様の目を見て「はい」と答えを返した。
「顔をお上げ下さい、お義父さん。いや……ルカさんを僕に下さいますか?」
「ルイス、ルイスどのぉぉ、本当にいいのか?本当にルカを貰ってもらえるのか?あの子は優しい子なんです。親馬鹿かもしれんが、きっと素敵なお嫁さんになる。あの子を幸せにしてやってくれ」
「……はい、必ず幸せにします。明かせて下さい」
「父上、新居はルーカスに建てようと思うのですがよろしいでしょうか?」
「あそこなら姉上もいるし、サーシャ様もお見えになる。ルカも見知った同性が居れば安心出来るだろうと思いまして」
……ん??初耳だぞ
「マイン、子供の処置は間違い無いんだな?」
「はい、間違いありません」
「僕達の話は以上となります。お時間ありがとうございました」
ルイス殿下がそう言ってゆっくりと退出していくので、僕も慌てて一礼して後に続く。
「ああ、二人ともルカ姫の今の話は当然だが他言無用だ。必要な人間には私が話そう。誰がこの件を知っている?」
「ピロースとシルフィ、アイシャだけです」
「ふむ、彼女たちにも他言無用を徹底するように伝えなさい。行っていいぞ、ご苦労だったな」
ふう、気がかりだった周囲への報告が片付いたよ。良かった。
「ルイス殿下、ご婚約おめでとうございます」