第225話 セシルの挑戦
セシル団長が自信満々に僕に模擬刀を手渡してくる。
「あの僕の武器は短剣なんですが……」
「それはすまない、ではこれを使いたまえ」
セシル団長は薄笑いをしながら木製の短剣を放り投げてきた。
的外れの方向に投げられた短剣を僕は軽くジャンプして受け取り着地と同時に【魔纏衣】を使用する
最初は威力の弱めの魔法を纏うつもりだったが彼の態度を見て気が変わり極大魔法を使う事にしてみた。
ただし一番殺傷効果の低い【範囲魔法・水極大】だ。
これで使えてるのかな?特に何か変わったように思えないのだけど……
ま、接触されれば判るだろう。
「おい、おい聞いたか?セシル団長がマイン殿と模擬戦やるみたいだぜ」
「ああ、セシル団長最近、伝令とか使いっ走りばかりだもんな焦ってるんじゃねーか?」
「ああ、ここで、英雄と名高いマイン殿と戦って見せてファーレン様に実力をアピールしたいんじゃねーのか?」
え?セシルってば中々戻って来ないと思ったら一体何してるのよ!
「すまない、ミーティア、旦那様を見かけなかったか?」
「……これはシルフィード様」
「いえ見かけてはおりませんが、何でもセシル団長と模擬戦を行ってるらしいですよ」
「何?それは面白い、ミーティア、お前も付いてこい、見に行こう」
「はい……姫様」
「だんなさまぁ~~~っ!」
「あれ?シルフィ、一体どうして?」
落ち着いて周りを見回してみるとシルフィをはじめとした見物人が多数いる事に気がついた。
セシル団長はというと長槍を構えこちらの様子を伺っている。
「見物人がいるんじゃスキルは使えないか……」
【魔纏衣】も余り見せたくないけど、仕方ないか。
もう戦いは始まってる。余計な事は考えるな! 僕は団長目がけて突進する。
いつもならもっと慎重に突っ込むんだけど今はいい。【魔纏衣】の効果を信じるのみだ。
『……マイン……聞こえるか?マイン』
『この声は……マイヤさん?』
『そうだ。マイヤだ、いいか、マイン【魔纏衣】は己の体にだけ使える訳では無いぞ。任意の場所(物)を指定出来るのだよ』
『例えばドアノブだ。ここに纏わせておけばドアを開けた際に纏わせていた魔法を喰らう事になる』
……へえ、そんな使い方も出来るのか。という事はこの短剣に魔法を纏わせれば……
新たな情報を得て考えをまとめているとセシル団長は槍を構えたまま猛烈な勢いで突進してきた。
「喰らえ~~、武技:ツインブラストォ」
セシル団長の裂帛の気合いと共に矛先が僕目がけて迫ってくる。【魔纏衣】を使い風魔法を短剣に纏わせて、僕は同じく短剣の武技で応戦する。
「武技:ダンシングバイトォ」ダンシングバイトは
シャークグロウのように一撃必殺の武技では無い連続して対象に剣戟を与える武技だ。セシル団長の放った武技も連撃で放たれる武技だったので、今回はこの武技で対応する。
シャークグロウに比べて一撃の重さは低いが連続して放つため、外す事が無いのが利点だ。
僕の短剣とセシル団長の槍がぶつかり合うとベキっと言う甲高い音がしてセシル団長の槍だけが砕け散った。
恐らく【魔纏衣】の魔法効果でセシル団長の武器は砕けたんだろう。普通に考えれば短剣の方が砕け散る筈だ。
「ちッ 運が良かったですね」舌打ちしてセシル団長は闘技場を去って行こうとする、が……。
「旦那様ぁ、お疲れ様」
戦いが終わったと判断したのだろうシルフィがタオルを持って僕目がけて走ってくる。
セシル団長の舌打ちと捨て台詞が聞こえたのだろう。
シルフィが鬼の形相で、セシル団長をにらみつけた。
「ほう、セシル、私の旦那様に文句があるみたいだな?なんなら私が相手になろうか?無論真剣で、だ」
う~ん周りの視線がどうにも痛い。
結婚してもシルフィの人気は騎士達を中心に相変わらず高いようで、そんな彼女を独占している僕に対する視線は厳しい物がある。
特にたった今戦っていたセシル団長の視線は凶悪で視線で僕を射殺そうとせんとばかりに睨みつけてくるのだ。
「なんだ?セシル旦那様を何故睨む?」
険悪な雰囲気になりかけたときにミーティアさんが割り込んできた。
「セシル……ファーレン様に結婚の許可を頂きに行くって約束したでしょ、何やってるのよ!!」
そうしてセシル団長はミーティアさんに耳を引っ張られながら去って行ったのだ。
「おい、聞いたかよ、セシル団長とうとうミーティアさんまで毒牙にかけたのか?」
「ショックだー、俺、あの人好きだったのに~」
「最近、団長が閑職に回されてるのってこれが原因じゃないか?」
周りからそんな声が聞こえてくる。
「セシルの事はもういいから帰ろう、旦那様」
「……うん、そうだね。マイヤさんの様子見てから帰ろうか」
そして僕もシルフィに腕を引かれて闘技場を後にするのだ。
そう、マイヤさんが無事ならここに長居する必要は無いのだ。
最近の投稿ミスすみませんでした。今回は大丈夫だと思います。




