第20話 やばい、ばれるかも!?
時間は少し遡る。
ライルに呆れ果て、パーティ解散を決めたライルの元仲間達は別れたその足で真っ直ぐにギルドへ向かっていた。
「あの様子じゃ、すぐにでも行動を起こしそうだ。早く解散しねーと俺達もやべえ」
「あの、クソ馬鹿野郎がっ!」
そう、事が起こってからでは遅いのだ、そう思うと自然に彼らの足は早くなる。
冒険者ギルドに到着し、すぐに周りを見回すと今回の問題の発端とも言える受付嬢のアイシャを発見した。
まさに今業務を終え、バックヤードへと戻っていく所のようだ。
「アイシャさん!待ってくれ!!」
メンバーの一人が大声でアイシャを呼び止める。
アイシャもその声に気が付いたようで、振り向いてその足を止めたのだった。
そして、他の受付嬢達の邪魔にならないように専属カウンターの方へ移動する。
それを見て、メンバー達がアイシャの側に歩み寄る。
「良かった、アイシャさんがいて。聞いてくれ、ライルの野郎がアンタが専属をしている新人を殺す気だ!」
「……どういう事ですか!?」
「あの新人のせいでアンタが自分の専属にならなかったと思いこんでるからな。それで酒場で荒れて周りの冒険者に絡みまくって……、結果、袋にされたんだが、その時にした怪我もあの新人が居なかったらとか言い出して……」
先日のライルの様子を思い出して、納得するアイシャ。
しかし、殺すなど……余りにも短絡すぎる思考だ。
過去のライルの様子や行動から、全く想像が出来なかった。
「俺達も必死に止めたんだ!……だけど、あの野郎、全く聞く耳を持ちやしねえ。それであいつのとばっちりを受けるのはごめんなんでパーティを解散するために来たんだ」
「分かりました、解散の対応はあちらの正規カウンターで行って下さい、私はこの件をギルド長に報告してきますから!」
彼らが言う事が本当なら、マインが危険だ。
ライルは、B級昇格が間違い無しと言われている凄腕の冒険者だ。
そんな人間が冒険者になったばかりの新人を本気で殺しにかかったら、かなう訳がない。
ギルド長に相談し、至急ライルの身柄を拘束する必要がある。
ライルを拘束するためには、当然それを制圧するだけの能力がある冒険者を用意する必要がある。
それは、ギルド長の認可が必要となる案件となる。
マインを保護するという手もあるが、彼は今自分が推薦した依頼を達成すべく、この町にはいない。
焦る気持ちを隠さず、アイシャはギルド長の執務室に飛び込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ライルのパーティメンバーが解散の手続きを終え、帰っていく頃……。
アイシャから報告を受けたギルド長はマインの専属受付嬢アイシャと共に緊急で呼び寄せた三人の冒険者と話をしていた。
その三人の中には、以前馬車の中でマインが目にしたC級冒険者キースも含まれていた。
事情を三人に話して、指名依頼という形でライルの捕獲を命じる。
「いきなり呼び寄せてすまんな、流石に見逃す事が出来ない話だからな」
「ああ、分かったよ。しかし、ライルの野郎がねえ……、ちょっと考えられんな」
キースがそう言うのも無理は無かった。
ライルという冒険者は今まで素行について問題視された事は無い、それなりの人格者という印象がギルド内での評価だったからだ。
「まあ、あやつはアイシャ嬢ちゃんに惚れておったからの……、恋の怨みというヤツなんじゃろうよ」
そう言って肩をすくめるのは、背の高さが140cm程の冒険者だ。
ダビデという名のドワーフである。
C級冒険者だが、ライル同様間もなくB級に昇格するだろうと言われている凄腕冒険者である。
「恋って言ってもな、専属になっただけで恋人になったわけじゃないんだぜ?」
ダビデの言葉を聞いてフラッドが答える。
フラッドは斥候を得意とする猫の獣人だ。
二人の会話を聞いてアイシャは表情を曇らせるが、黙って様子を見守っている。
「まあ、そんな訳だからな、早速ライルの野郎を拘束して此処につれてきてくれや」
ギルド長が手を叩きながらそう言って話を打ち切ると、三人の冒険者は早速行動を開始し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何っ!!ライルの野郎が新人を連れて出ていっただって!?」
キース・ダビデ・フラッドの三人がギルドを飛び出して5分程たった頃だ。
私の同僚であるミルから受けた報告を聞いてギルド長が大声をあげる。
「やばいぞ、アイシャよ、あの野郎……既にマインのヤツを連れだしてやがった」
ギルド長が珍しく焦った声で私に話しかけてくる。
「ミルっ!?それでどっちの方へ向かったの!?」
切羽詰まった声で私が問いかけるとミルも深刻な状況だと理解したのだろう、彼らが向かった方角をすぐに教えてくれる。
私はミルから答えを聞いてすぐ昔使っていた弓と矢筒をロッカーから取り出した。
「ギルド長、私が向かいますっ!」
引退したとはいえ、私も元B級冒険者である。
油断さえしなければライルを取り押さえる事も出来る筈だ。
「お前一人だけでは危険だ、俺もいくっ」
ギルド長も両手剣を持ち出してきて背中に背負いながら、私に答える。
私達は全力疾走で夜の町にとけ込んでいくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私とギルド長が20分程、走った辺りで不意に何かが砕ける音が響き渡る。
『ドギャッ!!』
あの方向は確か廃墟があるだけで、人が殆ど来ない場所だった筈。
そんな音がするのは余りにも不自然だ。
きっと、そこにマイン君とライルがいる。
既に戦闘が始まっているのだろう、実力差から言えばマイン君がライルに勝てるわけがない。
打撃音のような音だったので、ライルの戦闘スタイルを考えると、マイン君がやられてしまった音だったかもしれない。
焦りながらも私とギルド長は顔を合わせて頷き合い、音がした方向へと進路を変更したのだった。
そして、やっと辿り着いた目的の行き止まりまで辿り着いた時、目の前に飛び込んできた光景は……。
マイン君の足下で崩れ落ちている……ライルの姿だった。
「マイン君っ!」
思わず、私が大声を上げると彼はこちらを見て、少し驚いた表情を見せたが、すぐに安心したのかホッとした様子で座り込んでしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
静寂の中、突然響いた僕を呼ぶ声。
声がした方向を見ると、アイシャさんが何故だか立っていた。
しかも、武装してるよ?どうしたんだろう……。
滅多に人が来なさそうな場所なのにね。
そんな事を考えているとフッと急に体から力が抜けて、崩れるように尻餅をついてしまった。
ああ、そうか。
さっきまでの戦い、思ったよりも気を張っていたんだな。
知り合いの顔を見た事で安心したのかもしれないね。
何はともあれ、これでもう一件落着かな?
「大丈夫ですか!?マイン君!!」
僕、目がけて一直線に突っ込んでくるアイシャさん。
抱きつかれる格好で受け止めたけれど、思いの外に強い衝撃に思わず倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですよぉ……それよりアイシャさん、何でこんなトコに?」
アイシャさんの体から女性特有のいい匂いを感じながら、さっきから思っている疑問を投げかけてみる。
「ライルさんのパーティメンバーから聞いたんです。彼が逆恨みでマイン君を殺そうとしているって……」
ああ、そうか!僕を心配して武装までして、こんなとこに来てくれたのか!
ようやく理解出来たよ!けど、アイシャさん受付嬢なのに戦えるのかな??
名前:アイシャ・ローレル
LV:28
種族:ヒューム
性別:女
年齢:26歳
職業:冒険者ギルド受付嬢
【スキル】
魔法・回復大Lv4
弓術・聖Lv3
料理Lv6
うおっ、なんだこの強さ……。
ライルより全然、強いぞ!?
というか、今まで見た人の中で一番強いんじゃないか!?
余りの衝撃に僕が唖然としていると、アイシャさんの不審気な声が聞こえた。
「……どうしたの?マイン君」
いけない、いけない集中しなきゃ。
「い、いえ何でもないですよ!それよりありがとうございます、それよりもこんな場所にアイシャさんみたいな綺麗な人が一人で来たら危ないじゃないですか!」
慌てて、そう言うとアイシャさんの後ろから「オホンっ!」という咳払いが聞こえた。
あれれ?ギルド長までいる!?全く気が付かなかったよ!
「二人で仲良くお話をしているところ、すまないがね……一応、俺も居る訳だが?」
僕は慌ててギルド長に謝罪をすると、にやりと笑いながら「冗談だ」と言って貰えた。
「まあ、なんだ。俺も一応付いてきたわけだが、アイシャに何か出来るヤツなんざ、そんなには居ないからな。その辺は大丈夫なんだよ」
何でもアイシャさんは元冒険者だったんだって!しかも”B級”!!!
二年程前に組んでいたパーティが解散になったので、ギルド長がダメ元で声を掛けたら、あっさりと受付嬢を引き受けてくれたらしい。
なるほど、あの強さはそういう事だったのか。納得だよ。
「……ところで、これは君がやったのか?」
急にギルド長は真面目な顔になり、白目を剥いて地面に転がっているライルに向かって視線を向ける。
「はい、僕がやりました」
すると、ギルド長もアイシャさんも驚愕の表情を浮かべた後、マジマジと転がっているライルを見る。
「悪いが信じれないな……成人したての君がC級の中でもトップクラスのコイツを倒すなんて……」
あ、しまった!!
これ、不味くないかな?
スキルの事は内緒なのに……どうしよう?
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。