第19話 C級冒険者、ライル
ギルドに到着した時には、既に日は暮れており、賑わっていたギルド内も随分と閑散としている。
ぱっと見回してみたが、アイシャさんは居ないようだ。
カードを専属カウンターに差せば、きっと出てきてくれるのだと思うけど……。
こんな時間だしね、もう交代したんだろうと思う。
休んでいる中、わざわざ出てきて貰うのも、申し訳ないからね。
依頼の報告は明日にして、今日の所は帰ろうかな。
そう思っていると後ろから声を掛けられた。
「……よう、坊主」
ん?誰だろ?初めて会う人だ。
高そうな装備をしているから、きっと強い人なんだろうな。
「こんばんは!何でしょうか?」
「俺の名はライル……悪いが俺と一緒に来てくれないか?」
なんだろ、なんかこの人……怖い気がするな。
名前:ライル
LV:22
種族:ヒューム
性別:男
年齢:28歳
職業:冒険者(C級)
【スキル】
格闘・極
指弾
木工
うわっ、本当にこの人凄いや!【格闘・極】を持ってるし、本人のレベルも22とか……。
けど、やっぱりこの人知らないよなあ。
なんか、 表情は笑顔なんだけど目が笑ってないんだよね。
冒険者に成り立ての僕なんかに何の用なんだろう?
「……えっと、何のご用でしょうか。失礼ですけど初めてお会いしましたよね?」
僕が警戒しているのが分かったのだろう。
目に見えて態度を軟化させ、笑顔を見せて「悪いようにはしない」と口にした。
だが、僕は気がついている。
笑顔を見せているが目は全く笑っていない事に。
どうしよう……。だけど、まだ何かされた訳ではないし……断れば後々絡まれたり、面倒くさい事になるかもしれない。
あの目はとても気になるけど、いざとなれば逃げればいいし、取りあえず付いていってみようか……。
「……この後、用事があるので余り時間は取れませんが……」
「ああ”すぐ”に済むよ、付いてきてくれ」
僕が付いてくる事に満足したのか、そう言うとギルドから出て行く。
何かイヤな予感はするものの、取りあえず後の面倒事を避けたい一心で、その後を追って付いていく事にする。
ヒヨルドの時のような事があっては困るので、僕はこっそりと自己強化のスキルを全て掛けておく事にする。
あとは……保険でスキルを全部奪っておこう。
何も無かったら返せばいいしね。
こっそりと僕が色々やっている間にどんどん周りの景色が人気の無い物へと変わっていく。
「えっと、何処までいくのでしょうか?」
僕がそう問いかけても、何も返事を返さずに無言のまま歩いて行く。
やはり……これは良からぬ事を考えてるんじゃないだろうか。
油断しないように、身構えながら歩いて行くと、遂に目的地に着いたようで彼の足が止まった。
周りを見回すと人気は全く無く、廃墟のような建物が目の前に建っていた。
「悪かったな、こんなとこまで来て貰って。それで俺の用事なんだがな……お前に此処で死んでもらいたいんだ」
やっぱりそうなのか……。
「理由を聞いてもいいですか?ギルドの中でも聞きましたが、お会いした事無いですよね?」
何故、初対面の人に殺されなきゃならないんだ。
勿論、全力で抵抗をさせてもらうんだけど、その前に理由位は聞いておきたい。
「これから死んでいくヤツに説明する必要があるか?」
だめだ、とりつくシマもない。
鋼鉄製の短剣を手に取りながらも、それでもなんとか会話で回避出来ないものかと、話しかける。
「ギルド員同士の殺し合いは禁止されている筈でしょう?こんな事がばれればアナタもただでは済まないでしょう!?止めて下さい!」
僕の必死の説得も彼の耳には全く届いていないようだ。
その証拠に両拳をぐっと握りしめて半身で身構えて戦闘の構えを取り始めた。
【格闘・極】を持っていたからね、これが彼の戦闘態勢という事なのだろう。
仕方ない、格上が相手とはいえ、スキルは既に奪っている。
そして、僕自身が多くのスキルを持っている事を当然ながら彼は知らない。
不意を突けば何とかなるんじゃないかと思う。
「せめてもの情けだ、最初の一撃だけは受けてやるよ、掛かってきな」
その余裕、いつまで続くかな?全力で反抗させてもらうぞ!
事前に掛けておいた自己強化は【身体強化・小】【脚力強化・小 】【豪腕】【鉄壁】【補助魔法・徐々回復小(体力)】この五つだ。
それに加え【気配遮断・中】と【俊足(小) 】を追加する。
気配遮断というスキルは自分の存在感を希薄にするスキルだ。
誰も見ていない所で使えば、相手に気が付かれにくくなるし、目に見えている状態でも一瞬相手の視界から消え失せる事が出来る優秀なスキルだ。
つまり、今のこの状態で使えば……そう、相手が反応する前に懐に飛び込む事が出来る。
そして、懐に飛び込んだ僕は切り裂くように全力で短剣を真一文字に振るう。
「ぐあああああああああっ!」
そして僕はすぐさまバックステップで元いた場所まで飛び戻った。
恐らく彼には一瞬僕の姿が消えたと思ったら、胸がいきなり真一文字に裂けたとしか思えないだろう。
「き、キサマァ!!!何をしたあああ!!!!!」
胸の傷を腕で押さえながら、僕に向かって彼は叫んだ。
「何って、初手を譲ってくれるって言うので攻撃したんです。僕も殺されるわけにはいかないですから……」
油断していたんだろうと思う。
僕が与えた傷は見た感じ、かなり深そうに見える。
何の革なのかわからないけど鎧を切断し、肉を絶つ感触がこの手に残っている。
致命傷とまでは言わなくても、ほっておけば無事ではいられない程度にはダメージを与えれたと思う。
「どうでしょう、これで引いては貰えませんか?」
「巫山戯るナァァァァァァァッ!!!!!F級なんぞに俺が負けるわきゃねーだろうがぁああ!!!!」
憤怒の形相で、僕に向かって突っ込んでくる。
……恐らく【格闘・極】がまだ彼の手元に残っていたのならば、深手を負っていても僕にとって脅威になったろう攻撃。
だが、今の彼は深手を負った上にスキルは……ない。
彼が渾身の力を篭めて放ったその拳は悲しい程に力が乗っていない。
そして深手を負った影響なのか大きくバランスを崩していた。
その結果、当然ながら……おそらく全力で振るったであろう、その拳は……空を切った。
その隙に僕は短剣を放り投げ、彼から奪った【格闘・極】と【豪腕】を乗せた拳を彼の鳩尾へと全力で振るう。
『ドギャッ!!』
何かが砕け散ったような大きな破壊音が辺り一面に響き渡る。
ライルは口から大量の血を吐き出し、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
暴漢を撃退して、ホッと一息を付くと右拳から激痛がする。
「痛ゥッ」
拳を見てみると、グシャグシャに潰れて血まみれになっており、所々に骨が折れて剥き出しになっているのが見える。
慌てて【魔法・回復小】をかけるが、一回では足りず何度も繰り返して何とか傷を塞ぐ事が出来た。
ナックルガードも付けずに【豪腕】+【格闘・極】等という破格の破壊力をその拳に受けたのだ。
そりゃあ拳だって砕けてしまうだろう。
ともあれ、これで何とか窮地は乗り切ったのかな?
【改稿】
2016/12/27
・ライルのスキルレベルの表記を削除。
2017/03/11
・全般の誤字を修正。