第188話 CASE:ちゅん介 with カッポレ(4)
「ちゅん美ちゃん、頑張って!」
わっふるから貰った回復薬は全部で5本。
一度に沢山使っても効果は薄いと聞いたので、時間をおいてちゅん美ちゃんにかけているんだちゅん。何とかこれで王都まで、ちゅん美ちゃんを生きながらえさせないと……。
まさか、ご主人がちゅん美ちゃんを食べようとするなんて、予想外過ぎたんだちゅん。僕のことを食べるならともかく(……けど、あんまり食べて欲しくはないちゅん)ちゅん美ちゃんを食べようとするなんて言語道断ちゅん!流石にこうなってしまっては、ご主人について行く事は出来ないちゅん。
ご主人、お世話になりましたちゅん。
ちゅん介が居なくなっても、ご飯をちゃんと食べるちゅん。
朝もちゃんと起きるちゅん……。
……さて、何とか元ご主人の手から逃げれたのは良かったのだけれど……。
今、僕が頼る事が出来るのは、最近知り合った狼の魔物のわっふるとくじらの魔物のクゥの2匹だけちゅん。
……だけど、僕はあの2匹が何処に住んでいるのか知らないちゅん……。
だから、まず王都に行くちゅん。
王都のあのお医者さんなら、きっとちゅん美ちゃんを治療してくれるちゅん!
ご主人に内緒で僕にパン屑を食べさせてくれたちゅん!だからいい人ちゅん!!
その間にわっふる達を探すちゅん!!絶対に……絶対にちゅん美ちゃんを救ってみせるちゅん!だから、ちゅん美ちゃん、頑張って!!お願いだから死なないで……。
死ななかったら僕の秘蔵のパンをあげるちゅん、一緒に食べるちゅん!……だから!!
ちゅん美ちゃんを背負って、王都まで飛ぶのはハッキリ言って大変ちゅん。
だけど、今はそんな泣き言を言ってる場合じゃない。
頑張れ僕!頑張れちゅん介!お前が頑張らなければ、大事な命が永遠に失われてしまう。
僕は自分自身を鼓舞し、王都の方向をキッと見据えて必死に翼を羽ばたかせるのだった。
◆◇◆◇◆
「……行ってしまいましたな」
馬から降りて、ちゅん介が飛んでいった方角を見ながら騎士はそう言った。
「ちゅん介ぇぇぇぇ、戻って来ぉぉぉい!!!!主人の言う事が聞けないのか!!」
畜生、あの馬鹿雀めぇ!!誰のおかげで今日まで生きてこられたと思ってやがる。
そもそもテイムしてる筈だ、なんで俺の命令を聞かねえ?
今日までそんな事は一度も無かったのに!あの死にかけの雀が何だって言うんだ?
あの傷だ、どうせすぐ死ぬんだ。だったら俺の空腹を満たす糧になった方がいいに決まってるだろう。何故、それがわからねえんだ!
「さて、これからどうするつもりだ?」
「ああん?」
何を言ってやがるんだ、こいつ。
大体、最初から上から目線で気に入らなかったんだ!そもそもどうするって何をだ?
もっとわかるように喋りやがれってんだ!!!
「……はぁ、だから私はこんな奴を騎士団に入れるのは反対だったんだ。状況すらわからんとはどこまで馬鹿なんだね。いいかね?馬鹿なお前の頭でもわかるように話してやろう」
「ああ?てめえ誰に向かって口を聞いてやがる!俺様はセシル団長直々に騎士団に迎え入れられた期待のホープなんだぜ!その俺様に向かってそんな口を聞いていいと思ってんのか!?ああ!?」
「その騎士団に何故、お前のような役立たずが呼ばれたのか良く考えてみろ。お前がセシル団長に今回受けた命令は何だった?空中からの偵察任務だろう。使い魔が何処かに行ってしまったんだ。お前、どうやって任務を達成する気なんだ?」
……何だって?そう言えば確かにそうだ。
第一騎士団よりも早く未知の魔物を探すと言うのが今回受けた任務だ。
後から出発した俺が第一騎士団より先に魔物を見つけ出す事が出来る可能性……それは空からの偵察に他ならない。
そして、それを実現するためには……こいつの言う通り、従魔であるちゅん介がいなければならない。……しかし、そのちゅん介は俺様の命令を無視して何処かに飛んでいってしまった。
「……そ、それは……」
「ようやく事の重大さに気がついたようだな?……で、どうする気なんだ?期待のホープ君としては?先ほどは随分と偉そうに話していたが、無論何か考えがあるのだろう?」
畜生、こいつ……わかってて言ってやがるな?策なんて有るわけねえ。
俺の使役している魔物はちゅん介だけだ。
そのちゅん介が居ない以上、手は何もねえ……ん?待てよ。
「ククククッ」
「ん?ついに狂ったか?」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!策が聞きたいと言ったな?いいだろう、聞かせてやろうじゃねえか。おめえは俺の職業がなんなのか忘れちまったのか?いいだろう教えてやるぜ、頭の悪いてめえでもわかるようにな!そうだ、俺の職業はテイマーだ!つまり魔物なんだ、新たにテイムすれば問題ねえんだよ!クククッ」
そうだ、別にちゅん介がいねえなら別にいいじゃねえか。
どうせ、あの屑雀なんざ、いずれどっかで野垂れ死んだに違いない。
なら、ここでいなくなっても問題なんか何一つ無いって事だろう?
死にかけの雀をちゅん介の奴が持ってきていたって言う事は、この森にも雀族がいるって言う絶対的な証拠だ。
また、雀というのもアレだが、今回は空を飛べる魔物が必要な訳だからな。
雀で妥協しておいてやろうじゃねえか。
「つうわけで、俺を雀族がいる所まで乗せていって貰おうか」
そうと決まれば即行動だ。
さっさと雀を探して、テイムしなきゃな。
「何を馬鹿な事を言ってる?なんで俺がそんな事に付き合う必要があるというんだ?」
「ああん?てめえは馬鹿なのか?てめえも俺と一緒に団長から今回の任務を受けたわけだろう?俺がテイムをしなきゃ任務失敗だ。そしたらてめえも困るんじゃないのか?ああ?」
そうだ、こいつと俺は既に一蓮托生だ。
こいつだって任務失敗したら困るのだから、俺に協力するのは当然の事だ。
こんな簡単な事もわからねえとは、騎士ってのも大した事はねえんだな、全くよ。
「……カッポレよ、お前は勘違いしているようだな」
あぁ?勘違いだと?
「俺の任務はお前を連れて、この森まで運ぶ事だ。偵察任務は俺の仕事の範疇では無い。つまり、お前に付き合う理由も必要も無いと言う事だ。意味がわかるか?ん?」
………………何!!?
「ば、馬鹿な!?何を言ってやがる!そんな訳無いだろうが!?」
「まあ、頑張るんだな!団長にはきちんと事の次第は報告しておいてやるからよ!んじゃな!」
あ、あの野郎……俺を置いて……帰って行きやがった。
マジかよ、こんな場所に一人残されたら……。
俺は生まれて初めて、背筋に寒気が走るという生理現象を体験したのだ。
◆◇◆◇◆
「……あ、あと少しちゅん……王都が見えてきたちゅんよ……ちゅん美ちゃん、頑張れ……もう少しちゅん、ちゅん美ちゃん頑張れ……」
一晩、休みを交えながらも僕は飛び続けた。
わっふるから貰った回復薬も残り1個しか残っていない。
だけど、この回復薬のおかげで何とかちゅん美ちゃんは小康状態を保つ事が出来ている。
「……ちゅん介……私よりもちゅん介が……その回復薬を……死んじゃうよ!」
「……大丈夫ちゅん、ちゅん美ちゃんは余計な心配をしないで体を休ませる事だけ考えるんだちゅん……もうすぐ、もうすぐ王都だちゅん……」
僕は決して諦めちゃいけない。僕が諦めたらちゅん美ちゃんはどうなる!?
絶対に、絶対にちゅん美ちゃんは死なせないちゅん!
……僕の命と引き換えにしても、絶対にちゅん美ちゃんを死なせるもんかっ!!!
残された体力を振り絞り、羽根を羽ばたかせる。
1メートル、また1メートル……王都が大きくなってきた。
もうすぐだ、もうすぐちゅん!あそこにお医者さんがいるんだちゅん。
あと少し、頑張るんだちゅん!!!頑張るんだ……あ……れ……おかしい……な……。
急に力が……力が入らなくなって……きた。
ダメだ、ここで倒れたらダメだ。
ちゅん美ちゃんを……ちゅん美ちゃん……。
「ちゅ、ちゅん介ぇぇぇぇぇっ!!!」
僕の意識がドンドン薄れていく。
おかしいな……王都が……王都が見えないよ……。
ちゅ……ちゅん……美……。
「いや、いやーーーーちゅん介ぇぇ、死なないで!」
『わふぅっ!!!!!!!』
意識が消えていく寸前、友達の……わっふるの声が……聞こえたんだ。
お読み頂きありがとうございました。
書籍一巻の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
アマゾンでも予約販売が開始したようです。
また、活動報告にラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
■マインとアイシャ
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また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。