第187話 国王様への報告(マインルート1)
「旦那様、旦那様……起きてくれ、もう朝だぞ!」
ゆさゆさと体を揺すりながら、僕を起こす声が聞こえてくる。
……これはシルフィだろうか。
「……あと、5分……」
僕がそうボソボソっと答えを返すと、体を揺する力が徐々に強くなってくる。
いや、まるで地震のように激しく体が揺れている。
「早く起きろーーーーーーっ!!!!」
!!!!!ッ!!
いつまでも起きようとしない僕にしびれを切らしたのだろう。
耳元から大声が聞こえてきた。
「……やっと、起きたか。旦那様が言ったのだぞ?明日は早めに出るからねって」
……ああ、確かにそう言った覚えがあるよ。
普通に起きれると思ったけれど、自分が思っていた以上に体は疲れていたのかな?
毎夜ごとに【固有魔法・時空】で家に帰って休んでいたけれど、迷宮攻略という物はやはり大変だと言う事なのかもしれないね。
そういう意味ではテイルズ達、従魔の輪廻はやはり三大クランと呼ばれるだけの実力があったと言う事なのかもしれないね。
……だけど、その従魔の輪廻も既に半壊状態だ。
リーダーであるテイルズは、魔人ザナドゥの凶剣に倒れ、既にこの世にはいない。
その遺体は僕の時間停止の収納袋に入っている。
同行していたクランのメンバー達もことごとく魔人が連れていたキメラに食い殺されてしまった。
流石にメンバー全員を迷宮に連れて行っていたと言う事は無いだろうから彼らの拠点には、まだメンバーはいるだろうが……。ああ、そう言えばカッポレとか言う人も一応生きてはいるのか。あの後、どうなったのかな?
王都には既にシルフィから伝わっているだろうが、事前の僕らへの挑発行為などもあるからね……恐らくこのまま解体となる可能性が高いだろう。
自業自得、まさにこの言葉がピッタリなんだと思うけれど、盛者必衰……何だか悲しい物があるよね。僕たちも心を引き締めて活動をしていかないと行けないよね!
「目が覚めたみたいだな、いつまでも裸でいないで、すぐに着替えてくれ。アイシャが今、食事を作っているからな」
そう言えば、隣で寝ていたはずのアイシャも居ない。
同じく隣で寝ていたシルフィもよくよく見てみると既に服を着ており、僕だけが大分寝過ごした事がわかる。
「寝坊してごめん、すぐ起きて居間に行くよ。起こしてくれてありがとう!シルフィ」
ベッドから抜け出して、服を急いで着替える。
シルフィがまだいるけど気にしない。どうせ、お互いの裸は見慣れているんだからね。
◆◇◆◇◆
「おはよう!」
シルフィと一緒に居間の入り口を抜けると、既に僕ら以外は揃っていた。
どうやら、本格的に寝坊をしちゃったみたいだ……なんか申し訳ないよね。
「ごめんね、なんか僕だけゆっくり寝ちゃったみたいで……」
「気にしないでいいわよ、疲れを抜く事も大事な事なんだから……取りあえずもうすぐ出来るから座って待っててくれる?」
アイシャにそう言われて、座るとわっふるとクゥがとてとてとやってくる。
わっふるは定位置である僕の頭の上、クゥの僕の膝の上に着地する。
『わふー!まいん、おきたか!おれ、まってたぞ!』
『きゅきゅー、おにいさま、きょうはべつこうどうなので、くぅはさみしいです!』
ああ、そうだね。クゥとは今日は確かに別行動だ。
だけど、代わりにお母さん……ケートス様に会えるからね。
「クゥ、元気出して。クゥが元気じゃ無いとケートス様も心配しちゃうよ?」
僕の言葉が腑に落ちたのだろう。
膝の上からピョンっと跳ね上がり、居間の天井付近をクルクルと飛び回る。
「くぅ、げんきです!!」
元気に飛び回るクゥをその場にいる全員が微笑ましそうに見上げながら、フォルトゥーナ家の朝食が始まった。
「アイシャ、いつ頃に出る予定かな?」
僕とわっふる、シルフィの3人は王都に向かうが、アイシャ、エイミ、ピロース、クゥの4人は、エルフの里跡へと向こう事になっている。
エルフの里跡まで、馬車で移動をしていたら一体いつ頃到着するのか、全くわからない。
だから、先に僕が【固有魔法・時空】で送っていく事になる。
そして、用事が済み帰る段になればクゥに【念話 ≪ケートス≫】を使ってもらい、呼んでもらう事になる。体こそ小さいがクゥも立派な神獣ケートスなのだ。
当然のことではあるが、問題無く【念話】でのやり取りが可能な筈である。
ちなみに先日新規の迷宮で手に入れた【念話】だと、至近距離でしか会話をする事が出来ない。
しかし、神獣様から頂いた【神獣の加護:念話】なら通話距離に制限が無いため、世界樹と王都という距離でも問題無く会話が出来るのである。
なお、シルフィ達が持っている【神獣の契約:念話】は通常の【念話】よりは、遠距離で使用出来る物の今回ほどの距離だと流石に使う事が出来ない。
「食事が終わったらすぐに発つわ、すぐに見つかるかわからないわけだし、時間的な余裕はあった方がいいと思うからね」
確かにアイシャの言う通りだ。
そもそも見つかるかどうかすら判らない訳だからね。
余裕もって行動するのは悪く無いと思う。
「了解、帰りの事だけど世界樹の迷宮の中で合流でいいかな?ケートス様の加護をアイシャとシルフィに授けて貰えないか聞いてみるから」
二人もケートス様の加護をもらう事が出来ればクゥと長距離でも話が出来るようになる。
授けて貰えるかどうかは、わからないけどクゥの家族の一員なので、何とかお願いをしたいと思ってるんだ。
「わかったわ、どちらにせよクゥちゃんをケートス様に会わせなきゃいけないしね」
「しかし、本当のそのピンクの魔物は神獣なのか、その狼もだが……見た目からは全く判らないな。ザナドゥが油断するのも無理は無い。実験体1号では勝てぬ訳だ」
『ぴんくのまものじゃないです!くぅはくぅです!!!』
【念話】スキルでクゥがピロースさんにクレームを入れる。
うん、確かにこれは良くなかったね。驚く気持ちはわかるけど、昨日ちゃんと自己紹介をしているわけだから、ちゃんと名前で呼んで貰いたいクゥの気持ちはよくわかる。
『ああ、すまなかった』
ピロースさんも素直にクゥに頭を下げる。
そんなやり取りをしているうちに、美味しい食事も食べ終わる。
作ってくれたアイシャに感謝しつつ、食器を全員で台所へと持って行く。
「帰ってきたら、洗おう。僕も手伝うからね」
こうして、全員が食後のお茶を飲み、一息ついてから防具を身に纏っていく。
「じゃあ、出発しよう!」
【固有魔法・時空】を開き、エルフの里に到着する。
「……エルフの里か……何もかも懐かしい」
ピロースさんが感慨に浸っているのを横目で見ながら、今度は王宮へと【固有魔法・時空】を使う。
「じゃあ、クゥ。お母さんに久しぶりにいっぱい甘えておいで!」
僕がクゥの頭を撫でて上げると、きゅきゅーと目をつぶって喜んでくれた。
アイシャ達に手を振り、僕とシルフィ、わっふるが王宮へと移動する。
「……わふ?」
王宮についた瞬間、わっふるが首をかしげている。
『どうしたのわっふる?』
『ちゅんすけの、けはいがするぞ……なんか、しにかけてる??いや、そばにもしにかけてるやつが、いるのか?』
え!?なんで??なにが起こってるんだろう?
もしかして、カッポレに何かされたのか!?だとしたら、助けにいかなきゃ!
『わっふる、案内して!!』
お読み頂きありがとうございました。
書籍一巻の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
アマゾンでも予約販売が開始したようです。
また、活動報告に主要キャラのラフイラストとカバーイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
■カバーイラスト
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■マインとアイシャ
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■シルフィとライル
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@Sakuya_Live
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。