第185話 ピロースのこれから
涙を流しながら抱き合うエルフの少女達。
その二人の姿を見て、思わず僕ももらい泣きしてしまう。
この姿を見ると、ピロースさんを説得して良かったなあとしみじみと思うよ。
そして、あらためてエルフの里の悲劇が残した痕跡が大きかった事に気づかされる。
うん、何としてもフェンリル様が言っていた【鑑定・全】とのもう一つの組み合わせを見つけ出さなきゃね!そして絶対にエルフの里を救わなきゃいけない。
決意を新たに胸に秘め、再会を喜び合う二人が落ち着くのをお茶を飲みながら待つ。
「ピロース……ところであなた、どうしたのその肌の色は?」
エイミさんがピロースさんの姿を改めて見ながら、そう問いかける。
するとピロースさんは困ったような表情になり“闇落ち”した事を告白する。
エルフの里では闇落ちしたエルフの事をダーク・エルフと呼ぶらしい。
一度、闇落ちするとその肌は例外なく褐色となり、何が起こっても二度と戻る事は無くなるとの事だ。逆に闇落ちした事で得た能力も一生消える事は無いらしい。
こうして、あげると肌の色が変わるだけでデメリットが無いように思えるが、攻撃的な性格となり、気持ちが高ぶりすぎると我を忘れ、狂人化してしまう可能性があるらしい。
狂人化をすると、自意識がなくなり周囲一帯を破壊つくすまで止まらなくなる事がある。
場合によっては死ぬまで自意識を取り戻す事が無い事もあるとの事だ。
だが、ピロースさんの場合は僕たちと出会った事で、心が非常に安定しているらしく狂人化の心配は今の所は無いらしい。
「マインさん、本当に!本当にありがとうございます!!まさかこうしてピロースと再会出来るなんて思いもしませんでした!しかも、私だけじゃ無くピロースまで救ってもらったなんて……」
エイミさんが、僕の手を握りしめて何度も上下に振りながらお礼の言葉を繰り返す。
闇落ちしてしまったとはいえ同じエルフ族……しかも知り合いに会えたんだ。余程、嬉しかったんだろう。
そして、ピロースさんも僕たちに深々と頭を下げる。
「エイミを助けてくれた事に心から感謝する。ヒュームはやはり許す事が出来ぬが、お前達は別だ。恐らく過去に戻ってエルフ族を救うという話も本当なのだろう。是非、協力させてくれ……そして再びエルフ族が笑顔で暮らせるようにするのだ!」
ピロースさんもやっと僕たちを信用してくれたのかな?
褐色の肌は相変わらずなんだけれど、顔つきが随分と違っているね。
険が取れたというか、随分と柔和な表情になったと思うよ。
こうしてみると、やはりエイミさんと同族なんだなあって思うよ。
「ん、ん、旦那様……いつまでエイミと手を繋いでいるんだ?」
ん??……あああああっ!?本当だ!シルフィに指摘されてエイミさんも顔を真っ赤にしてるよ!慌てて僕とエイミさんは手を離す。
「……ご、ごめんなさい」
「……いえ、こちらこそ」
腕を組み、僕の方をジト目で見ているシルフィ。
……
アイシャはと言うと、……目が笑ってないや。
いや、だって仕方ないよね?不可抗力だよ!不可抗力っ!!
「……旦那様への聞き取りは後にするとして……ピロースの今後の事を話し合おうか」
シルフィが相変わらず腕を組みながら、そう僕たちに提案する。
ピロースさんの身の振り方については早急に決めておかねばいけない事なので僕に是非はない。当然、状況をよく判っているアイシャとエイミさんが反対な訳がない。
……ちなみにわっふるは僕の頭の上、クゥは僕の腕の中で熟眠中である。
新規の迷宮では頑張ってくれたもんね!このままゆっくりと眠らせておいてあげよう。
「一番の問題はやっぱり、容姿じゃないかしら?」
まずアイシャが口火を切る。
今のままだと彼女はとにかく目立つ。恐ろしく美人だと言う事もあるが、エルフ特有の長く尖った耳、と褐色の肌。そしてなんと言っても彼女の背はシルフィやアイシャよりも高いのだ。実は僕のお嫁さんは二人とも女性にしては少しだけ背が高い。
そうじゃなくても目立つ容姿に加え、身長まで高ければあっと言う間に噂が広まっていく事だろう。
「う~ん、ピロース……幻惑の腕輪はどうしたの?」
幻惑の腕輪……ああ、エイミさんの魔道具の事か。そんな名前だったんだ。
確かに、同じ腕輪があれば問題の大部分は解決しそうだよね。
「ザナドゥ……ああ、魔人の名前だが、奴に奴隷にされたときに取り上げられてしまったよ」
そうか、残念だ。
……待てよ?ひょっとして……。
「ねえ、エイミさん……質問いいかな?」
「……はい?」
「その“幻惑の腕輪”なんだけどね。ひょっとしたらエルフ族みんなが持っていた物なのかな?」
この答えによって、一気に問題が解決するかもしれない。
そんな期待をしつつ、僕はエイミさんの答えを静かに待つ。
「えっと、全員というわけでは無いですけど、結構沢山の人がつけていましたよ……それがどうしたんですか?」
よし!全員じゃないのは少し心配ではあるけど、沢山の人がつけていたというなら可能性はかなり高いと思う。
「エルフの里の跡地を探してみれば1つ位見つからないだろうか?」
僕が思いついた事を口に出すと、エイミさんでは無く、ピロースさんが答えを返してくれた。
「……ふむ、確かに見つかるかもしれないな。持っていてもしまい込んでいる連中もいたからな。里で暮らす分にはあまり必要になる物でも無かったしな」
「よし、じゃあ明日にでも早速探しにいきましょうか」
「それは構わないが……場所はわかるのか?」
「はい、大丈夫です!さっき家に帰ってくるときに使ったスキルですぐにでもいけます!」
これで1つ目の問題は解決の目処が立ったかな。
次は……そうだね、住む場所と身の振り方かな?
ただ、こちらについてはあまり深刻では無いと思う。
住む場所はクランハウスでいいと思うし、エイミさんさえ良ければ同室だっていいだろう。
国王様に報告の必要はあるだろうと思うけれど、永久なる向日葵に入って貰えば完璧だろう。
みんなに考えを話してみると、全員が似たような事を考えていたようで全員一致でピロースさんの永久なる向日葵入りが決定となった。
「……私が言う事では無いのだろうが、本当にいいのか?一応、私はお前達の敵だったのだぞ?そんな者を安易に信用してもいいのか?」
ピロースさんが戸惑ったような表情でそう問いかけてくる。
確かに、言っている事はよく分かる。敵と言っても特に厄介な魔人族の仲間だったわけだから、普通ならばピロースさんの言う事が正しいのだろう。
だが、僕らには彼女を信用するだけの理由がある。
1つ目はエイミさんの友人だという事。勿論、ピロースさんが演技をして僕らを騙している可能性もあるけれど、先ほどの光景を見たらそんな事は絶対無いだろうと思ってしまう。
仮に騙されていたとしても、そのときは自分の目が節穴だったんだと納得出来る。
2つ目は彼女が奴隷だったという事。
僕らとの邂逅自体、ザナドゥ達には予定外だった筈だ。
わざわざ、味方にいきなり出会った僕たちを騙すためだけに奴隷契約などしないだろう。
つまり、彼女は随分前からザナドゥの奴隷だったという事だ。
ここまでの彼女への聞き取りで己の意思で魔人と繋がっていた訳では無い事が判っているのだ。この2つだけで味方になってくれた事については信用する事が出来ると思う。
ただ、僕の能力を細かく話せるほどには、まだ信用する事は出来ないのだけどね。
だから、一度ピロースさんにはフェンリル様に会って貰うつもりだ。
永久なる向日葵に所属してもらった場合、彼女には攻略班として僕たちに随行してもらう事もあるだろう。
なにせ、あの戦闘能力を遊ばせておくには勿体ないからね。
そうなった場合、どうしても僕のスキルとふれあう機会が多くなってしまう。
それに最終的にエルフの里を復活させるためには、どうしたってスキルの説明はいるだろうしね。
フェンリル様から【神獣の契約】を受けてもらえば王家の人達と同じく話せるようになるものね。
・王様への依頼の終了報告とピロースさんの件を報告。
・エルフの里跡に行き、幻惑の腕輪を探しに行く。
・フェンリル様に会いに行く。
うん、明日は色々やる事が多そうだね!
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
■マインとアイシャ
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/527279/blogkey/1670286/
■シルフィとライル
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/527279/blogkey/1673937/
【ツイッター】
咲夜@小説家になろう:@Sakuya_Live
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
※スピンオフの更新を3/20に行わせて頂いております。
http://ncode.syosetu.com/n2978du/
今後ともどうぞ宜しくお願いします。