第184話 十年ぶりの再会
「先ほども思ったが、これは転送石と同じ効果を持つスキルなのか?」
【固有魔法・時空】の黒い渦を指差しながらピロースさんが僕に問いかける。
「転送石?さっきザナドゥが逃げる時に使っていた石みたいな物ですか?」
「私はそのとき意識が無かったから見てはいないが……これだな」
そう言いながら胸元から黒透明な石を取り出してみせる。
ああ、間違いないね。あの時、ザナドゥが地面に叩きつけていた石だ。
……“転送石”か、なるほど。説明を聞くまでもなくどんな物なのか想像出来るね。
「ああ、それです!間違いありません。名前から想像するに、使用すると何処かに飛ばされるのですか?」
「ああ、使用者が一度でも行った事がある場所なら、何処へでも移動出来る」
なるほどね、【固有魔法・時空】と同じだ。
こんな魔道具も存在するのか、けどこれって一般的に流通しているものなのかな?
……いや、それは無いだろう。一般的な物というならば、国王様や他の人達が僕の【固有魔法・時空】を見たときに、この転送石の事を口にしないわけがない。
……となると、これは魔人族だけが所持している魔道具だと言う事だろう。
こんなのを持っているとなると、益々魔人達への対応を考えなきゃいけない。
あ、まさか……ザナドゥのあの攻撃はこの転送石を使っていたのかな?
「ピロースさん、教えて下さい!ザナドゥのあのスキルの正体を知っていますか?」
もし、ピロースさんが知っていれば、次回の戦いに備えて対策が打てる。
僕は期待に満ちた目でピロースさんの回答を待つ。
「……そんな期待に満ちた目で見られても、困るがな……。ザナドゥはスキル3つと特殊スキルというのを1つ持っている」
特殊スキル!?それがあの突然現れるスキルの正体なのか!?
ピロースさんが言うには、1つだけ知らないスキルがあるらしい。
彼女から教えて貰えたスキルは、まず【極腕・炎】だ。
……これは【豪腕】の上位スキルに炎が付与された物のようだ。僕の鎧を焦がしたのは、恐らくこのスキルなんだろうと思う。
そして、次が【隠蔽(範囲)】だ。
これはきっと名前からして【隠蔽】の上位スキルで範囲を指定して使用出来るという物なんだろうと推測できる。ザナドゥだけスキルが見えなかったのは、このスキルのせいなのかもしれないね。
ピロースさんが言うには、ザナドゥは新規の迷宮でこのスキルを使って何か実験をしていたらしいんだ。
最初の方の階層で、魔力を感じなかったのはこの実験のせいだったみたい。
ただ、何の目的でそんな事をしていたのかはピロースさんも聞かされていないとの事だ。
次にピロースさんが教えてくれたのは特殊スキルで【千里眼】だった。
これは【視力強化】の上位版でとんでもない先まで見通せるスキルだそうだ。
ピロースさんが判っているスキルはこの3つだけだった。
つまり、例の瞬間移動的なスキルの正体は不明のままという事だ。
てっきり、特殊スキルというのがそのスキルだと思ったんだけどね。
だが、これだけでも十分に有用な情報だよね。
きっとあるだろう、ザナドゥとの再戦。そのときに必ず役立つだろう。
「旦那様、そろそろ居間に移動しないか?解体部屋で話をしてても仕方ないだろう?それにエイミを呼んで来た方がいいだろう?」
ああ、しまった。つい熱中して話しちゃったよ。
確かにこんな場所で長々と話してても仕方ないよね。
「エイミとはすぐに会えるのか?」
僕とシルフィの会話を聞いて、ピロースさんが反応する。
そりゃ、そうだよね。そもそも彼女はエイミさんに会えるからと、僕たちに付いてきたような物だもんね。
「うん、すぐそばに住んでいるから呼んでくるよ」
「いや、今アイシャが呼びに行っているから私達が居間に移動すればいい。お茶でも飲んで待っていればすぐに来るだろう」
ああ、アイシャの姿が見えないと思ったら、先行してエイミさんを呼びに行ってくれていたんだね。流石はアイシャ!相変わらずの気遣いだね。
「じゃあ、居間に移動しようか?この後の事も相談しなきゃならないし」
そう、実はこの今後の話というのが非常に重要で大変な事なのだ。
そもそもエイミさんが僕たちと行動している理由……それは彼女がエルフだからだ。
美しい容姿とその希少性から、エルフ族は今、常に悪意に晒されている。
それが故に魔道具を使いその姿を偽り、僕らが側にいてその身を守る事が必要になっているのだ。
そして、ピロースさんも闇落ちして褐色の肌に変化してしまったとはいえエルフなのだ。
その美貌は、やはり並大抵の物では無い。
エイミさんは、ほんわかとした暖かみを感じる美しさだが、ピロースさんは凛とした格好よさを感じる美しさである。
非戦闘員であるエイミさんと違い、ピロースさんは純粋な戦士なので己の身は守る事が出来る。いや、寧ろ近づいてきた者の命の方が危険ではある。
だが、ピロースさんの存在が公になれば、欲に目がくらんだ者達が次々にやってくる事が目に見えている。
それ故、今後の彼女の身の振り方を考えると言うのは非常に重要なのである。
それに、色々協力的になってはいるが、恐らく彼女は僕たちの事を100%信用した訳ではないだろう。この後、エイミさんと再会すればそれも大きく緩和するだろうとは思うが、彼女の信頼を勝ち取る事も今後の僕らの課題と言えるだろう。
◆◇◆◇◆
アイシャがエイミさんを呼びにクランハウスへ行っているので、必然的に僕がお茶を煎れる事になった。
「ほぉ、中々美味いな」
僕が煎れたお茶を飲みながら、感想を口にするピロースさん。
シルフィも僕の隣に座り、行儀良くお茶を飲んでいる。
うん、美人が二人並んで座っているだけで、場が明るくなるよね。
ちなみに僕の頭の上ではいつもの如く、わっふるが鎮座しており眠そうに欠伸をしている。
クゥはシルフィの周辺をふよふよとやはり眠たそうに浮かんでいる。
……完全に寝たら、墜落するんじゃないかな?大丈夫かな?
『わふ、えいみはまだこないのか?』
『確かにちょっと遅いね。けど、もうそろそろ来るんじゃないかな?』
わっふるにそう答えを返した時、廊下からドタバタと大きな音が聞こえてきた。
ああ、どうやら噂をすれば……!だね。
「ピロースっ!!!!あなたなの!?」
普段のおっとりとしたエイミさんからは想像も出来ないような大きな声、大きなリアクションで居間の中に飛び込んで来た。
「エイミっ!!!!生きていてくれたのか!!!!」
そして、ピロースさんも先ほど、茶が美味いと言っていた時とは、まるで別人のように真剣な表情で 立ち上がり大声をあげる。
そして、二人は涙を流しながら抱きしめあう。
10年ぶりの再会が、今ここで成ったのだ。
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にマインとアイシャのラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
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また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
※スピンオフの更新を3/20に行わせて頂いております。
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今後ともどうぞ宜しくお願いします。