第181話 CASE:ちゅん介 with カッポレ(1)
「すぐに治療師を呼べっ!すぐにだっ!」
シルフィが私の部屋に飛び込んで来たときには、驚かされたが……更にその用件を聞き、二度驚かされた。
まさか従魔の輪廻が、新規の迷宮にマイン達よりも先に潜ったという事もそうだが、そのメンバーの一人がリーダーのテイルズの身代わりにされ、瀕死の重傷を負ったと言う事にだ。
テイルズという男……確かに色々と粗野なところがある人物ではあるが、まさか自分の仲間に対しそのような扱いをする男だったとはな。しかも身代わりにした挙げ句、治療もせずその場に置いていくなど、人として許せる行為では無い。
父上に従魔の輪廻のクラン認定停止措置を含めた見直しをして頂く必要がありそうだな。
私の指示の下、マイン達によって運ばれたその裏切られたという男の治療を行わせている所なのだが……。
かなり厄介な毒を貰ったようで、残念ながら完治の見込みは無い事が既に判っている。
聖女がこの王都にいて治療に当たってくれれば、もしかしたらとは思うが彼女は今王都にはいない。
「兄上、テイルズもそうだったが、このカッポレという男も中々難儀な性格をしている。目覚めたら、例え相手が兄上であっても喚き散らす可能性がある。治療が終わっているなら、とっとと王宮から放り出す事をお奨めするぞ、せっかく助けた命を不敬罪で散らさせる事もないだろう?」
シルフィが真顔でこんな事を言うとは……類は友を呼ぶというのは本当なのだな。
まあ、シルフィのせっかくの忠告だ。その通りにしておくのが無難なのだろうな。
「……誰か!誰かいないか?」
◆◇◆◇◆
「……知らない天井だ。一体ここは、どこなんだ?」
目が覚めた場所は知らない場所だった。
俺は確か、新規の迷宮でテイルズ達に殺され掛けて……。
マインとか言う餓鬼のパーティが俺を……ああっ!そうだあの餓鬼どもじゃ俺の体は完治しねえ!早いところ、王都の治療院で見て貰わなきゃな。
「ちゅんちゅちゅちゅーん、ちゅちゅちゅんちゅーん!!」
※『ご主人、生きてて良かったちゅん!わっふるとクゥに感謝しなきゃ駄目ちゅんよ!』
ん?ちゅん介か、なんだ……こいつも生き残ったって事か。
弱ええくせに運だけはいいんだな、こいつは。
それにしても、俺は病み上がりなんだっつーの、ちゅんちゅんちゅん耳元で鳴くんじゃねえ!うるさくてたまらないだろうが!
今はこんな情けない魔物しか俺の従魔はいないが……見ていろよ!
俺の才能はあのテイルズにだって負けていねえ筈だ!そのうちテイルズの闇の精霊よりもすんげえ魔物を従えてやるからな!
「ああ、カッポレさん。目が覚められたのですね?」
ああ?誰だこの優男は、服装から見ると治療師か?
つか、まじでここは何処なんだよ!?
「あぁ?あんた誰?それにここはどこなんだ?」
ツカツカと優男は俺の側まで歩いてきて、質問に返事を返してくる。
「ここは王都の治療院ですよ、王家から緊急の怪我人が出たという事であなたの治療を行わせて頂きました」
王都の治療院だって!?一体いつの間に……ああ、あのマインって餓鬼が運んだんだな?
そう言えばあの餓鬼、シルフィード王女と結婚したんだったか。
なるほど、それで王家が絡んできたって事なのか?
まったく、愚図な野郎だぜ。こんな事が出来るなら最初からグダグダ言わずにさっさとやりやがれって!てめえらの未熟な回復魔法なんざ、必要ねえんだからよ。
……ん?おかしい右腕が動かねえぞ?一体どうなってやがる?
俺の表情を見たからだろう、目の前の優男が困ったような表情へと変化する。
「カッポレさん、落ち着いて聞いて下さいね」
「……あん?」
「貴方の右腕ですが……恐らく、一生動く事は無いでしょう。強力な神経毒の後遺症です」
な、なんだって!?待てよ?おい!ここは王都の治療院なんだろう?
王家も絡んだ超一流の治療院じゃねえのか?なんで俺の腕が一生動かねえ?
なんで、治せねえんだ?おかしいだろうが?
「巫山戯んじゃねえっ!!!!!とっとと治せよっ!!!」
俺は立ち上がり、優男の襟を掴もうとする……しかし、右足に力が入らずバランスを崩し、地面に倒れ込んでしまう。
「……無理はしない方がいいですよ。右足にも軽くですが後遺症が残っていますから」
「畜生、あいつらのせいだ……あいつらが俺に中途半端な回復魔法なんか掛けやがるから」
そうだ、マインとか言う餓鬼どものせいに決まってる!
あの時、中途半端な回復魔法しか使えないのに、善人ぶって俺の治療をしやがったせいだ!
あれさえ無ければ、ここで完璧に治った筈だったんだ!くそったれめ!
「誤解をしているようですので、言っておきますが貴方への緊急治療は的確でしたよ。あの治療が無ければ、貴方は間違いなく死んでいました。感謝こそすれ、悪態をつくのは正直言って感心しませんね」
「ちゅんちゅん、ちゅんちゅちゅ、ちゅーん、ちゅん」
※『ご主人、駄目ですちゅん!ちゃんとお礼を言うちゅんよ!』
「うるせえっ!あいつらさえいなかったら、この腕も足も元通りになったんだ!事実を言って何が悪い!ちゅん介もちゅんちゅんうるせえっ!役に立たねえくせに黙ってやがれ!」
「……ちゅーん」
※『……ご主人』
「ああ、すまないね、取り込み中だったかい?」
ん?誰だ!見て判らねえのか取り込み中に決まってんだろう!
いつの間にか、部屋の出入り口にプレートアーマーを着込んだ騎士が立っていた。
「……あなたは!?当院に何がご用でしたか?」
あん?この優男の反応を見る限り、それなりの身分の持ち主って事か?
そういえば、何となく豪華な鎧を着てやがる。
「ああ、そんなに畏まらないでもいいよ、私の用事はそちらの男……というか、その雀の魔物だからね」
なに?俺じゃなく、ちゅん介に用事だと?一体どういう事だ?
「……あんた一体誰?」
「ああ、失礼。私は王都第二騎士団長セシルだ。君は元従魔の輪廻のカッポレだね?私は今日君たちをスカウトに来たんだ」
騎士団が俺をスカウトだって!?しかも団長自らだと?
「ふふふ、よくわからないって顔をしているね」
ちっ、なんだか知らねえがこの男、妙に鼻につく野郎だな。
団長様らしいから、大人しく話は聞いてやるが……つまらねえ話なら即さようならってとこだな。まあ、言葉通りなら悪くはねえ話だろうとは思うがな。
「“元”じゃねえ、三大クラン従魔の輪廻のエース、カッポレ様だ!それでお偉い団長さん、俺をスカウトってどう言う事だ?」
「我が騎士団で斥候役をしていた人間が急に辞めてしまってね。その代わりを君と君の使い魔にお願い出来ないかと思ってね」
俺とちゅん介に斥候だと?……ああ、なるほどな。
ちゅん介は空が飛べる、そして俺の命令には絶対服従だ。
下手な斥候役を探すよりも空から偵察が出来るちゅん介がいれば、その方が良いって事か。
「……と、その前に一つ確認だ。君とその従魔は意思の疎通が出来るのかい?出来なければ意味が無いからね」
意思の疎通……だと?そんなもんは必要ねえ。俺の命令を聞いてるだけでいいんだからな。
だが、今は意思の疎通が出来る事にしておいた方がよさそうだな。
まあ、適当に俺が考えた事を言っておけばいいだろう。
「ああ、勿論だぜ。俺とちゅん介の絆を甘くみるんじゃねえよ」
「ちゅんちゅちゅーん」
※『ご主人!そんなにおいらの事を!!!』
「なら、問題無い。どうだい?うちの騎士団に来てくれるかな?」
「ああ、お邪魔する事にするぜ。俺も騎士って事でいいんだろう?」
しめしめだ、どうやら俺にもやっとチャンスが回ってきたみたいだな。
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にマインとアイシャのラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/527279/blogkey/1670286/
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咲夜@小説家になろう:@Sakuya_Live
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
※スピンオフの更新を3/20に行わせて頂いております。
http://ncode.syosetu.com/n2978du/
今後ともどうぞ宜しくお願いします。