第178話 新規の迷宮(20) 第二の魔人
「良い様じゃないか、ええ?ザナドゥ」
いきなり、奥の通路から人影が現れた。
……全身をローブで身を包み、外見から男なのか、女なのか……若者なのか、年配なのか、まるで判断がつかない。……話しぶりからして、ザナドゥの仲間のようだね。
「……ぐぅ、何しにきた……ロゼリエよ」
「なに、魔王様から呼んでこいと言われたのでね……ローラシア王国がやらかしそうだってさ」
「……なに?」
何だか、僕らを無視して話し始めちゃったよ。ローラシア王国が何とか言ってるけど……一体なんの事だろう?
取りあえず、【鑑定】してみるか。
名前:ロゼリエ・フェアクルーズ
LV:105
種族:魔人族
性別:女
【スキル】
死者傀儡
死霊召送還
固有魔法・即死
!!!!
ザナドゥと違って【鑑定】できた!?……けど、これは……!
これはやばい……本格的にやばいぞ!こんなのを使われたら本気でやばい!!
すぐに【カット】してしまわないと!!
【死者傀儡】:死者(種族問わず)に仮初めの命を与え、使用者の下僕とする。
【死霊召送還】:契約している下僕を任意で召喚し、任意に送還する。
【固有魔法・即死】:使用者よりレベルが低い相手に確率で死を与える。
【死者傀儡】と【死霊召送還】は、セットで使うのかな?
これ、結果的に死者を死霊として生き返らせる?って事だよね……。
キメラになんか使われたら、厄介極まりなかったよ……。
そして【固有魔法・即死】は、とにかく危険な魔法だった。
僕たちの誰よりもこの魔族はレベルが高いから確率とはいえ、何も気がつかないうちに死んでたかもしれないよ。あげく、死んだ後に【死者傀儡】で死霊にされてしまったかもしれなかったと思うと冷や汗が出る。
僕が死霊になって、家族に襲いかかるなんて想像しただけで震えてしまうよ。
オーク・キングのスキルも破格だったけど、この女魔人は別の意味で破格だ。
国王様や僕のようにスキルの組み合わせでスキルの価値を高めている。
“敵”として、いきなり相対されなくて本当に幸運だったと思う。
ある意味、この人の気を引いてくれたザナドゥには感謝だね。
僕が新しく現れたロゼリエと言う魔人からスキルを奪っている間に、二人の魔人の会話は終わったようだ。
「……マインよ、この勝負貴様に譲っておこう。望み通り我々はここから退く事にする」
恐らく、さっき言ってたローラシアって国が絡んでいるんだろうけど……。
戦闘が始まる前に退いてくれるというなら有難かったとは思うんだけど……。
既に戦った事で状況は一変している。
なにしろザナドゥの能力は危険すぎる。スキルの詳細だって分かっていないんだ。
今回はお互いが初見という事で、うまく追い込む事は出来たけど、次回相対したときにここまでダメージを与える事が出来るかどうか分からない。
だから、ダメージを負っている今、ザナドゥを何とかここで倒しておきたいところだ。
「申し訳ありませんが、そういうわけにはいきません。貴方は危険すぎます……次回、会ったときに勝てるかどうか分からない以上、ここで逃がす訳にはいかないです」
「……なるほど、見かけより甘くはないと言う事か」
僕とザナドゥのやり取りにロゼリエが割り込んでくる。
まだ、僕にスキルを奪われた事には気がついていないようだ。
「随分と威勢がいい坊やだねえ、今なら見逃してやるって言ってるんだ。大人しくしておくのがいいんじゃあないかい?確かにザナドゥはこの様だけど、私もいるんだよ」
いきなり、襲ってこない所を見ると、一応ザナドゥに気をつかっているのだろうか?
……いや、だけど魔人にそんな仲間のプライドの事なんて考えるだろうか?
まあ、そんな事はどうでもいいや。
僕の脳裏に炎に包まれ、魔族や魔人に虐殺されていた町の光景がよみがえる。そうだ、こいつらは今はこんな様子だけど、あの虐殺をしていた連中なんだ。
決して油断して隙を見せていい相手なんかじゃない。……それにレベル的には明らかに僕たちよりも格上なんだ。【鑑定】出来ないけど恐らくザナドゥだってそうだろう。
「見逃して貰わなくても結構です。今、ここで決着をつけます」
「じゃあ、死になっ!」
僕がそう宣言すると、ロゼリエは右手を上げて、僕に向かって振り下ろした。
恐らく【固有魔法・即死】を使ったのだろう……いや、使ったつもりなのだろう。
……だが、当然発動しない。既にその【固有魔法・即死】は僕が持っているのだから。
「……っ!!!」
フードで顔が見えないが、驚いているんだろう。そんな様子がこちらに伝わってくる。
再び、上をあげて僕に向かって、振り下ろす動作をする。当然、結果は変わらない。
ザナドゥも怪訝な顔をして、その様子を見ている。当然、ザナドゥはロゼリエのその動作で何を行おうとしていたか分かっている筈だ。
何度も同じ動作を繰り返し、ついにロゼリエはフードをまくり上げ素顔を晒し、僕に向かって憤怒の表情で叫び声をあげる。
「貴様ッ!!!!私に何をした!?」
当然、僕は答えない。
「……そういえば、ピロースも様子がおかしかったな」
ふと、思い出したようにザナドゥがそうつぶやいた。
「……あなた達に個人的な恨みはありませんが、ヒューム族としてあなた達はここで倒します。あの炎の中で死んでいった人達の敵を取らせて貰いますよ」
僕はそう言って、雷光を纏っているライトニングエッジを構えて、二人の魔人にそう宣言する。
……あの町には幼い子供の遺体もあった。
痛かっただろう、怖かっただろう。……何で自分が死ななければならなかったか、死ぬ間際まで分からなかっただろう。幼いながらにも夢があっただろう、希望もあっただろう。
僕は絶対に許せない。この二人を倒しても殺された人達が帰ってくるわけではないが少しくらいは手向けにはなると思う。
「……“あの炎の中”だと?何を言っている……」
ザナドゥが僕の言葉に反応する。そして……。
「!!!!」
やはり、あれはザナドゥだったんだ。……あの時の事を思い出したみたいだね。
「……そうか、あの時巨大な竜の背に乗っていたのは貴様だったか、どうりで見覚えがあったはずだ」
……っ!?ザナドゥが、またいきなり目の前に現れたぞ!!!
駄目だ!?【ペースト】で足を固定していない……これは踏ん張りきれない!!
予想通り、踏ん張りきれず、再び激しく壁へと叩きつけられてしまった。
【物理攻撃無効】のおかげで大きなダメージこそ、受けていないが鎧の全面は炭化してしまい、砕け散ってしまった。そして地肌をジュッと焼く匂いと激痛が走る。
「ぐぅぅぅぅぅ」
僕が膝をついていると、そこに金属製の両手棍を振り上げたロゼリエが迫ってくる。
「このクソッタレが、死にな!」
だが、僕の顔面目がけて振り下ろされたロゼリエの攻撃は当たる事は無かった。
……何故なら。
「きゃああああああっ」
棍を振り下ろし、無防備になったロゼリエの背中に三条の光の軌跡……アイシャの放った矢が命中したからだ。
さっき、貴方は“私もいるんだよ”と言っていたけど、こっちにだって今、援護射撃をしてくれたアイシャや頼りになる家族がいるんだ!
僕はそのまま空いていた左腕でロゼリエに追い打ちを掛ける。
「くらえ!【武技:重撃拳】!!」
格闘の武技、重撃拳。片手とは言え、このタイミングで放てば大ダメージを与える事が出来るだろう。
激しい打撃音と共に吹き飛んでいくロゼリエ。
……ああ、しまったよ。また拳が砕けちゃったみたいだ。
今のタイミングでセスタスを装備なんて出来ないし、仕方ない所ではあるんだけど……。
「ちぃっ、全くやりにくい野郎だな!!」
先ほどまでの丁寧な口調が崩れ、荒々しい言葉使いで文句を口にするザナドゥ。
これがこの男の地なんだろう。きっと最初は僕らの事を舐めていたから、あんな余裕の態度だったんだと思う。
【魔法・回復大】をお腹と拳に当てながら、ザナドゥ達の様子を観察する。
ロゼリエには予想以上のダメージを与える事が出来たようだ、流石に死んではいないだろうが倒れたままピクリともしない。ザナドゥは先ほどの攻撃で更に体力を消耗したのか、息を切らしながロゼリエの元へと移動をしている。
「……ち、口惜しいが形勢は不利という事か。マインと言ったな?覚えておくぞ」
ん?何だか無事に逃げおおせるつもりみたいだ。
悪いけど、ここで倒させて貰うよ。
僕が再びライトニングエッジを構えると、ザナドゥが金色の片手剣を投げつけてきた。
……そんな破れかぶれの攻撃が当たるわけ無い!さあ!とどめだっ!!!
僕は軽くその剣をかわし、ザナドゥに向かって突撃をしようとする。
「ぎゃあああああああああああ」
え?
突然、背後から聞こえた断末魔の悲鳴。
慌てて、背後を見ると……そこには胸にザナドゥの投げた片手剣が突き刺さり、苦しみもがくテイルズの姿があった。
「さらばだ!」
僕の注意がテイルズにそれたタイミングを狙ったのだろう。
ロゼリエを抱きしめたザナドゥが何か黒っぽい石のような物を地面に叩きつけた。
すると、僕の【固有魔法・時空】を使った時のような黒い渦が発生する。
そして……その場からザナドゥとロゼリエの姿が……消え失せたのだった。
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にマインとアイシャのラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/527279/blogkey/1670286/
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/20
・全般の誤字を修正。




