第177話 新規の迷宮(19) VS ザナドゥ戦
「……まさか、実験体1号だけでは無く、ピロースまで倒してしまうとはね。少し不自然なところがあったのが気になりはするが……それもまあ、君たちの戦術という事だろうね」
自信満々で自分から提案してきたゲームがこの有様だ。
さぞかし、怒り狂っているのだろうと思ったが、見た感じそうでもないね?
一見、冷静そうに見えるけど……。
あとは、僕がザナドゥに勝利し、ピロースさんの奴隷のステータスを【カット】して治療をすれば完全勝利となる。
その後はそのまま、最下層まで進み迷宮の核を破壊すれば依頼も達成出来る。……うん、あと一踏ん張りだ。
「3戦のうち2戦……僕たちの勝利です。これで引いては貰えませんか?」
無駄だとは思うけど念のため、聞いてみる。
もっとも、素直に引いたとしてもピロースさんの奴隷契約を【カット】した際に揉めそうではあるんだけどね。
「ん?今何を言ったんだ?私に引けと……逃げ帰れと言ったのか?冗談を言うなよ!何故、魔人族のエリートであるこの私が逃げねばならん?寧ろ、これからが本番だろう」
むぅ、全然冷静なんかじゃないぞ……っ!!!すっごく怒ってる。
ザナドゥから凄まじいプレッシャーを感じるよ!!こ、これはっ……オーク・キングよりも激しいぞ!
『シルフィ、アイシャ!ギリギリまで下がって!わっふる、クゥ……ピロースさんも一緒に運んで!早くっ!!!』
……これは、本当に全力でやらないとまずそうだよ……。
しかも、相手のスキルが分からないときてる。【カット】する事も出来ないんだ。
だから、今僕が持てる最大の力で迎え撃つ!!
【ディフェンスライズ】【ミティゲイト】【鉄壁】を使用し防御をまずは固めていく。
どんな攻撃が来るのか分からないんだ。まずは身を守る事からスタートだ。
よし、次は……。えっ?
「ぐああああああああああっ」
な、何が起きた!?何でいきなり僕は壁に叩きつけられたんだ!?
ザナドゥとはまだ相対してなかったのに!?
「ほぉ?今のを防ぐのか……なんだ身代わり系のスキルでも持っているのか?」
身代わり系のスキルだって!?慌てて自分を【鑑定】する。
【物理攻撃無効(3/5)】
え?やっぱり攻撃されたのか!?物理攻撃無効の回数が減ってる!!
それによく見てみると鎧のお腹の部分が焼け焦げてるぞ……。
「でかい口を叩くだけはある、ガーゴイル程度では倒せぬ訳だ。普通ならば今の攻撃で死んでいるんだがね、いやはや興味深いよ。だが、身代わり系のスキルも無限ではあるまい?いつまで耐える事が出来るか見物だよ」
……やばいぞ、何かスキルを使ってるんだ。
しかも、どんな効果があるのかすら、分からないときてる。
武器を持っていない所を見ると、ライルと同じ格闘を得意としてるんだろうとは思うけど。
取りあえず、相手の能力が分かるまでは【物理攻撃無効】だけが頼りだ。
だけど、いちいち戦闘が本格的になれば、小石を出してはいられない。
今のうちに収納袋から出して、その辺にばらまいておこう。
小石をばらまくための時間を稼ぐために、ザナドゥに話しかける。
「一体、何をしたんですか……?全く分かりませんでしたよ」
「ああ、そうだろうな。分かるはずが無いよ。君はこのまま何をされたのか分からないまま死ぬんだ、苦しまずに死ねるのだ。嬉しいだろう?」
……余裕だね、しかも分かるはずがないと言い切るのか。
何とか今は小石をばらまきつつ、反撃の糸口を掴かむために情報を収集しなきゃね。
「さあ、御託はお終いだ。そんな小石を何につかう気なのか知らんが、私の力の前には役にはたたんよ。……さて、次の攻撃を耐える事が出来るか?少し本気でいくぞ」
さっきの攻撃で【物理攻撃無効】の回数は2回減っていた。
つまり、一撃食らって1減り、壁に衝突して更に1減ったのだと思う。
ならば、吹き飛ばされる事だけ防げば【物理攻撃無効】の消費を減らす事が出来ると言う事になるはずだ。
ならばっ!!
【身体強化・大】【脚力強化・小】で踏ん張る力を増強!更に【ペースト】で地面と足を貼り付けておく。
そして、衝撃を少しでも緩和するために【腕力強化・極】でオーク・キング戦でも使った十字ブロックの構えを取る。
「さあ、来……ぐぅぅっ!!!」
【物理攻撃無効】で確かにザナドゥの攻撃でダメージは受けない。
だが、ブロックしてはいても壁に吹き飛ばされるほどの力が加わるのだ。
その衝撃はやはりダメージとして残ってしまう。
だが、捉えたぞ!!!!ザナドゥ!!!今度はこちらの攻撃だ!!
僕が吹き飛ばされる事なく、その場で耐えきった事で驚愕の表情を見せているザナドゥ。
「喰らえっ!!!!【武技:シャークグロウ】」
攻撃系のスキルを乗せている時間が無いので、素のままで【武技:シャークグロウ】を叩き込む。スキルを乗せていなくても、今の僕のレベルならばそれなりのダメージを与える事が出来るだろう!
「な、何ぃっ!!」
……え?何故か、ライトニングエッジが目映い雷光を纏いながら【武技:シャークグロウ】が放たれた。
バチバチと雷光が音を発し、ザナドゥの体を切り裂く。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
今度はザナドゥの体が反対側の壁に叩きつけられる。
「こ、これは一体……」
一瞬、武器屋のおじさんの言っていた言葉が脳裏をよぎる。
『これをダンジョンで手に入れたヤツが使っていた時には雷を纏っていたんだ……。』
そうか、これがおじさんの言ってた……。
あ!?駄目だ、駄目だ。今は戦闘中だ、他ごとに気を取られたら負けてしまう。
ザナドゥの攻撃を分析して、対策を練らなきゃ!
【物理攻撃無効(0/5)】
【物理攻撃無効】が2回減ってる……吹き飛ばされていないのに減ってると言う事は今の一瞬で2回攻撃を食らったという事か。
……これは、不味いぞ。ザナドゥのあの攻撃は1回だけとは限らないと言う事だ。
残り回数が0になってしまった今、次に攻撃を受けたらダメージを受けてしまう事になる。
取りあえず、散らばっている小石から2つ【カット】して貼り付けておこう。
……複数の【物理攻撃無効】を重ねて貼るのは、試した事は無いけれど、僕の考え通りならば、恐らくこれで10回まで耐えれる筈だ。
だが、今のシャークグロウでダメージを負ったからね。
不用意に飛び込んで来る事は無いとは思うんだけど……。
……あと、注意すべきはさっきはお腹だったけど今度は胸の部分が焼け焦げている。
物理ダメージは【物理攻撃無効】が弾いてくれているのは、残り回数が減っている事から間違いない。それなのに焼けたダメージが鎧に残っていると言う事は……。
恐らくザナドゥの攻撃は【物理+火系の魔法スキル】なのかもしれないね。
そして、突然僕に攻撃を与えてくる現象も恐らく【移動系のスキル】だろう。
オーク・キングが【固有魔法・時空】で僕の目の前に突如現れたのとよく似ている。
違うのは、相手に気がつくのが攻撃前“攻撃前”なのか“攻撃後”なのかという事だ。
実際、この差は大きい。【物理攻撃無効】が無ければ、今地面に伏しているのは恐らく僕の方だ。この謎を解かないと、いつまでも後手後手に回ってしまう事になる。
「……貴様ッ」
動きが鈍い今がチャンスだ!一気に押し込んでみせる!!
【固有魔法・極光】【固有魔法・剛雷】【範囲魔法・火極大】【範囲魔法・風極大】【範囲魔法・水極大】【範囲魔法・土極大】
僕の持っている最大火力の魔法を一気に叩き込む。
当然【魔術の極み】で火力を底上げしてだ!
凄まじい破壊音と爆風がザナドゥの居た辺り一面から聞こえてくる。
「……ハァハァハァ、今度は極大魔法だと?……しかも六属性……貴様、一体何者だ!」
え?僕の後方からザナドゥの声が聞こえてくる。
じゃあ、あの爆心地から……逃げ延びたって事か!?一体どうなってるんだ?
……いや、待てよ。明らかに魔法で受けたと思われるダメージがある。
つまり、何発かは命中したと言う事か。となれば、攻撃の時に使っていた移動スキルで逃げたという事なのかな?
「良い様じゃないか、ええ?ザナドゥ」
いきなり、奥の通路から人影が現れた。
一体、これは……。
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にマインとアイシャのラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/19
・全般の誤字を修正。
2017/03/20
・全般の誤字を修正。