第176話 新規の迷宮(18) VS ピロース戦<後編>
『うん、それは僕が説明しようかな』
僕は彼女の問いを【念話】でシルフィの代わりに説明する事にした。
そう、彼女のスキルを奪ったときに代わりに彼女に貼り付けた【念話】を使ってね。
「な、なんだ!?」
突然、頭の中にわけの分からない声が聞こえてくれば混乱するのは仕方ないね。
ただ、ここで彼女が挙動不審を起こし、ザナドゥが不審と思うような事は避けないといけない。
『慌てないでください。頭で考えるだけで伝わります。今シルフィがあなたに言ったエルフ族が再び元の生活に戻れるかもしれないと言う話は本当です、興味があるなら説明を聞く間だけ、戦っているふりをして貰えませんか?そんな事は聞きたくない、と言うのなら、この話はここまでにします』
以前、フェンリル様から聞いた過去に戻ってエルフ族を救う事が出来る可能性。
もしも、このピロースという人がエルフ族が過去の不幸な出来事が原因で全滅寸前に追い込まれている事が原因で魔人と一緒に行動する事になっているというのならば、きちんと話さえ聞いて貰えれば、こちら側に来て貰える可能性は十分あると僕は思う。
問題なのは彼女がザナドゥの奴隷だと言う事だけど、スキル欄と同じ場所に表示があるから恐らく【カット】で無効化出来るのでは無いかと思う。
スキルと一緒に【カット】する事も考えたんだけど、奴隷契約でザナドゥと何かしらの繋がりが出来ており、【カット】した事で奴隷契約が解除された事をザナドゥが知ってしまう可能性があったので、取りあえずやめておいたんだ。
『……ヒューム族の言う事など、信じられるものか』
僕の提案に否定の言葉を返すピロースさん。だけど、彼女はきっと迷っているんだと思う。
躊躇うような口調もそうだけど、わざわざ【念話】で返事を返して来たのだ。
この提案をどうでも良い物と思っているのならば、口に出してザナドゥにさっさと報告をすればいいのだからね。だから僕は次の手札を出す事にする
『エイミさんをご存じですか?』
『……!!?』
この反応、やはり知ってるんだね。
エイミさんは族長の一人娘で世界樹の守り手の一人だったんだ。
村の中でも有名人だったに違いない、だからピロースさんが知ってる可能性はあると思っていたんだ。
『エイミさんは今僕たちと一緒に暮らしています。……そして、先ほどの話にあったエルフ族に昔のような生活を取り返すべく、一緒に頑張っています』
念話で会話しながらも、シルフィと器用に剣戟の打ち合いを続けている。
【片手剣・聖】を奪い、片手剣をうまく振るう能力が無くなった筈なのに、会話中は手加減をしているとは言え、スキルを使っているシルフィと打ち合う事が出来る彼女はやはりザナドゥが言うように優秀な戦士なのだろう。
『……エイミ、生きていてくれたか……良かろう、話を聞くだけは聞いてやる』
よし!これで何とか彼女をこちらに引き込める可能性が出てきたぞ!
『……と言う訳なんです』
まだ仲間になると決まった訳ではないし、信頼できるのかどうかも不明だ。
僕のスキルや能力はうまくぼやかしながら、神獣様から協力を約束されている事や過去に戻ってエルフ族を救おうと考えている事を説明する。
『……神獣の事はともかく、過去に戻るなど……信じる事は出来んな』
『まあ、普通はそうですよね』
僕があっさりとそう言うと、意外そうな声を返してきた。
『なんだ、随分あっさりしているのだな?私に信じて貰わなくてもいいのか?』
……それは勿論、信じて貰いたい。
けど、無条件で信じて貰うにはあまりにも突拍子もない話なのは、僕自身がよく分かっている。だから僕はそう答えるしかないのだ。
『勿論、信じて貰いたいです。そのためにわざわざこんなやり取りをしているのですから』
『なるほどな、確かにこんな回りくどい策を弄さなくても、私を力をもって無力化する事は確かにそこの女なら出来そうだな。……貴様ら、私に何か細工をしただろう?』
やはり、気がついていたようだね。
……これで何故かは分からないだろうけど、僕たちに特別な力がある事は理解して貰えるだろうと思う。
『ええ、ちょっと細工はさせて頂きました』
『……ふん、それで貴様らは私に何を望む?知らぬだろうから教えてやろう。私はそこにいる魔人の奴隷となっている。協力せよと言われても出来ぬ相談だぞ』
よし、あと一押しでいける!
『それは大丈夫だと思います、貴方が僕らと共に来てくれると言うのなら何とかして見せます』
僕の返答を聞き、しばらく念話が帰ってこなくなる。
勿論、その間もシルフィとの打ち合いは続いている。
『……条件がある』
ん?何だろう……これは全く想定していなかったよ。
出来る事なら、何でも対応してあげたいけれど……。
『まず、このまま私に勝て。もっとも私は手加減はせんがな……そのうえでザナドゥを倒す事が出来たらその申し出を受けよう。……だが、仮にザナドゥを倒したとしても貴様が話した事が嘘だったら、私は敵対し貴様らに再び剣を向けるぞ』
うん、これなら問題はない。
どちらにせよ、ザナドゥを倒さない事には僕らはここから進めないんだ。
……負けられない理由が1つ増えるだけだ!
『わかりました!シルフィ、アイシャ……聞いた通りだよ!!ピロースさんを何としてもエイミさんと再会させよう!』
『『了解っ!』』
まず、シルフィが動いた【身体強化・大】を使用し、剣撃の威力を底上げする。
「これなら、どうだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気合いの叫び声を上げながら、凄まじい勢いでライナス・スワードをピロースさんに振るい続ける。
「……くぅ」
均衡を守っていた二人の打ち合いが徐々にシルフィ優勢へと傾いていく。
「そこっ!」
その瞬間を待っていたのだろう、アイシャから三条の光が射出させる。
勿論、アイシャの攻撃は【弓術・聖】だ。オークの上位種ですら、倒す事が出来る攻撃力を持っている。
そんな攻撃がシルフィとの打ち合いで手一杯のピロースさんに防げる筈がない。
「!!!?」
……だが、彼女はかわしてみせた。本当にスキルが無くなっているんだろうか!?
打ち合いの最中、超高速で飛んでくる矢を三本よけきるなんて考えられないよ。
だが、彼女の善戦はここまでだった。
「……隙が出来たぞ、ここまでだ!くらえっ【武技:シャープネス・ソードォ!】」
「むぉっ!?」
体勢を崩しながら、ピロースさんはレアな装備だと思われるレイピアを盾代わりに目の前に突き出す。だが、シルフィの放った武技はレイピアをへし折りながら彼女の体に命中した。
武技の威力に押され、そのままピロースさんは壁まで吹き飛び、激突する。
『……シルフィ、やり過ぎじゃない?死んじゃったりしていないよね?』
壁に激突して、そのまま崩れ落ちるピロースさんを見て、思わずシルフィに聞いてしまう。
『……手加減はした、恐らく大丈夫だろう……多分』
ザナドゥの隙を見て【補助魔法・徐々回復大(体力)】を掛けておくか……。
取りあえず、これでピロースさんの条件の1つ目は無事満たす事が出来たわけだ。
……あとは!!
「さあ、あとはザナドゥ!あなただけだ!」
お読み頂きありがとうございました。
活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。
6月10日(土)となります。
活動報告にマインとアイシャのラフイラストを公開しております。
良かったら感想などお聞かせください。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/527279/blogkey/1670286/
今後ともどうぞ宜しくお願いします。