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第172話 新規の迷宮(14)

ゆっくりと視線をキメラの口元から、足下へと移動させていく。

すると、そこには……右腕と左足を食いちぎられて、全身真っ赤な血にまみれているテイルズの姿があったのだ。


「……テイルズ」


僕らが無残な姿に変わり果てたテイルズの姿を見て、言葉を無くしていると突然、この場には、そぐわない間の抜けた声と拍手の音が聞こえてきたのだ。


「君たちか?ガーゴイルを倒したのは!素晴らしいよ、いや実に素晴らしい!」


!!!


アイツだ!?あの時に見たアイツに違いない!

ヨルムンガンド様の背中から、見つけたあの時の男……。

無抵抗な一般市民を魔族と共に殺し回っていた……あの男だ!!


「……あなたは魔人……ですね?」


「ああ、君の言う通り私は魔人族の戦士、ザナドゥと言う」


……ザナドゥ、あの時の事を覚えていないのか?それとも、目が合ったと僕が勝手に思っていただけなのか?


「……そこの人を渡して貰いたい」


僕がテイルズを指さして、そうザナドゥと名乗った魔人に話しかける。


「……ふむ、君は中々失礼な人間みたいだね?私は名を名乗ったのだが?」


……え?まさか魔人に礼儀の事を注意されるとは予想もしなかったよ。

だが、悔しいけど確かに言う通りではある。テイルズの状況を考えると時間的な余裕はそれほど無いとは思うけど、魔人達にヒューム族が礼儀知らずと言われる訳にはいかない。

僕は姿勢を正して、魔人に頭を下げる。


「確かに貴方の言う通りです、ごめんなさい。僕はマイン、ヒューム族の狩人です」


「ほう、なんだ……人間にもまともなのがいるのだな。こいつは、全くの礼儀知らずだったから人間とはそんなものかと思ってしまったよ」


ザナドゥは機嫌良さそうに、テイルズを足で軽く蹴りながらそう言った。

……ああ、テイルズの事だ。きっと上から目線でザナドゥに対応したのだろうな。

面白いぐらいにその時の様子が目に浮かんでくるよ……。


「その男の非礼はお詫びします、どうかこちらに引き渡して貰えませんか?」


改めて、ザナドゥにそうお願いをすると、彼は少し考えてからキメラに声を掛ける。


「実験体1号よ、あれだけ食べたんだ。流石に腹も膨れただろう?こいつはもう食べなくても構わないか?」


あれだけ?(・・・・)……考えてみたら従魔の輪廻(テイマーズリング)のメンバーも……テイムされていた筈の魔物も誰一人として姿が無い。……まさか!?このキメラが……!?


「グゥォォォ」


ザナドゥの問いかけに答えを返したのか、キメラがうなり声を上げる。

そして、そのまま口に咥えていた遺体をゴリゴリと噛み砕きながら咀嚼し始める。


「どうやら、食べなくもいいようだ。……いいだろう、君の礼儀正しい態度に敬意を表してこの人間を帰してやろう」


そう言ってザナドゥは、テイルズの首根っこをむんずと掴みこちらに向かって放り投げてきた。


「あわわ……」


突然の事に慌てながらも【身体強化・大】を使い、飛んできたテイルズの体を受け止める。

……駄目だ、助からないかもしれないな。


テイルズの体は見た目以上に損傷が激しかった。

恐らくあのキメラに噛みつかれたのだろう、体に大きな歯形が残っている。

そして何よりも遠目で見たとおり、右腕と左足が無い。

断面から、これも恐らくキメラに喰われたのでは無いだろうか。


【再生】を使えば、治療は可能だとは思うけど……。

ザナドゥに見られるリスクを犯してまで、助けたい人物では無い。

冷たいようだが【補助魔法・徐々回復小】だけで、我慢してもらおう。

わざわざ、こちらの手を敵に教えてやる訳にはいかないからね。


『アイシャ、テイルズの回復はしなくていいからね』


『わかってるわ、魔人に手の内を晒す訳にはいかないものね』


これが、お義兄さんやフランツ団長だったら、それでも治療にあたっただろう。

テイルズは……こんな事を言いたくないけれど自業自得だよね。


「さて、もう良いかね?」


テイルズへの応急処置が終わったと判断したのだろう。

ザナドゥが声をこちらに掛けてきた。


「……ええ、ありがとうございます」


「ふむ、なるほどなるほど、本当に君は礼儀正しいのだね。そこの人間もそうだったが大抵の人間は私が魔人と知ると、有無を言わさずに襲ってくるからね。いや、貴重な体験をさせてもらっているよ」


……普通の反応はきっとそうなんだろうね。

このキメラはともかく、このザナドゥという魔人はどうにもやりにくい感じがするよ。

一体、何を考えているのかが、全く分からない。


「……で、マイン。聞きたいのだが君たちは何をしにこの迷宮(ダンジョン)に?」


来たっ!この回答で否が応でも戦闘になるだろう。不意打ちに注意だ!


「……この迷宮(ダンジョン)を潰しに来ました」


僕の回答を聞き、ザナドゥの右の眉毛がピクッと跳ね上がる。

多分だけど、こんな直球の返事が返ってくるとは思わなかっただろうね。


「ほう、この迷宮(ダンジョン)を……ね?君たちは迷宮(ダンジョン)を我々魔人族が作っている事を知っているのかね?」


「……ええ、勿論知っています」


「つまり、私達と敵対する、そういう事かな?」


「……そういう事になるんでしょうね、多分」


さて、どう出てくる?キメラをけしかけてくるのか?それとも自分自身で?

不意打ちに備え、僕らはぐっと身構える。


「クククッ……ウワハハハハハハハハハハハハ、これは面白い」


……あれ?予想外の反応だぞ。

てっきり、怒り狂って襲いかかってくるかと思った。


「ピロース、こっちに来なさい」


ザナドゥがキメラの背後に向かって声を掛けている。

ピロース?まだ仲間がいるというの!?ああ、そうか気配は2つあったっけ!

【気配察知・大】で確認した不思議な気配の持ち主……あの一つがザナドゥだと言うのならもう一つの気配も魔人という事か!?災害級の魔物キメラと魔人が二人……。


確かに普通なら、絶望的な状況なのだろうね。

ザナドゥが笑う気持ちも理解出来なくは無い……かな?


だが、こちらには子供とはいえ、神獣が2匹もいるんだ。

決して、戦力的に劣ってはいない筈だ。


ザナドゥの呼びかけで姿を現したのは……なんとエルフの女性だった。

いや、エルフにしてはおかしい。肌の色が黒すぎる。


「紹介しよう、私の可愛い部下でピロースと言うんだ。彼女は見ての通りエルフだ……もっとも普通のエルフでは無いがね」


ピロースと呼ばれたエルフの女性は、僕たちに憎悪の籠もった視線を投げてくる。

……初対面の筈なのに、何でこんな視線を受けるのだろう?知らないうちにどこかで出会っていたのだろうか?いや、僕たちの知り合いでエルフといえばエイミさんしかいない。


「……どこかでお会いした事がありますか?」


思わずそう尋ねると、彼女は何も話さず、僕らから顔を背けてしまう。


「クククッ……彼女は極度のヒューム嫌いでね。まあ、何故ヒュームが嫌いなのかは自分達が一番分かるだろう?」


……なるほど、エイミさんと同じなのか……。彼女もあの惨劇の生き残りなんだね。

僕らがどうのというよりも、エルフ族をあんな目に遭わせたヒューム族自体を嫌っている……そういう事なのだろう。


「さてマインよ、せっかくだ。ゲームをしようじゃないか」


……ゲーム?

一体、何をするつもりなんだろう。嫌な予感がするよ。


お読み頂きありがとうございました。


活動報告とツイッターでも書かせて頂きましたが、書籍の発売日が決定しました。


6月10日(土)となります。


これから、順次イラストレイターさん等の情報をお出し出来ると思います。


今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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