第169話 新規の迷宮(11)
こいつがガーゴイルか……かなり強そうだね……。
物語[英雄アレキサンドライトの物語]にも登場する石像に生命が宿った魔物。
まさか、こうして本物をこの目で見る事になるなんて、お母さんに本を読んで貰っていたときは考えもしなかったよ。世の中って、本当に不思議だよね。
犬のような顔、長く尖った歯と鋭く伸びた爪。
背中に巨大な羽が生えており、その体は頑丈な石で出来ているという中々倒すのは面倒くさそうな相手だよね。
基本的にガーゴイルって魔物は武器をその手に持つ事は無い。
僕たちが持つ武器……剣や槍の代わりとなるのが、切れ味鋭い爪と何でもかみ砕きそうな頑丈な牙だ。それらを駆使して攻撃し、石で出来た頑丈な体をもってこちらの攻撃をはじき返してくるのだ。更に奴らは背中に生えている大きな翼で空中を自在に飛び回るのだ。
空中からの攻撃、たったこれだけで戦いはガーゴイルにとって優位な展開となる。
……戦闘における優位性を決定付ける物とは、すなわち敵の能力と自分の能力との相性だ。
どんなに強い能力を持っていたとしても、相手がその能力を苦にしなければ意味は無い。
では、僕とガーゴイルで考えた場合、どうなるのだろう。
確かに空から攻撃をしてくる為、、非常に戦いづらい相手と言えるだろう。
……だが、僕には空中を自在に駆ける事が出来るアイテムがあるのだ。
そしてそのアイテムを今まさに僕は装備している。
そう、力の迷宮で手に入れた“シエルスーリエ”だ。
名前:シエルスーリエ
敏捷:+25
階級:超級
属性:風
特性:移動速度3%アップ
空中歩行
空中を歩行する事が出来、移動速度が3%もアップするという破格の性能を持つ持つこのシエルスーリエがあれば、恐らくガーゴイルが相手であったとしてもそれなりに渡り合える事が出来るだろう。
そして、何と言っても僕には【カット&ペースト】がある。
いつも通り、ガーゴイルの能力を奪い、自分にその能力を転化する。
……今までの戦いでもそうだったが、対ガーゴイル戦でも当然それは有効だろう。
そんな訳で……さてっと……まずはスキルを奪ってしまおう。
一番危険そうなのは【恐慌の魔眼】だね。
【恐慌の魔眼】:任意の相手一人に好きなタイミングで発動。
このスキルを受けた対象者は確率で恐慌状態となり、数十秒身動きが出 来なくなる。
どこかで見た効果だな、と思ったら【王の威圧】の劣化版みたいなスキルなんだね。
【王の威圧】は相手とのレベル差で完全な恐慌状態を与えるし、複数の相手にも効果がある訳なので僕にはあまり必要が無いスキルなのかな?
お嫁さん二人とわっふるとクゥに【ペースト】すれば、丁度いい数だね。
さて、いくら劣化版とはいえ、【王の威圧】と同じような能力を持つこのスキルは危険だ。今回のように複数の敵と戦う場合、死角からこれを喰らってしまえば、致命的だといえる。
何せ、喰らったら最期、数十秒の間、身動きが取れなくなってしまうのだから。
無論、その間に防御系のスキルを使う事もかなわないだろう。
だから、まずこのスキルを【カット】だ。
しかし、種族スキルというのは本当に厄介な物が多いよね。
……本当に【鑑定・全】のレベルが上がって良かったよ。
そうじゃなかったら、未だに種族スキルを確認出来ず、この迷宮の攻略は大苦戦だったと思うよ。
よし、続けて【固有魔法・雷】を取って、アビリティ【鋭爪】も【カット】だ。
……そういえば、固有魔法ってこれで二つ目だね。
時空がかなり特殊な魔法だっただけに【固有魔法・雷】も期待が持てるよね。
よし、準備は出来た。
後はあの4体のガーゴイルを倒すだけだ。
[英雄アレキサンドライトの物語]に出てくるガーゴイルは、確か魔法攻撃が効かなかった。
果たして、こいつらも同じなんだろうか?……よし、試してみようかな。
【範囲魔法・風極大】をガーゴイルに向かって、解き放つ。
激しく砂埃を巻き上げながら、風の刃が一体のガーゴイル目がけて飛んでいく。
「どうだ!?やったか!」
激しい轟音とは裏腹に、物語同様ガーゴイルにダメージは与える事が出来ていないようだ。
「……物語通りか」
……ならば、直接叩くしかないか。
魔法の直撃を喰らった事で、怒りでもしたのだろうか。
4体のガーゴイルが一斉にこちらに向かって飛んできた。
その様子を冷静に観察しながら、僕はライトニングエッジを右手に、鋼鉄短剣を左手にそれぞれ装備し、身体強化系のスキルを発動していく。
1対4の戦いだ、防御系のスキルも同時に発動しておく事を忘れない。
「こいつでも喰らえ!」
向かってくる4体の中で先頭に位置するガーゴイルに向かって【衝撃の魔眼】を叩き込む。こいつなら、魔法攻撃じゃない!やつらのフォーメーションを揺るがす事位は出来るだろう。
先頭を飛んでいたガーゴイルは、乾いた衝撃音と共に体勢を大きく崩し、後ろから迫っていた3体の進路をその体でせき止めてしまう。
「今だっ!!!」
体勢を崩しはしたものの、飛んできていたその勢いが無くなったわけではない。
僕目がけて、勢いよく突っ込んでくる岩の塊を半身でかわし、側面から【武技:シャークグロウ】を叩き込む。相手の勢いの強さも加わったのだろう。
すさまじく大きな打撃音と共に先頭にいたガーゴイルは砕け散った。
……ここで、気をつけなければならない事が一つある。
ガーゴイルやゴーレムのような魔法生物はその核を破壊、もしくは隔離しなければ時間と共に復活してしまう。
素早く【気配察知・大】を発動し、飛び散った核を探し出す。
「見つけたっ!」
ひときわ大きく魔力を放出する球状の石を手に掴み、そのまま時間停止の収納袋に放り込む。錬金術の良い素材として使えそうなので破壊はせずにこうして隔離しておくのだ。
「まだ、体勢が整っていないうちに!!」
よろめいているガーゴイルの一体を再度【武技:シャークグロウ】で粉砕する。
「これであと2体だっ!」
◆◇◆◇◆
「……ふぅ、何とか倒したか」
4体のガーゴイルを全て【武技:シャークグロウ】で粉砕し、核も忘れないように回収しながら、僕はそうつぶやく。
……何かが引っかかる。
ここまでくるまでの行程から、恐らくこのB3階のボスであったろうガーゴイル。
ドロップアイテムこそ、無かったが貴重な魔法生物の核が4つも手に入った。
ある意味、これがドロップアイテムと言えなくはない。
無事に倒す事が出来た訳だが、何か忘れている事がある……そんな気がするんだ。
!!!
そうか、テイルズ達は何処に行ったんだ!?
追い抜いた……と言う事は、この階層の仕掛けからすると考えづらい。
かといって、ガーゴイルが存在し、僕に襲いかかってきたという事は倒されてもいないと言う事だ。
……と、なると考えられる事は、ただ一つだ。
もしかして、テイルズ達はガーゴイルに負けたのだろうか?
お読み頂きありがとうございました。
長く続きました新規の迷宮編、いよいよ佳境です。
もう少々お付き合いくださいm(_ _)m
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。




