第168話 新規の迷宮(10)
#新規の迷宮、地下3階
「一体、何だ……この階層は……」
シルフィがB3階に到着して、すぐにそう声を上げた。
……無理もないよ、だって、僕もそう思うもの。
B3階は今まで見てきた迷宮の階層のどれとも違っていた。
階段を下り、たどり着いたのは5メートル四方の小部屋。
その四方向全てに扉がある。
そして、その扉を開けると、目の前に広がるのはまたさっきと同様5メートル四方の小部屋である。その小部屋にもまた四方に扉が……。
……そう、シルフィが声を上げた理由が分かっただろうか。
つまり、どこを開けても全て同じ形の部屋だと言う事だ。
一体、どう進めばいいんだろう、コレ……。
「……これは随分と、嫌らしい階層よね」
冒険者として、経験豊富なアイシャですら、こんな事を言っている。
そもそも魔物は現れるのかな?この階層……。
テイルズ達も相当面食らっているんじゃないだろうか。
『わっふる、この階層の魔力はどんな感じ?』
僕が聞いてくると予想していたのだろう、僕がそう言いながらわっふるに視線を向けると既に尻尾をユラユラとふりながら、クンクンと鼻を鳴らして魔力を探っていた。
『わふぅ……なんか、ここへんだ。まりょくはあるけど……』
珍しいね、わっふるがこんな微妙な表現をするなんて。
『ボスの場所は分かる?』
『だめだー、なんか、もやもやが、かかったみたいで、わかんないぞー!』
わっふるがじたばたとその場で暴れ出す。
こうなると勘を頼りに進むしかないのかな……
「取りあえず、きちんとマッピングをしながら、確実に進んでみよう」
僕がそう宣言して、扉に手を掛けるとアイシャが声を掛けてくる。
「待って、マイン君。この階層を不用意に歩いたら、きっと迷うわよ。冒険者時代に聞いた事があるのだけど、この手の仕掛けって単純に似た部屋が連続で並んでいるだけじゃないの」
ん?どういう事だろう。何か特別な仕掛けでもあるんだろうか?
ぱっと思いつくのは魔物部屋位かなあ……。
「さっき、わっふるが『もやもやが、かかったみたい』って言ってたでしょ?……今、見えている四カ所の扉だけど、恐らく正しい扉を進まないと同じ場所をグルグルと回ってしまうんじゃないかしら……どこかの迷宮にそんな仕掛けがあったって聞いたわ」
なんだって!?魔物部屋よりもたちが悪いよ!それ!?
正しい道を一体、どうやって確認したらいいんだろう……。
「……なるほど、さっきわっふるが感じたもやもやと言うのがその目くらましなのかもしれないな」
とにかく、急いで方針を決めて次の階を目指さなきゃ!
「何か目印を置いていこうか?」
僕がそう提案すると、アイシャがアイデアを思いついたらしく提案しはじめる。
まず、僕とわっふるで適当に進んでいき、今のこの場所に戻ってきてしまうのかどうかを確認する。その場を動かないアイシャ達に合流すれば、アイシャの予想通り、正しい道筋で扉をあけていかなければならないと言う事だ。
……そして、それなりに進んでいっても合流しなかった場合。【固有魔法・時空】を使って、戻ってきて改めて全員で移動を開始するという物だ。
「……確かに良い方法だけど【固有魔法・時空】で戻って来れなかったらどうする?」
何かしらの方法……それが魔力なのか、それとも何かのスキル的な物なのか分からないが場合によっては【固有魔法・時空】すら、ねじ曲げられる可能性だってある。
そうなったら、パーティが分断される形になってしまう。
「ああ、そこは大丈夫だと思うぞ、旦那様」
何やらシルフィが自信ありげに、僕の問いに答えを返す。
……一体、何を思いついたのかな?
「ここから、私たちは動かないと言う事はすぐそこに階段があると言う事だ。いざとなったら上の階で合流すればいい。この階層内を繋ぐ事は出来なかったとしても、上の階層で繋がるのは既に確認済みだろう?」
ああ、なるほど。確かに上に階層で【固有魔法・時空】は使えた。
その方法なら、分断されるという心配はあまりないかな?
けど、万が一って事があるからね。わっふるはここに置いていこう。
戦闘力という意味では、わっふるとクゥがやはり抜き出ている。
魔人が居るという可能性も未だにゼロとなったわけじゃないんだ。
僕がいない間に魔人が、お嫁さん達と遭遇したら絶対にまずいからね。
わっふるとクゥが入れくれれば、そんな事態に陥っても何とかしてくれると思う。
事情を説明すると、わっふるは嫌がる訳でも無く『わふっ!まかせておけ!』と居残りを快く引き受けてくれたのだ。
「じゃあ、行ってくるよ。みんな気をつけてね」
「いや、気をつけるのは寧ろ、私たちよりも旦那様の方だろう?」
苦笑しながら、僕はみんなを置いて適当な扉を開けて進んでいく。右右下下左右左右……適当に頭に思いつくまま、扉を開けて進んでいく。
途中で目印になるようにと、開けた扉にライトニングエッジで傷を忘れないでつけていく。そして、丁度10部屋抜けた所で、家族が待っている階段のあった部屋にたどり着いた。
「……アイシャの予想通りだね」
これで、正しい道を選択しなければ先に進めないという事がはっきりとした。
10部屋抜けて11部屋で元の部屋に戻ってきた。
「もう一度、確認をしてみるね」
規則性を確認するために、それから僕は何度も同じ事を繰り返し、おぼろげながら法則が分かってきた。10部屋まではどの道を通っても関係は無い。
11部屋目から、正しい道へのカウントが始まるみたいなのだ。
10部屋目に入ってから、南の部屋に入った場合だけ階段の部屋に戻る事は無かった。
で、12部屋目に入ったら、元の階段部屋に戻ってきた。
「……これ、気が遠くなるよね」
……そして、不意にある事に気がついた。
あれ、待てよ……?テイルズがここに居ないと言う事は……正解の道を見つけてどんどん進んでいるって事なのか?これはまずいぞ。下手をするとまた、距離を離されてしまう。
法則が分かったのだ。ここから一気に取り返そう!
結局、僕が今のやり方で最後まで突き進み、ゴールにたどりついたら全員で移動をする事になった。むやみに移動を繰り返して、体力を消耗してもいけないからね。
幸い、僕は世界樹の迷宮まで、走ったりしたから、こう言ったマラソンは慣れている。
そして、マラソンを繰り返す事、実に75回……。
やっと今までの小部屋では無い部屋へとたどり着く事が出来た。
「ここがゴールなんだろうか?」
今までの部屋と感じは良く似ているのだが、大きさが違う。
15~20メートル位の長方形の部屋で、四隅に魔物の銅像のような物が設置されている。
そして部屋の真ん中には、大きな円が描いてある。
……慎重に円の上に片足を乗せてみる。……うん、何も起こらない。
じゃあ、次は円の中心まで歩いてみよう。
一歩、二歩……そして三歩。
円の中心に到達すると、部屋の様子に変化が訪れた。
なんと、部屋の四隅に設置されていた魔物の銅像が動き出したのだ。
名前:フェイスフルネス・ガーゴイル
LV:73
種族:魔法生物
性別:-
【スキル】
固有魔法・雷
【アビリティ】
鋭爪
【種族スキル】
恐慌の魔眼
……こんなのが4匹か……。
よし、一丁頑張ってみますか!
お読み頂きありがとうございました。
※若かりし日の国王様視点のスピンオフを投稿しております。
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今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。