第167話 新規の迷宮(9)
……テイルズって人は、想像以上にひどい人物みたいだね。
さて、ざっと事情を聞いたけど、この後どうしたらいいんだろう。
国王様から受けた依頼を達成するためには、当然先に進む必要がある。
だけど、この人……カッポレさんをここに置いていくわけにもいかない。
いくら、テイルズの仲間で、性格的にあまり好きな人では無いとしてもそんな判断をする事は人道的に出来ないだろう。
……かといって、まさかこの人を連れて【固有魔法・時空】を使って脱出……なんて訳にもいかない。
「はぁ、どうしたもんかな」
僕のため息の理由がきっと分かっているのだろう、シルフィとアイシャの二人が顔を見合わせてから苦笑いをし、こちらを見てる。……きっと、僕の判断を待っているんだろうね。
……ふう、仕方ないか。
「カッポレさん、各ボス部屋の転送用の石碑……触ってますか?」
「……ああ、勿論だぜ」
これで、何とか1Fの入り口までは移動する事は出来るか。
ただ、問題はそこからだよなあ。この迷宮は王都から近いと言われているけど、それでも馬車で半日の場所にある訳だ。
満足に歩く事も出来ない人間を連れて、歩くなんて事出来るわけがない。
それにあまり時間を掛けてしまえば、テイルズ達を追いかけるのも困難になってしまう。
「迷宮の入り口まで、連れて行って置いておく……か」
そうなにげなく僕がつぶやくと、カッポレさんは顔を真っ赤にして、僕に向かって抗議をし始める。……いや、とても汚い言葉で罵られていると言った方がいいのか。
「馬鹿野郎!てめえには人の心ってもんがねえのかよ!重傷なんだぞ、俺は!おめえらは馬鹿か?馬鹿なのか!?ああん?」
この物言いを聞いて今まで静観していたシルフィも流石に会話に割り込みしてくる。
……そりゃ、我慢出来ないよね。
「カッポレと言ったな?私たちにはお前を保護する理由も義務も無いのだがな。その辺りは理解しているのか?それに我々は感謝の言葉すら、まだ聞いていないのだが?」
全くシルフィの言う通りだ。
普通なら命を救った僕たちへ感謝の一つもあっていいだろう。
別に感謝して欲しいわけではないが、常識はそういう物だろうと思う。
……さて、この正論を聞いてどういう反応を返すんだろう?
怖い物見たさでは無いが非常に気になる所だ。
「ああん?だから言ってんだろうがよ!おめえらには人の心がねえのかってよ!」
駄目だ、この人……。流石、テイルズの仲間だ。ここで僕らにこんな態度で接したら悪印象を与えて、置いていかれるかもしれないって事も分からないんだろうか。全く状況を理解していない。この人にあるのは、本当に“自分”だけなんだ。
「……あなた、分からないの?」
ああ、アイシャが切れた!
「何がだっ!?この鬼畜どもがっ!さっさと俺を王都の治療院に連れて行けっ!お前らが未熟で治せなくても王都の治療師なら、きっと俺の体も治せる筈だ!」
アイシャが必死になって、回復魔法を掛けたから命が助かったのに……。
その事を感謝するどころか、こんな物の言い様をするのか。
「マイン君、コレ置いていきましょう。こんな礼儀も知らないような人に関わる時間が勿体ないわ」
……まあ、確かに僕らの都合を優先するなら、それが一番なんだけどね。
やはり、人道的に考えると今一歩踏み切れない。
『まいん~、ちゅんすけが、ごしゅじんを、たすけてほしいっていってるぞ……』
わっふるが急に僕に声を掛けてくる。
声が掛かった方を見ると、ぷるぷると震えながらこちらに頭を下げている雀がいた。
恐らく今のやり取りをわっふるやクゥを通して、聞いたのだろう。
このままだと、ご主人様が死んじゃうのが分かってるんだろう。
だからこそ、必死になってお願いしてるんだ。
……従魔になっているとはいえ、魔物の方が礼儀正しいとは一体どう言う事なんだろう。
必死になって、頭を下げているちゅんすけという雀を見ると益々悩んでしまう。
『う~ん、どうした物かなあ』
……結局、ここに話しが戻ってくるのか。本当にどうしようかなあ。
アイシャをちらっと見ると、かなり怒っているのが分かる。シルフィも関わりになりたくないと思い切り態度に出ている。
本来シルフィの元王女という立場なら国民を救うって言わなきゃいけない所なんだろうけど……。声にこそ出さないけど、実はシルフィも相当怒ってるんだろうね。
『おにいさま、わたしにめいあんがあります!』
おお?クゥ!ナイスだ!
『とりあえず、そとにでましょう!で、だれかにおうとまで、いってもらって、むかえをよべばいいんです!』
僕もそれは考えたけど……けど、迎えにくるのに早くたって半日かかるよ?
それにもうすぐ夜になる。夜には馬車を出せないんじゃ無いかな?
クゥにその辺りをどう考えているんだろう、聞いてみようか。
『わたしたちはかえりましょう!』
え?追いていっちゃうんだ?
『ちゅんすけが、がんばって、ごしゅじんをまもればいいんです!』
う~ん、それはどうなんだろう……。お世辞にも強い魔物には見えないんだけど……。
最低でも6~7時間は待つ必要があるよね。ちょっと強めの敵が来たら負けちゃうんじゃない?
『わふっ!ちゅんすけ、けっこうつよい。だいじょうぶだ!』
うん?わっふるも賛成なのか。なら、本当に大丈夫なのかな?
……仕方ないか、それじゃその案を採用しようか。
「シルフィ、アイシャ、ごめんね」
スキルの方の【念話】で会話をしていたので、今の僕とクゥ、わっふるとの会話は当然二人にも聞こえている。彼女たちの怒り具合からすれば、不本意な納得がいかない案かもしれないのだけど……。
結局、二人は反対するわけでも無く、早速石碑を使って1Fに移動する事になった。
きっと、僕の意見を尊重してくれたんだね。申し訳ないと思いながらもありがたく思ってしまう。
お嫁さんとこいつを触れさせたくなかったので、僕が運ぼうとすると文句を言い始めたので、結局魔法で眠らせて、そのまま1Fまで連れて行く事にした。
……あっ。
そうか、このまま寝てるうちに王都に運んじゃえばいいんだ。
と、なれば【固有魔法・時空】を使用して王宮に繋ぐ。
そして、シルフィに先行してもらい人を連れて来てもらい、引き渡せばそれで完了だ。
後は騎士団かお義兄さんがうまい事やってくれる筈だ。
あとでわっふるから聞いたんだけど、ちゅんすけが最後までお礼を言ってたらしい。
……さて、元々の予定では家に帰る所なんだけど……。
テイルズ達に出来れば、追いついておきたい。
となれば、このまま迷宮に戻るべきなんだろうけど、どうしようか。
「マイン君、今日の所は一度戻りましょう。テイルズ達も激しい戦闘で疲れてるだろうから無理して進まないと思うわ」
「……そうだな、余裕はあるが予定以上の行軍をして疲れが出ても良くない。
私も帰る事に賛成だ」
うん、そうだね。身体的な疲れは確かに無いけど、カッポレのせいで精神的に疲れてしまったよ。こんな時はお風呂に入ってリフレッシュしたいよね。
「うん、了解。帰ろうか」
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。