第166話 CASE:テイルズ
残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。
俺様の名前はテイルズ。
元B級冒険者で今はオーガスタ王国が承認したクラン「従魔の輪廻」の代表を務めている。
「従魔の輪廻」の目的は、この世に存在している珍しい魔物を使役して収集する事だ。実際に俺たちは珍しい魔物を何匹もテイムする事に成功している。使役された魔物という奴は、かなり役立つ存在だ。
人間では中々手を出せない場所だったり、危険な場所だったりしても、魔物ならば不可能が可能になる場合が多いのだ。
それ故、使役された魔物を欲しがる人間ってのはかなり沢山いるわけだ。
魔物の使役を目的とした団体っていうのは、クランやパーティ問わず俺たち従魔の輪廻以外には存在しない。
だからこそ、貴族や王族などから俺たちは重宝されているし、認められてもいる。
今では従魔の輪廻は、王国でも大手三大クランの中の一角を成す存在にまで上り詰めたのだ。
そんな俺様は今、王都から離れた田舎町ルーカスに新人を引き連れ、出向いている。
新人の名前はカッポレと言って、このルーカスの町の出身者だ。
案内をさせようと思って連れてきた訳だが……この男、中々面白い話を持っていやがった。
このルーカスの裏手にある森で、見た事も無い魔物を見つけたというのだ。
紫色の小狼と空中をぷかぷかと浮くピンク色の魚のような魔物って事だが……。
……確かに聞く限り珍しい魔物なのは間違いなさそうだ。なんとしても俺たちのクランで確保をするべき魔物だと言えるだろう。
都合がいい事にルーカスの町には用事がある。
何でも久しぶりに新しいクランが国から承認され、その本拠地があるルーカスの町でクランハウスの完成式典をやると言うらしいのだ。
何でも第一王女のシルフィードの結婚相手が代表者という事で、随分と国がバックアップをしているみたいでな。国がそのクランの本拠地完成の式典をルーカスで行うから俺にも三大クランの代表者として来いと言ってきやがった訳だ。
◆◇◆◇◆
「……そうか、早速明日から向かうか」
ん?あれはアルトじゃねえか。次期国王様まで、こんな片田舎まで出張ってくるとはな。
一体なんだって言うんだ?いくら王族が絡んだクランとはいえ、優遇がすぎやしねえか?
しかも出来たばかりだってえのに、俺ら三大クランと同格扱いと言うのも気に入らねえ。
……んで、誰なんだ?アルトと話してる餓鬼は?
「……だが、本当に今回の依頼は大丈夫なのか。いかにお前達とはいえ迷宮を攻略してくるなど……難易度が高すぎるのではないか?」
「大丈夫です、お義兄さん!心配してくださってありがとうございます」
……迷宮の攻略だと、それに“お義兄さん”?
アルトを義兄と呼ぶと言う事は……そうか、こいつがシルフィードと結婚したというマインって野郎か。なんでえ、ちんまい餓鬼じゃねえか。
……こんなのとシルフィードは結婚したって言うのか?こんな餓鬼と結婚する位なら俺と結婚した方がいいだろうによ。
「父上もあの迷宮が王都からもっと離れていれば、これほど危険視はしないのだろうが……」
……ふん、なるほどな。
国王から直接「永久なる向日葵」とやらに迷宮攻略を依頼したって事かよ。
ちっ、クソッタレが。コネで依頼が舞い込んで来るなんていい身分だぜ。
しかし、王都から近い迷宮って、何処の事だ?近場の迷宮と言えば、力の迷宮位の筈だが……。
◆◇◆◇◆
「テイルズ様!わかりました!何でも王都から西に半日ほど進んだ所に迷宮が突如出現したそうです」
アルトが話していた迷宮は冒険者ギルドでも情報は公開されており、すぐに知る事が出来た。
「ふん、生まれたての迷宮か。確かに普通の冒険者には、うま味は無いわな」
情報が足りていない現時点では得られるメリットよりも、デメリットの方が大きい。
一攫千金を得る事が出来る可能性も無いわけでは無いが、冒険者という立場から見れば遠慮したいのが本音だろう。
……だが、俺たち従魔の輪廻にとっては、メリットの方が大きいといえる。生まれたての迷宮というからには、他では見る事が出来ない魔物を発見出来る可能性がある。仮に新種で無かったとしても、亜種でもいてくれれば高い値段で好事家どもに売る事も出来る。
ついでに言えば、あの気に入らねえ餓鬼が来るっていうなら不意打ちで闇に葬り去る事も出来るだろう。迷宮探索中に事故で死んじまうなんざ、よくある話だからな。
そうと決まれば、急がなきゃあな。
あいつらより先に進んでおかなければ、不意を突く事だって出来やしねえからな。
「よし、お前ら!新規の迷宮とやらにすぐ向かうぞ。5分で準備を整えろ!」
クククッ、面白い事になってきやがったぜ。見てろよ、マインとか言う坊ちゃんよ。
本当の戦闘ってやつをクランの先輩として、俺がきっちりと教えてやるからな。
◆◇◆◇◆
「ちぃ、なんて事だ。色こそ白いが、こりゃロイヤル・ビーじゃねえか!?」
確かこいつには、厄介な攻撃方法が有る。かなり強力な毒を含んだ針を広範囲に……しかも大量に打ち出して来る筈だ。
やべえぞ、本来は森の中みたいな遮蔽物が多くある場所で遭遇する魔物だ。
こんな何も無いだだっ広い場所で戦うような魔物じゃねえ。
しかも、レアカテゴリの魔物だ。
俺の【テイム・極】でも弱らせなきゃ、テイム出来やしねえ。
「ガンダ、ウペック!おめえらのドラゴンフライに遠距離から風魔法を撃たせろ!カッポレ!おめえは俺の隣に来い!おめえの雀もだ!」
俺が今連れてきている魔物は闇の精霊とブラックハイウルフの2匹だけだ。空中を高速で移動するロイヤル・ビーにブラックハイウルフは分が悪い。
かといって闇の精霊も決定打に掛ける。闇の精霊の得意な攻撃は精神に訴えかける物がほとんどだ。本能だけで活動する昆虫系の魔物にはあまり効果がねえ。
恐らく睡眠くらいは効くだろうが、動きが速すぎて捕らえられるかわからん。
「キリジ、おめえのロックバードにポンのマンドラゴラを2匹とも乗せろ。空中ですれ違った時に【睡眠電波】でヤツ眠らせろ!他のヤツらは様子を見ながら待機だ!チャンスがあれば攻撃しろ、いいか!」
取りあえず今打てる手は全て打った。
俺も闇の精霊に指示を出して、ロイヤル・ビーを眠らせるべく行動させる。
「……駄目だ!テイルズさん!ありゃ、速すぎますぜ!ドラゴンフライじゃ追いつかねえ」
ガンダが泣き言を言い始めやがった。
「馬鹿野郎!泣き言抜かしてる暇ァ、あったらとっとと攻撃させろ!」
……ん、待てよ……まずい、まずいぞ!?ロイヤル・ビーのあの構えは……!!!!
「キリジィ、ポォォン、そこから離れろぉ!!!」
「え?」
……遅かったか……
大量の針(恐らく毒針だろう)……が、キリジとポン目がけて一斉に降り注ぐ。
当然、二人にそれを回避する術などなく、針が止み終わる頃には……全身血にまみれ、倒れ伏す屍が2つ転がっていた。
俺たちがキリジとポンの壮絶な最期に呆然としていると、ロイヤル・ビーは二人の骸の上に降り立ち、尻から飛び出た針を突き刺した。
「……な、なんて事だ……」
隣でカッポレがその様子を見て、嘔吐する。
そう、よりにもよって奴は二人の骸から体液や肉をチュウチュウと吸い取っているのだ。
ロイヤル・ビーに吸われる度にキリジとポンの骸はどんどん干からびていく。
そして、つい先ほどまでクランメンバーが完全に原型を留めなくなり、再びロイヤル・ビーは空中へと舞い上がっていく。
畜生め!だが、あの攻撃の弱点が分かったぜ。
……次にアレを使った時が、あのクソ虫の最期になる。
チラッと隣で未だに吐いているカッポレを見てから、クランメンバーに指示を出す。
「いいか!ヤツが空中で変な構えを見せたら、今の攻撃が来る!すぐにその場から離れるんだ!」
その俺の指示が聞こえたからなのか、ヤツは再び先ほどの攻撃をしようと構え始める。
……目標はどうやら俺のようだな。
カッポレの奴はまだ吐く事に夢中でヤツの行動に気がついてねえようだ。……すまねえな、俺の為に死んでくれや。
カッポレの首元をガシッと掴み、今まさに攻撃を放たんとしている奴と俺の間に放り投げる。
「な、なんだ!?なんなんですか!?テイルズさん!?」
さっき俺は見た、奴の放つ毒針は最初に着弾した相手の周辺に降り注いでいた。
つまり、カッポレが初撃を喰らってくれれば、俺自身は逃げる事が出来る筈だ。
「ぐああああああっ!!!!そ、そんなああ!!!!汚えぞォォ、テイルズゥゥゥゥ!!」
そして、毒針を放っている間、あの蜂野郎の動きは……止まる。
「行け!闇の精霊よ!あの蜂を眠らせろ!!」
ん?カッポレの従魔め、なんでわざわざ毒針の中に飛び込む?
ああ、主人を救おうとしたのか……麗しい主従愛だな、クククッ。
カッポレとその従魔の雀が地面に崩れ落ちた、その瞬間。
俺の闇の精霊がロイヤル・ビーを眠らせる事に成功した。
「……良かったじゃねえか、体から色々吸い取られなくてよ、フハハハ」
さて、寝ている今のうちにコイツをテイムしてやろう。
コイツをテイムすれば、高額取引をされているロイヤルゼリーを取り放題だぜ。まさに金のなる木だ。
犠牲も少なく無かったが、まあ仕方ねえな。何事も何かしらの代償なく、報酬は手に入らねえんだ。
さて、ボスをテイムしたら、倒した事になるのかね?
取りあえず、とっとと終わらせて、次の階層へ向かうかね。
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。