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第165話 新規の迷宮(8)

「……こ、これは……一体!?」


血まみれになって倒れている一人の冒険者の姿が、ボス部屋に入った僕たちの目の中に飛び込んできた。


「マイン君!?急いで治療をっ!」


僕よりも先にアイシャが我に返り、倒れている冒険者の元へと走って行く。

アイシャの声で僕も我に返る事が出来て慌てて、その後を追いかける。


「しっかりしてください!今、治療しますから!」


アイシャの【魔法・回復大】が発動する。しかし、よほどのダメージを受けたのか中々回復しないようだ。


よし、それならばと僕も【魔法・回復大】をアイシャの魔法の上から更に重ね掛けする。



【魔術の極み】:魔法を使う際に自動で発動。魔法の威力を五倍に引き上げる。



普段、攻撃魔法でしか意識しないけど、回復魔法でも【魔術の極み】は効果があるはずだ。

これなら、多分何とか助ける事は出来るだろう。


『まいん、なんで【さいせい】をつかわないんだー?』


ブラックドラゴン戦の際、僕やわっふるが【再生】で、致命傷に近かった傷を治した事を思い出したのだろう。僕が【魔法・回復大】を使っている様子を見て、そう尋ねてくる。


『身内でない人にスキルを貼り付けたら後で面倒くさくなっちゃうからね。確かにこの人を助けたいと思う気持ちはあるんだけど、その気持ちよりもスキルの秘密を守る方が僕らにとっては重要だからね』


冷たい対応、と言われるかもしれない。……だけど、こればかりは譲れない部分なんだ。

確かにここで【再生】か【超再生】を使えば、まず間違いなくこの人の命は助かるだろう。

だが……問題なのはこの人が助かった後だ。


まず、間違いなく何で助かったのか疑問に思うはずだ。

彼の受けた傷は間違いなく致命傷だったのだから……。


そして、目の前の状況から僕かアイシャが治療をした事は当然分かるだろう。


この人が性格的に良い人であれば、この場では何も言われないかもしれないが、迷宮(ダンジョン)を出た後で、仲間や家族にこの事をきっと話す筈だ。

恐らく僕たちへの感謝の気持ちを込めて……。

だけどそれは、僕としては非常に困る。人助けをしたと言うのに、結果として自分が窮地に追い込まれるなんて目も当てられないよね。


そして、性格的に悪い人、もしくは図々しい人だった場合は更に問題は大きくなる。

きっと根堀り葉堀り、僕らから事情を聞きだそうとするだろう。

当然、事情など話せる訳がない。そういう人間に限って、自分の思い通りに事が進まなければ、逆切れして根に持つものだ。

命を救ったと言うのに、ストレスを感じ、更に窮地にも追い込まれる。


そんな未来が安易に想像出来るだけに【再生】も【超再生】も使う事は出来ないんだ。


事情を簡単にわっふるに説明すると「にんげんには、わるいやつが、いるからな」と妙に納得していた。きっと神霊の森で冒険者達に捕まった時の事を思い出したのだろう。


「……うぅ……」


お?意識が戻ったかな?……って、あれ?この人どこかで見た事があるな?誰だっけ?

僕がこの人の正体を考えていると、不意にクゥが大声で叫び出す!


『あああああっ!?おにいさま!ちゅんすけが、ちゅんすけが~~~~!たすけてあげてください~~~~~!!』


ちゅんすけ?……はて、この名前も聞いた事があるな。


『わ、わふ~~~~!?こいつ、ちゅんすけのごしゅじんだ!?』


なんだか、よく分からないんだけど……。取りあえず、クゥの所に行かなきゃ!


急いでクゥの元に行くと、そこには雀型の魔物が血だらけで地面に転がっていた。

まだピクピクと動いているので、まだ息絶えてはいない。これなら、まだ助けれるぞ!


僕は【魔法・回復大】を取りあえず掛けてから、慌てて収納袋を取り出す。

そして中から【超再生】の貼り付けされている小石を取り出して、血まみれの雀型魔物に貼り付けた。


魔物が相手なら、僕のスキルが分かったところで問題は無い。

【念話】スキルでも無い限り、誰かに伝える事は出来ないからだ。

念のため、【鑑定】をしてみたが、【念話】は持ってはいなかった。


それに、この魔物の状態だと【超再生】を使わなければ、治療が間に合わず死んでしまっただろう。クゥの心配そうな表情を見ていると、何とかしてやらなければ思ってしまう。


再生時特有の白い煙が、黙々と立ちこめる中、ちゅんすけ?の傷はみるみるうちに回復していった。


『さすが、おにいさまです!ちゅんすけが、いきかえりました!』


いや、クゥ……。元々死んでないからね……。


傷がほとんど塞がったのを確認して【超再生】を【カット】して小石に戻しておく。

念のために【魔法・回復大】を掛けると、バタバタと羽を羽ばたかせて飛び上がっていく。


「ちゅん、ちゅーん!」


うん、何を言ってるのか全くわかんない!


「きゅきゅきゅっ!」

「ちゅちゅんちゅん」

「わふ、わふふ、わふ?」

「ちゅん、ちゅん、ちゅちゅーん!!」


……駄目だ、念話を通さない会話は全く意味不明だよ。

取りあえず、冒険者の方を見に行こうか。


「どう?」


アイシャにそう尋ねると「命だけは取り留めたわ」と返事が返ってきた。

命だけ(・・・・)?どういう事だろう?


「体の中にやっかいな毒……なのかな?はっきりと断定は出来ないけど、そんな感じの何かを体に入れられたんじゃないかしら?回復魔法が通らない箇所があるみたいで、完全に回復しないのよ」


何でも、以前こう言った症状を見た事があるらしい。

そのときは、聖女と呼ばれる冒険者……アイシャの知り合いらしいけど、その人が治療をしたんだって。アイシャも【魔法・回復大】が使えるんだけど、聖女さんはそれを上回る回復系のスキルを持ってるんだって。


「……うぅ、あんたらが助けてくれたのか……」


ああ、喋れる位には回復してるんだね。

……って、この人思い出したぞ!?クラン:従魔の輪廻(テイマーズリング)の人じゃないか!?テイルズって奴と一緒にうちのクランハウスに来た人だよ。


そういえば、あの時もわっふる達が『ちゅんすけのごしゅじん』って言ってたよ!

何だって、この人がこんな所で死にかけてるんだ!?


……いや、待てよ。ひょっとして、僕らより先行してたのって……

ギルド所属の冒険者じゃなくって、クラン:従魔の輪廻(テイマーズリング)なの!?


そうか、確かに【気配察知・大】で様子を探ったとき、魔物らしき気配が居た!

テイムしている魔物だと考えれば、おかしい事じゃない。


けど、どうして従魔の輪廻(テイマーズリング)が新規の迷宮(ダンジョン)を攻略してるんだ?国王様は僕たちにしか依頼を出していない筈なのに……。


取りあえず、この人から話を聞くしかないか。


「……えっとあなたは従魔の輪廻(テイマーズリング)の人ですよね?」


僕がそう尋ねると、ちゅんすけのご主人の人は力なく首を縦に動かした。

やはり、あの時の人で間違いないね。


「なんで、ここに居るんですか?それにあなたの仲間達はどこに居るんです?あなたが死にかけていたというのに、どこにもいないですよ?」


既に彼の仲間達が下層へと降りていった事は【気配察知・大】で確認している。

だけど、この人にこちらの手札を明かすわけにはいかないからね。

こうやって、知らないふりをしておくのは大事だよね。


「……あいつらなら、もうここには居ないだろうよ、俺の事を見捨てて先に進みやがった」


ちゅんすけのご主人は、憎々しげに、そう吐き捨てる。

ふむ、仲間割れでもしたんだろうか。あのテイルズって人の感じだと、それも十分あり得そうだけど……。


ちゅんすけのご主人、名前はカッポレって言うらしい。僕よりも年上の人なので本来なら敬意を持って接するべきなんだろうけど、やはりクランハウスでの一件が頭をよぎってしまうので、敢えて呼び捨てにする事にした。


カッポレに事情を聞いたところ、中々びっくりするような話を聞かせてくれたのだ。


お読み頂きありがとうございました。


※若かりし日の国王様視点のスピンオフを投稿しております。

不定期更新となりますが、宜しければこちらもお読み下さい。


http://ncode.syosetu.com/n2978du/


【ツイッター】

咲夜@小説家になろう:@ID73yQraHGjolTq


基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。

また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。


※今まで通り活動報告にも告知は致します。


今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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