第164話 新規の迷宮(7)
#新規の迷宮、地下2階
『わっふる、どう?何か感じる?』
B2階に来てすぐ、念のためと思って、わっふるにこの階層の魔力の状況を確認してもらう事にする。
『!!!わふぅ!まいん、まいん!まりょくをかんじるぞ!いっぱいかんじる!』
!!!!
3階層目にして、ようやく魔力を感じる事が出来た。
ひょっとしたら、ボスはまだ倒されていないかもしれないぞ!
『わっふる!ボス部屋の場所はわかる?』
僕の問いにわっふるは尻尾を大きくふって答えを返す。
わっふるも魔力を感じた事で、少しテンションが上がっているようだ。
『まかせろ!おれがぜったいにみつけるぞ!』
「……いよいよ、本番みたいだな」
シルフィが腰のライナス・スワードを触りながら、そう話しかけてくる。
後方をクゥと一緒に警戒していたアイシャも僕の隣までやってきて、笑顔を見せてくる。
なんとしても、ここで一気に追いついて見せるぞ!
普通の冒険者達ならば、ボス部屋の位置を僕らみたいにピンポイントで探し出す事が出来る筈はない。
ひょっとしたら、僕みたいに【気配察知・大】を持っている人がいるかもしれないけれど、このスキルではボス部屋までは見つける事が出来ないのは、僕自身が試して知っている。
わっふるのおかげで僕たちは遅れてはいても、絶対的に有利だと思う。
道中をうろつく魔物が仮に良いスキルを持っていたとしても、ひとまず無視だ。
追いついて、正体を見極めてから取りに戻っても問題は無いのだから。
まだまだ、時間的に夜はほど遠い筈。
一気にボス部屋までたどり着き、先行している人達を追い抜いてしまおう。
『まいん!みつけたぞ!こっちだ!』
『偉いぞ、わっふる!』
僕がそう声を掛けると、激しく尻尾を振って喜びを表現するわっふる。
うん、心の底から感謝してるよ!ありがとう、わっふる。
わっふるの先導で、僕たちは移動を開始した。
「マイン君!魔物よっ!」
アイシャが指さす方向を見ると、確かに魔物が群れを成していた。
……この階層の魔物は……蜂か!?この蜂も例によって真っ白だ。
名前:フェイスフルネス・ビー
LV:20
種族:昆虫族
性別:-
【スキル】
必中
【アビリティ】
毒針
麻痺針
……うん【必中】か。多分、言葉の通りのスキルなんだろうね。
使えそうなスキルだけど、移動中に集めるだけで十分じゃないかな?
【物理攻撃無効(5/5)】みたいに回数制限があれば、また後で取りに来こようかな?とは思うけど、回数制限もなさそうだし絶対に無ければいけないという訳でもない。
まずは、この群れの分は全部【カット】しておこう。……とは言っても蜂だからね、一群れで20匹位いるんだけどね……ふぅ。
……よし、OKだ。時間を少しでも短縮したいからね。魔法で一気に焼き払おう。
「僕が魔法で一気になぎ払ってしまうね!」
【範囲魔法・風極大】と【範囲魔法・火極大】を時間差で白蜂目がけて解き放つ。
激しい轟音を辺り一面にまき散らし、蜂の群れは燃え上がりながら、バラバラに砕け散っていく。
「よし、急ごう!」
蜂の残骸が全て落下し、死んでいるのを確認し、僕がそう言って走り出そうとするとアイシャが僕をジト目で見ながら、こう言った。
「……マイン君、やりすぎよ……」
うぅ……た、確かにレベル20の敵に極大の範囲魔法の連発は過剰だとは思うけど……。
時間を少しでも短縮する為には……。
「じ、時間が無かったし!仕方なくだよ!仕方なく!」
……一応、言い訳をしておこう。
「確かに、時間が無いのは分かるんだけどね……今の衝撃音で周りの魔物が集まってきたりしたら、かえって時間が掛かっちゃうわよ?」
た、確かにっ!?
「力の迷宮の時と今は状況が大分違うのだから気をつけようね?」
「……はい……」
今、アイシャは魔物が集まってくる事だけ注意してくれたけど、考えてみたら例の冒険者達にも後続がいる事に気がついてしまったかもしれない。
……もし気がつかれてしまっていたとしたら、これは僕のミスだ。
もっと慎重に行動しなきゃ、ダメだよね。うん、気をつけよう。
「……ありがとう、アイシャ」
アイシャにお礼を述べて、再びボス部屋を目指して進んでいく。
白蜂が何度か現れたけれど、今度は【補助魔法・睡眠】で眠らせてから、全員で切り捨てる戦闘に切り替えた。
これなら音は出ないし、レベル差が大きいから、うちのパーティなら一撃で倒せるし良い方法だと思う。
次々と襲ってくる蜂たちを眠らせては殲滅し、隣で寝ている蜂に標的を変えては殲滅し…これをドンドンと繰り返していく。……移動狩りとでも言えばいいのだろうか。
なんだかんだ言って相当数の蜂を倒し、スキルも大量に【カット】する事が出来た。
パーティ全員に既に貼り付けてあり、アビリティの【毒針】【麻痺針】もわっふるとクゥにちゃんと貼り付けてある。すぐに使用する事はまず無いだろうと思うけど、以前のブラックドラゴン戦の時みたいに想定外の状況に追い込まれて、使う必要が出た時に慌てる事になってはいけない。
『まいん、もうすぐぼすのへやだぞ!……けど、なんかだれかいるみたいだ』
……!間に合わなかったのか!あと少しだったのに!?
わっふるの言葉を聞いて、僕も【気配察知・大】を使用してわっふるが教えてくれた方角を確認してみる。
気配……これは魔力だろうか……大きくなったり、消滅したりしてる。
3人……4、5、6、7……14人?いや、なんだろうコレ……変な気配も感じるぞ?
人間の気配というより魔物の気配?ボスなのかな?……いや、ボスの気配は別に感じる。
一体、何が起こっているんだ?
……どちらにせよ、既にボス戦は始まってしまっているみたいだね。
「わっふるが言う通り、人間らしき団体がいるね……今、ボスと戦っているみたいだ」
「……そうか、間に合わなかったか」
シルフィが残念そうにそう口に出す。
「けど、良かったじゃんじゃない?魔人じゃない事がハッキリしたんだし!前向きに捉えましょう」
ああ、確かにアイシャの言う通りだ。
この気配は間違いなくヒューム族の物だと思う。
……ただ、さっきも感じた魔物のような気配も一緒というのが気になるんだよね。
この階層のボスは分裂でもするんだろうか?
取りあえず、ここで話をしていてもしょうが無い。どうせボス部屋についても戦闘中なら中に入る事は出来ないから、扉前で休憩になるんだ。考察はそこで行う事にしよう。
「……やはり、扉はロックしてるね」
僕はツカツカと扉の前に立ち、扉をぎゅっと押し込む。
現在、戦闘中ならば扉は開かない。だが、戦闘をしておらずボスが存在しているのなら扉は開くはずだ。
「どう?マイン君」
「うん、完全に閉まってる。今まさに中で戦っている所みたいだね」
「……仕方ないな、その辺で休憩でも取るか」
壁にもたれて座り込むと、わっふるが僕の膝の上に乗って、そのまま寝そべる。
基本的にボス部屋の前は安全地帯となっている。だからわっふるも安心して僕に甘えに来れるのだ。
隣を見てみると、お嫁さん二人の間をふよふよとクゥが行ったり来たりしている。
ああ、念話で会話をしているんだね。楽しそうな笑い声が聞こえるよ。
わっふるの喉元をゴロゴロと撫でながら、僕も力を抜いていく。
この奥にいるのは、間違いなく魔人では無くヒューム族だ。
先ほどまでの張り詰めていた体の節々がゆっくりと緩んでいくのが分かる。
適度の緊張はいいのだけど、やはり気持ちにゆとりはあった方がいいよね。
そのまま20分ほど経過しただろうか。
唐突にボス部屋の扉がギィィという音を立てて、開いていく。
ああ、ボス戦が終わったんだね。
本人達は既に下の階層に降りていったみたいだけど……。
「さて、追いかけようか」
僕がお尻をパンパンと払いつつ、ゆっくりと立ち上がる。
同じようにアイシャとシルフィも立ち上がり、僕の後をついてボス部屋へと足を踏み入れた。
「……こ、これは……一体!?」
………………………………………………………
名前:マイン・フォルトゥーナ
LV:63
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人
【スキル】
物理攻撃無効(5/5) New!
念話 New!
必中 New!
名前:アイシャ・フォルトゥーナ
種族:ヒューム
LV:43
性別:女
年齢:23歳
職業:弓術師
【スキル】
物理攻撃無効(5/5) New!
念話 New!
必中 New!
名前:シルフィード・フォルトゥーナ
種族:ヒューム
LV:69
性別:女
年齢:19歳
職業:姫騎士
【スキル】
物理攻撃無効(5/5) New!
念話 New!
必中 New!
名前:わっふる
LV:56
種族:神獣
性別:♂
状態:テイム中 (マイン)
【スキル】
物理攻撃無効(5/5) New!
念話 New!
必中 New!
【アビリティ】
毒針 New!
麻痺針 New!
名前:クゥ
LV:52
種族:神獣
性別:♀
状態:マインの妹(?)
【スキル】
物理攻撃無効(5/5) New!
念話 New!
必中 New!
【アビリティ】
毒針 New!
麻痺針 New!
お読み頂きありがとうございました。
※若かりし日の国王様視点のスピンオフを投稿しております。
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咲夜@小説家になろう:@ID73yQraHGjolTq
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
※今まで通り活動報告にも告知は致します。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。