第163話 新規の迷宮(6)
「どうかな?クゥと話は出来た?」
白ライオンの群れを殲滅し、お嫁さん達の元へと戻ってきた僕とわっふる。
見た感じ、クゥがパタパタと空中でくるくると嬉しそうに踊っているから、【念話】による会話は成功したのかな?
「ああ、ばっちりだ!今までも大事な家族として思ってきたが、やはり会話が出来ると言うのはいいな!よりクゥの事を身近に感じるな!」
シルフィが興奮して、僕にそう答えを返してくる。
まあ、シルフィの喜ぶ気持ちはよく分かる。クゥとシルフィは湯加減の好みが似ているという事でよく一緒にお風呂に入っている。
クゥがシルフィとアイシャ、どちらと仲が良いかと聞かれれば、間違いなくシルフィだろう。もっとも、アイシャとも決して仲が悪いわけでは無いのだが。
喋れない中でも普段から仲が良かったのだ、こうして話す事が出来たのだからそりゃ、嬉しいだろうと思う。
ただ、予想と違ったのは、クゥとシルフィ達の会話が僕には全く聞こえないという事だ。
勿論、僕は白ライオンから【カット】した【念話】を貼り付けてはいない。
だから、お嫁さん達の喋っている事が聞こえないのは理解出来る。
……だが、僕には【ケートスの加護】がある。
つまり、普段からクゥとは念話で話をしているんだ。同じ念話と言う事でひょっとしたらクゥが話している事だけでも聞こえるかも?なんて淡い期待を抱いていたんだけど、やはり考えが甘かったみたいだね。
取りあえず、これで【念話】と言うスキルが使い物になる事が分かったんだ。
少し多めにこれも確保した方がいいだろうね。
この迷宮を攻略したら入手出来なくなる可能性も十分にあるからね。
幸い、ライオン族という種族は白スライムのように単体でいる事が無い。
必ず群れで行動をする魔物なので、一度遭遇すれば今みたいに3~5個位は【カット】出来ると思う。昨日よりは時間が掛からない筈だ。
◆◇◆◇◆
「ふぅ、やっとボス部屋を見つけたよ」
アイシャの手書き地図が完成したタイミングでやっとB1層のボス部屋にたどり着いた。
……1階の時も地図の一番最後がボス部屋だったのだけど……ひょっとして僕たちってとても運が悪いのだろうか……。
それでもスキル集めに力を入れなかった分、昨日よりは随分早くたどり着いたと思う。
「……やはり、ボス部屋の扉は開いているのか……」
開ききった大扉を見ながら思わず呟いてしまう。
……やはり、これは魔人の仕業なのだろうか。
「ねえ、マイン君……私ふと思ったんだけど……これって本当に魔人がやっているのかな?」
僕と同じく開いた扉を見ながら、アイシャがそう口に出す。……急にどうしたんだろう?
確かに魔人以外……つまり冒険者である可能性は無いわけでは無いけれど……。
「ん?アイシャ、ひょっとして何か気がついたのか?」
シルフィがアイシャの口にした疑問を聞き、そう尋ねてくる。
「マイン君、姫様……もしも、もしもですよ?これが魔人の仕業だとしたら何で迷宮を下っていくんでしょうね?」
……ん、どういう事?階段が地下に向かってるんだから、下るのは当然じゃないのかな?
僕がそんな事を考えると、今度はシルフィが大きな声でアイシャの言葉を肯定する。
「……っ!!なるほど!アイシャの言う通りだ。確かにおかしい!」
んん??……一体、なんなんだろう?
……待てよ……下る……下るか……ああああああああっ!!!そうか、そういう事か!
そうだ、確かにおかしい!!これが魔人の仕業だと言うのなら下るのは確かに変だ!
……だって、迷宮は魔人がコアを設置して出来る物だ。
そして、コアを設置するのは……迷宮の一番奥!
つまり、上がってこなければならない!
となると、ボスを倒し、奥へと進んでいるのはやはり冒険者の可能性が高いという事だ。
……けど、一体誰なんだろう……?僕は冒険者ギルドに在籍していたのがたったの1日だから知り合いの冒険者なんていやしない。
敢えて言うなら、僕に絡んできたヒヨルドとライル位だろう。だけど、この二人は既に冒険者では無い。ここに居る訳がないのだ。
「……アイシャ、心当たりはあるかな?」
元冒険者ギルドの人気受付嬢のアイシャならば、顔は広い筈だ。
ひょっとしたら、心当たりも出てくるかもしれない。
「う~ん、ちょっと思いつかないなあ……冒険者の人達は基本的に粗暴で、単純な人が多いのだけど、基本的に結構計算高いからね。新規の迷宮に、私たちみたいな依頼でも無い限り、来るとは思えないんだけどなあ」
やっぱりそうかあ……。アイシャにも心当たりが無いのか。
そうなると目的を推測する事も難しいな。
誰が来ているかが分かれば、その辺も想像出来ると思うんだけどね。
「まあ、何にせよだ。可能性が無くなった訳ではないが、大分気持ち的には楽になったのではないか?魔人ならともかく、冒険者だとすればよほどの事が無い限り心配は無いだろう」
シルフィが言う通りではあるけれど……。
けど、だからといって油断してはいけないと思うんだよね。
……とはいえ、ボスを倒しながら、侵攻しているのが仮に冒険者だったとして彼らが僕たちと敵対するとは限らない。友好的に接してくる可能性だってあるのだ。
冒険者達がどのように僕らに接してくるのかわからない以上、実際に接触した際には、油断する事なくどちらの対応もすぐに出来るように心構えをしておくべきだろう。
……色々な制限があったとは言え、僕は一度、お義兄さんに負けている。
そして、王都で騎士団の人達と一緒に訓練をしたときに僕は大事な事を学んだんだ。
戦闘経験や勝負勘と言う物は場合によってスキルを超える力を発揮する可能性があるのだと言う事を。
だから、魔人では無く冒険者の可能性が高くなったとはいえ、油断する事なく攻略を進めていこうと思う。
「うん、そうだね。けど、気を抜かないで進もう。この迷宮が生まれたてなのは間違いが無いし、魔人がまだいるという可能性も無くなった訳じゃ無いからね。それに冒険者も油断していい相手じゃ無いから……」
結局、1階とB1階は道中を徘徊している魔物としか戦っていないが、次の階辺りで例の冒険者達と遭遇する可能性が高いと思う。
まずは、扉が開いたままになっているボス部屋に入り、中の様子を伺う事にする。
「……やはり、ボスはいないね。もし居たとしたらライオンの上位種だったのかな?」
ここのボスも明日以降の帰りに寄ってみてもいいかもしれないね。
なんとなく、良いアイテムを落とすような気がするよ。
全員で1階同様にボス部屋の石碑に触れておく。
1階の時同様、僕らが倒したわけではないので申し訳ない気がするよね。
さあ、いよいよ次はB2階だ。
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/03/05
・ルビを修正
・全般の誤字を修正。