第162話 新規の迷宮(5)
なかなか、進まなくてごめんなさい。
魔人との遭遇が現実的になってきた事で、僕らの進行速度は目に見えて遅くなるだろう。
強襲や不意打ちなどの危険も考えて移動しなければならない。
僕もそうだけど、全員の表情が引き締まる。
「……取りあえず、石碑を探そうか」
ボス部屋の奥まで進むと、他の迷宮と同様にボス部屋の奥に巨大な石碑があった。
この石碑を一度、触っておけば、同一迷宮内の石碑間を自在に移動が出来るようになるのだ。
自分達でボスを倒した訳では無いので、若干気が引けるのだが、せっかく目の前にあるのだからと、取りあえず全員が石碑に触っておく事にする。
僕がいれば【固有魔法・時空】で移動は出来るのだけど、万が一の事があるかもしれない。
こういった移動手段は多く用意しておくに越した事がないだろう。
どんなに余裕が有る時、代替の方法があるから必要が無いと思っても、こういった事を疎かにしてはいけないと思う。
「……全員、石碑に触ったね?じゃあ、次のフロアに進もうか」
全員がちゃんと触った事を確認して、僕らは次の階層へと移動を開始する。
……そう言えば、結局戦う事は出来なかったけれど、ここのボスはやっぱりスライムだったんだろうか。
基本的に迷宮のボスというのは、その階層を徘徊している魔物の上位種が出てくるのが一般的だ。
その例の通りだとすれば、1階のボス部屋には白スライムの上位種が居たのでは無いかと思う。
今までの例からボスのスキルやドロップ品は良い物が多かった。
しかも、白スライム自体が種族スキルとは言え、破格のスキルを持っていたんだ。正直……気になる所ではある。
今日の夜、自宅に戻る前に一度湧いて居ないかどうか、様子を見に来てもいいかもしれないね。
#新規の迷宮、地下1階
さて、地下1階に到着したのだけど……。
一体この階層では、何が待ち受けているのだろうか。……そしてどんな魔物がいるんだろう。
そう言えば力の迷宮同様、1階を徘徊していた魔物はスライムだけだった。
同じ構成という訳では無いだろうと思うけど、力の迷宮の2階はコブリンとオークだった。
……まさか、この迷宮も同じじゃないよね?
段階的に敵が強くなっていくというならば、確かにコブリンやオークは丁度良い強さなのだろうけど……。
まあ、いずれにせよ、さほど強い魔物が徘徊している訳では無いと思う。
『わっふる、この階層はどう?魔力を感じる?』
『……わふぅ、だめだぞ。やっぱりかんじない』
そうか……1階で話題に出たけれど、ボスが倒された事で、迷宮に魔力が無いんじゃないかという仮説。
無論、辺りを徘徊している魔物の魔力が無い事から信憑性は余りないのだが、もしこの仮説が正しかったとしたら……。
B1階のボスも何者かが倒した後、という事になる。
そして、心配の種だった僕たちのそばを魔人がウロウロしているかもしれないという仮説は外れる事になる。
ボスを倒したと言う事は既にB2階に降りている筈だからね。
「……これは一体、どうなってるんだろうね」
思わず口に出た僕の独り言を聞き、アイシャが僕の肩を軽くたたく。
「焦っちゃ駄目よ、マイン君。最後まで辿り着ければきっと色々分かると思うわ。今は焦って行動をしてミスをしないように気を付けなきゃね」
「アイシャの言う通りだ、旦那様。慌てずしっかりと進もう。大丈夫だ、私達もいる」
……そうだね。確かに二人が言う通りだ。
魔人と聞いて、少し神経質になっていたのかもしれないね。
そもそも、まだ魔人がいると決まったわけでは無いんだ。あくまでも可能性がある、それだけなんだ。
普通の冒険者が来ている可能性だってある、寧ろ、その確率の方が高いんじゃないかな。
『まいん、おれもついているぞ、あんしんしろ』
『きゅきゅ!そうですよ!おにいさま!』
今度はわっふるとクゥが声を掛けてくれる。
うん、以前みたいに僕は一人じゃない。こんなに頼りになる家族がいるんだ。
しっかりしろ!マイン!
「ありがとう、みんな……」
パーティ全員から声を掛けられ、自分の心を叱咤し、なんとか気持ちも落ち着いたみたいだ。
気を取り直して、B1層の探索を開始する。
この階層も1F同様、アイシャがマッピングを行いながら、ボス部屋を目指す事にする。
道中の魔物がどんなスキルを持っているかで、対応は変わる可能性はあるのだけど……。
……む、魔物の群れだ……。
名前:フェイスフルネス・ライオン
LV:16
種族:獅子族
性別:♂
【スキル】
豪腕・極
連携・念話<近>
【アビリティ】
噛みつき
……白いライオンだ。まさか迷宮の中にこんなのがいるなんて全く予想も出来なかったよ。
見た目は凶暴そのものなんだけど、スキル構成は思ったより……えっ!?なんだ!?
【連携・念話<近>】:同じスキルを持っている者同士で念話が可能となる。但し、半径3m圏内限定。
このスキルも白スライムに負けない位、破格だね……。
使用範囲こそ、随分狭いけど【神獣の加護】【神獣の契約】と同じ事が出来るんだから……。
「ん、旦那様?どうしたのだ?」
白ライオンのスキルを見て、惚けている僕を見て、シルフィが声を掛けてくる。
「……いや、あの白いライオンのスキルを見て、ちょっとびっくりしちゃってね」
「どんなスキルなの?」
今度はアイシャだ。
「【連携・念話<近>】って言うスキル……なんだけど」
「「ね、念話だって!?(ですって!?)」」
二人とも、随分綺麗にハモったね。まあ、驚くよね……普通。
「……念話って、フェンリル様の加護や契約と同じ奴なの?」
「多分……ちょっと待ってね。今切り取るから」
白いライオンは全部で4匹いる。すぐにスキルは4人分手に入るので実験は可能だ。
ちなみに、後でお義兄さんから聞いたのだが、このライオン族という種族。
【念話】というスキルを持っていたのは、どうも必然だったみたいだ。
そもそも、ライオン族は一匹で行動する事が無い。必ず何匹かで集まって行動をしているそうだ。
ライオン族の集団は、雄が1匹に対し、残りは必ず雌で構成されており、俗に言うハーレム状態を素で構築する種族なんだそうだ。
そして、狩りをするのは基本、雌で雄は基本的には戦う事は無い。
狩り自体も決して単体で戦う事は無く、必ず複数で単体の獲物を狙う形を取っている。
つまり、雌同士が連携して戦うのが日常茶飯事と言う事だ。
そんな中、連携をよりスムーズに行う為に、このスキルが有効に使われているみたいなんだ。だから、お義兄さんは僕からこの話を聞いたとき、妙に納得していたんだよね。
「……はい、シルフィとアイシャ、そしてクゥとわっふるに貼り付けたよ」
僕以外のメンバーに貼り付けをしてみた。
特にクゥは僕とわっふるとしか、会話をする事が出来ない。
このスキルを使えば、ケートス様の加護が無くてもクゥは僕のお嫁さん達と会話が出来るかもしれない。
「僕とわっふるで。、あのライオンは倒してくるから、クゥと会話出来るか確認してみて」
僕はそう言い残し、わっふると一緒にライオンの群れへと突撃する。
『わふふっ!!!』
わっふるも妙に張り切ってるみたい。ひょっとしたらライオンは同じ四足歩行だから、対抗心を持ってるのかもしれないね。
走りながら、ライオンの群れ目がけて【王の威圧】を発動し、4匹のライオン全ての動きを封じてしまう。
そしてわっふるが先行して、ライオン達に【神獣の双撃】を叩き込んでいく。
僕も負けじと【豪腕・聖】【腕力強化・極】を使用して、身動きが取れなくなったライオンを切り伏せる。先に飛び込んだわっふるが3匹、僕が1匹あっさりと倒し、戦闘は終了した。
さて【念話】はうまく使えたのかな?
僕とわっふるは、ゆっくりとみんなの元へ戻っていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
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今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/19
・念話スキルの内容を修正。