第16話 初依頼、最弱の魔物スライム
朝、まだ明るくなっていない時間に目が覚めた僕は装備を整え、いつもの森へと狩りに向かった。
今日は初依頼を受ける予定なので、先に昨日買った新しいナイフの調子を見たかったからだ。
芋虫や羊と遭遇したが、熟練度を上げる為にまずは風魔法のみで仕留めていく。
何匹か芋虫達を倒した後、ようやくオークと遭遇する事が出来た。
「さて、新しい武器はどんなもんかな……」
そう呟きながら構え、まずは初手で獲物であるオークからスキルを奪い取る。
既に持っているスキルばかりなので、適当に地面に貼り付け捨てておく。
そして【豪腕】【脚力強化・小】を自分に掛け、【補助魔法・速度低下】【補助魔法・睡眠】をオークに掛ける事で戦闘を開始する。
この前もそうだったが、どうも【補助魔法・睡眠】は効きづらいように感じる。
今回もレジストされてしまったのか、効果を得る事が出来なかった。
オークよりも弱いモンスターならもっと効果が出るのかな?
それとも熟練度を上げればもう少し効くようになるのだろうか。
【補助魔法・速度低下】の方はどうにか効いたみたいで、オークの動作が目に見えて鈍くなった。
その様子を確認し、オーク目がけて僕は走り出した。
「なんかこの前よりも体の動きが良く感じるよ、これがレベルが上がった効果なのかな?」
そんな事を考えながら、オークの足下目がけ【魔法・風】を打ち込む。
動きが鈍くなっているオークに【魔法・風】を避ける事など出来ず、そのまま直撃した。
足が切り刻まれた事で、足を大きくもつれさせ前方へと激しく転倒する。
僕はうつ伏せに倒れているオークにもう一発【魔法・風】を打ち込んだ。
『ブゥォォォォォォッ!!!』
悲鳴を上げ痛みに苦しみもがいている隙に、新しく手に入れた鋼鉄の短剣をヤツの右腕目がけて斬りつけた。
「……え?」
先日感じた肉を断つ抵抗感、それを全く感じ無いまま、オークの右腕が切断され地面へ転がり落ちた。
そして、そのまま真横に短剣を滑らせると、やはり全くの抵抗感を感じないままオークの頭を横半分に切り落としてしまった。
頭蓋骨の抵抗を全く感じないまま、切断した事に僕は驚きを隠せない。
「なんだ、この切れ味は……おじさんが保証するって言う訳だよ」
勿論【豪腕】を使っていた事も大きく影響はしているだろうと思う。
だけど、余りにもこの前の戦闘で感じた肉を切り裂く感触と今回とでは違いすぎる。
元々オークは体皮が非常に堅く、刃物を中々通さない。それを文字通りあっという間に切り裂いてしまった。
この短剣があれば、おじさんが言っていたようにこれからの戦闘で随分楽になる事は間違いないようだ。
おじさんに心から感謝をしつつ、たった今倒したオークを【カット】で解体し、収納袋へ放り込む。
そろそろ明るくなってきたので、ギルドに行ってもいいかもしれないな。
そう思い、家へと一度帰る事にした。
勿論【俊足(小)】【脚力強化・小】を使う事を忘れない。
こうやって少しでも熟練度を伸ばさないとね。
当然の事ながら道中の木や草も【鑑定・全】をじゃんじゃん使いまくりながら移動する。
こうして、朝の狩りは無事に終了となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おはようございます!」
早速、専属受付嬢用のカウンターに行き、ギルドカードを差し込んだ。
すると昨日の説明にあった通り、すぐにアイシャさんがやってくる。
「おはようマイン君。……あら装備新しくしたのね?中々格好良いじゃない。ブラックウルフの革かな?その鎧」
アイシャさんに格好いいと言われ、思わず顔を赤らめてしまう。
この鎧の素材を一見で当ててしまうし、アイシャさんはやっぱり凄い人なんだなあ。
「今日から依頼を受けていくのよね?まずはバンバン依頼をこなしてE級にランクアップしちゃおう」
そう言って、三枚の依頼書を僕に見せてくれた。
「専属の権限でこの三枚をマイン君用に押さえたわ、今から説明するから聞いてもらえるかな?」
僕の為にアイシャさんが探してくれた依頼だ、説明を聞かなくても受けるのは確定だけど、しっかり聞いてちゃんと怪我せず、無事に此処に戻ってこれるように頑張ろう。
アイシャさんが先ず見せてくれたのは、意外な事に「スライムの討伐」だった。
スライムと言えば、最弱の魔物として有名で戦闘の心得が無くても慎重に戦えば倒す事が出来る。
いくら僕が成人したばかりで、F級とはいえ、スライムを相手にする理由が分からなかった。
「スライム……ですか?」
僕が困った顔をしているのが分かったんだろう、アイシャさんはくすっと笑って理由を説明してきた。
「実はね、スライムオイルがルナワンの町で生活に影響が出るほどに枯渇しているのよ、このままの状態が進むと間違いなく大変な事になるの」
スライムオイルは家庭で使われてる照明や迷宮に潜る冒険者達のランタン等に使われる燃料だ。
養殖のスライムという人間が素材を取る為に飼われているスライムまで、存在している。
町の維持には欠かせない燃料、それがスライムオイルというわけだ。
そんな人々が生きる上で大事な物が、ここからかなり遠い所にあるルナワンの町で枯渇状態になっているらしい。
なんでも馬鹿な盗賊がルナワンの町に盗みに入った時、火を掛けて脱出をしたらしいんだ。
運悪く、その火を付けた場所の直ぐ側にスライムオイルの貯蔵庫があって、それが一気に燃えてしまった。
更に燃え広がった方向が悪く、養殖していたスライム達まで燃やし尽くしてしまったらしい。
備蓄していたオイルも勿論あったのだが、当然時間がたてば消費してしまう。
そこでルナワンの町長はギルドに救援の為の依頼を立てた、という事らしい。
「スライム自体は、知っての通り最弱の魔物だから狩った所でお金にもならないし、ギルドへの貢献としても評価はされないわ。だけど、今はこの状況だからお金は大して出ないけどギルドへの貢献ポイントが馬鹿にならないだけつくの。供給が落ち着くまでの間だけど……」
そういうとアイシャさんはここまで言えば分かるでしょ?とニコッと笑う。
なるほど、確かに美味しいかもしれない。
「けど、そんな不味い状況なのに、この依頼を専属として持って来ちゃって良かったの?」
「いい所に気が付いたわね、実はこの依頼を囲えるのは今日だけよ。正式公表は明日からの予定の依頼なのよ、専属だけ先に受ける事が出来るって訳なの」
更にアイシャさんに詳しく聞いてみた。
「取り敢えずルナワンには各町から少しずつオイルを融通して、当座の危険は回避出来ているの。だから安心して良いわよ」
うん、なるほど。
確かにそれならば、いいかもしれない。
専属である僕等が囲ってしまい、十分な量が集まらなかったら大変な事になっちゃう。
勿論、沢山取れるように頑張るけど、どうしても僕一人では限界がある。
「わかりました!是非それを受けさせて下さい!!」
「分かったわ!それから後二枚の依頼だけど……」
そう言って、残りの二枚の内容を教えてくれた。
・薬草の採取 20本 銅貨50枚
・ゴブリンの討伐 5体 銀貨2枚(以後、5体毎に銀貨5枚)
この二つだった。
アイシャさん曰く、スライムを倒しながら同時に行える依頼なので、受けておくと効率がいいとの事だ。
最終的にアイシャさんの提案通り、三つの依頼を受ける事にした。
そして、依頼を達成すべくルーカスの町から北方の森に向かって出発するのだった。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。