第157話 クランのあれこれ
おかしな横槍があった物の、何とか無事にクランハウスの完成式典は終わり、ハウスの周辺も落ち着いてきた様子を見せている。元々、町外れに位置する場所に建っている建物だ。
今回のような式典が無ければ、閑散とした物である。
「……ふう、やっと落ち着いたよね」
そんなハウス周辺の様子を眺めていると、思わずそんなつぶやきが僕の口から出てくる。
想定外の出来事というのは、いつでも当たり前のように起こる訳で……。
そんな出来事を経験すると、やはり肉体よりも精神の方に疲れが出てきてしまう。
しかし、疲れたなんて言ってられないよ。本格的にクランの活動が始まる訳だからきちんと明日からの活動の打ち合わせや、クランハウス運営に関する打ち合わせが必要になってくる。それに、エイミさんとメリッサさんが今日からこっちに寝泊まりをする事になる訳だしね。
ああ、そうそうその前にクランハウスを軽く紹介しなきゃ駄目だよね。
このクランハウスは3階建ての建物だ。計画当初は2階建ての予定だったのだけど、エルフであるエイミさんを預かる事になったので、急遽3階建てに変更する事になったのだ。
幸いな事にこの話が出た際には、まだ整地しか行われておらず、基礎工事も行われていなかった。そのおかげでスムーズに計画変更をする事が出来たのは正直ありがたかった。
もしあの時にすでに基礎工事に取りかかっていたら、きっと今日の式典はまだ行われていなかった事だろうね。
ただ、階層が増えた事で建築に関わってくれた皆さんには大きな負担を掛けてしまったと思う。頑張ってくれた親方や工房の皆さんには本当に大感謝!だよね。
王家から派遣されてきた魔法建築士の人達も含めて、今度何かお礼をしたいなあ。
親方達はお酒がいいのかな?お風呂を作ってくれた時もお酒で大喜びしてたしね。
……まあ、今度、みんなと相談してみるのがいいかな?
そんな訳でまず1階なんだけど……1階はこのクランハウスのある意味で心臓部と言えるかな?依頼を受付するためのカウンターを3つ。そして、依頼者の人達や身内での打ち合わせを行う為の会議室を3つ設けている。これに併せて騎士団の待機部屋も2つ用意した。
あと、結構大きめの食堂を用意してある。
一般人の使用は現時点では無理だけど、王家の方々や依頼をしてきた貴族の方が手軽に食事が出来る空間になればいいなあと思っている。
そして、2階は貴族としてのフォルトゥーナ家の執務室や応接室、来客用の待機部屋などが用意されている。僕は最後まで要らないと言ったんだけど、シルフィとアイシャに説得されて、僕の部屋まで用意されている。
何でも当主としての部屋くらい持っていないと、他家の者になめられてしまうらしい。
3階はクラン関係者の寄宿舎だ。エイミさんやメリッサさんがここで生活を行う事になる。
この階にはある意味で、このクランハウスの施設で一番の目玉と呼べる物が設置されている。……そう、大きなお風呂である。なんと我が家のお風呂よりも10倍ほどの規模となっていて、最初からわっふる考案の温度がいつまでも下がらない仕組みを導入している。
しかも今回は最初からわっふるシステムを考慮して設計した風呂である。
わっふるシステムの場合、常に排水が必要になるわけだが、【常時:熱】を大量に貼り付けた筒を通過させる事で排水を気化させ大量の水を処理する事に成功している。
ちなみに所帯を持っているフランツ団長やガンツさんは、クランハウスのすぐ近くに一軒家を国から建てて貰っているので、寄宿舎では無くそちらで暮らす事になっている。
ただ、このお風呂の存在を話したところ、二人とも毎日家族を連れて入りに行く事が決まっている。なお、イクサー兄妹はフランツ団長の家の2階を借りて住む事になったそうだ。
「さて、いよいよこれでクランとしての活動が本格的に始まる事になる」
シルフィが会議室に集まったメンバー全員を見回して、そう話し始める。
元々、このクランはシルフィの提案から始まった物だ。そんな事もあってか進行役を自ら申し出てくれたのだ。
「まず、最初に決めなければいけない事だが……」
そう言って、ちらっとアイシャを見てから受付業務の確認を始める。
基本的にクランの受付窓口は前述の通り3つ用意している。
従来のクラン同様、一般人からの依頼はほとんど無い筈なので、本来ならば1つあれば十分回るだろうと思われる。
しかし、王家と非常に近い関係にある事から、より身分が高い者が依頼に来る可能性もあると言う事で、予備の窓口を用意する事になったという訳だ。
もっともこれが一般依頼人が多く集まる冒険者ギルドなら受付窓口は倍は必要なのだろうが……。
そして3つの窓口の内訳はこんな感じだ。
まず、メインとなる窓口をイクサー兄妹が交代で担当する。
彼らは人当たりも良く、見た目も清潔感がある。元貴族という事で教養面でも心配が無い。
まさに、窓口にはぴったりな人材なのだ。
そして、メイン窓口が対応中の際に他の依頼人が来た場合は兄妹であいている者が別のカウンターを使い担当をする事になる。基本的にこの窓口についてはメインの窓口が塞がっている時のみ稼働する予定となっている。
そして、最後の窓口はエイミさんとアイシャの兼用窓口となる。
この窓口については少し特殊で、秘密裏の依頼が来た際に開く受付となる。
そのため、受付カウンターは存在しない。代わりに専用の部屋を用意しているのでそこを使用する事になるのだ。エイミさんを人目から極力避ける事が出来るし、依頼人の秘密も守られるという訳だ。ちなみにアイシャも予定が無くあいている時はこちらの秘密カウンターを担当してもらう事になっている。
アイシャは元々冒険者ギルドのやり手の受付嬢だからね。手が空いたら私も手伝うわと名乗り出てくれたのだ。エイミさんも最初は不慣れだろうし、アイシャから色々学ぶ事が出来るんじゃないかな?
「……さて、受付についてはこんな感じか、次は明日からの行動だが、これは旦那様から話して貰おう」
シルフィから、そう指名され僕が立ち上がって予定を説明していく。
「えっと……まずはすでに王家から依頼されている件が一つあるのでそれをやろうと思います」
クランハウスが出来る前に、シルフィが王様から貰ってきた依頼が一つある。
王都の西(ルーカスは東)に馬車で一日ほど進んだ場所に突如として、迷宮が出現したらしい。迷宮という奴は新しければ、新しいほど階層が少なくて攻略が楽になるらしいのだ。
力の迷宮があるアドルのように迷宮自体と共存し、繁栄の道を選ぶという選択もあるのだが、如何せん今回の迷宮はあまりにも王都に近すぎる。国の中枢を担う王都に何かあったら大問題だ。そのため、国王様は迷宮の攻略という選択を取ったわけだ。
つまり、僕たちのクランが受けた依頼こそ、この迷宮の攻略という事になる。
こうして、いよいよ僕らは王家から依頼のあった迷宮の攻略を開始する事になるのだった。
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