第156話 因縁がゆえに
「申し訳ありませんが、あなた達と話す事など何もありません。さっさとお帰り下さい。
これで帰らないと言うのならば、非常に残念ですが力ずくで出て行っていただきますよ」
立ち上がり、テイルズに向かって僕がそう宣言すると、はじめてニヤニヤした笑みを消して、真顔で返事を返してくる。
「ほぉ、てめえ分かってんのか?俺に何か危害を加えたら、クラン対クランの問題になるんだぜ?それに何だ?成人したての餓鬼が偉そうに俺に何を言ってやがる?おめえは大人しくそこの二匹を俺に渡しゃあいいんだよ」
「やっぱり、馬鹿なんですか?話す事は無いと言ったでしょう?言葉も理解できないとはどちらが餓鬼なんでしょうね?ハハハ」
頭にきていた事もあって、自分でもびっくりするぐらいに挑発の言葉が口からすらっと出てくる。
『……まいん、きをつけろ……めにみえないけど、あいつのすぐそばに、おおきなまりょくのかたまりが、うかんでいるぞ』
わっふるがテイルズの上空を睨みつけ、うなり声を上げ始める。クゥもその何か(・・・)に気がついているのだろう、臨戦態勢を取っているのが分かる。
「ほう、中々優秀そうな狼だな……ふむ、そのピンクも気がついているか。ますます気に入ったぞ」
わっふる達の反応、そしてテイルズの反応を見たシルフィが何かに気がついたようで、僕に耳打ちをしてきた。
「旦那様、気をつけてくれ。わっふるとクゥが見つけたのは……恐らく奴が数多く使役する従魔の中の一つ……“闇の精霊”だ。ちっ、よりによって厄介な物を連れ込んでくれたものだ」
な、なんだって!?精霊を使役してるだって!?精霊といえば、神獣ほどでは無いけど、この世界の理外の存在だよ?そんなものをどうやったら使役できるっていうんだ!
そもそも精霊はこの世界に魔力を巡らす役割を神様から授かったという種族の筈だ。
神獣と比べれば格は相当落ちはするが、間違いなく神の眷属の一種なのだ。
普段姿を見る事ができないという部分においては、神獣も精霊も同じである。
だが、神獣はこの世界に10体しか存在しないが、精霊はそれこそ山ほど存在する。
“姿を見る事ができない”という言葉の意味合いもこの二つの種族では違っている。
神獣は姿を自ら「見せない」ようにしている為、僕のような例外は除いて基本的にはその姿を人類は見る事はできないのだ。対して、精霊は見えないだけで、実はその辺りを見回せば何処にでも存在する。それはそうだろう魔力をこの世界のいたるところへと運ぶのが彼らの主な仕事なのだから、周りにいない訳がないのである。では、何故その姿を見る事ができないのか。元々、内包する魔力が低いと言われる種族にはその姿が「見えない」のである。ヒューム族も例に漏れず、元々内包している魔力が少ない。ゆえにその姿を見る事ができるのは、ほんの一握りの者だけなのだ。
また、シルフィが言っていたように精霊という存在は敵に回すと非常に厄介である。何が厄介かと言うと、彼らには実体が無いのだ。彼らの体は高密度の魔力の塊で出来ている。
つまり、物理攻撃は効かないという事に他ならない。
……本来精霊という存在は人と敵対するという事は、よほどの事が無い限りあり得ない筈なんだけど。今回ばかりはそのよほどの事に該当してしまいそうだ……。
『わふ……おれ、せいれいとはたたかえないぞ……』
『きゅぅ~、わたしもです~』
わっふるとクゥも精霊と聞いて戸惑っているみたいだ。
本来は神獣と精霊は神様の意思の下、この世界の安寧の為に協力しあう仲間のような物だ。
それ故にこうして、敵対する事に戸惑いを覚えても仕方ないだろう。
「……仕方あるまい、ここまでの横暴を許す訳にはいかん。とっ捕まえて父上に引き渡してやろう、クラン解体も覚悟するのだな……テイルズ」
シルフィも立ち上がり、僕の横に並び立つ。そしてライナス・スワードを鞘から抜き放つ。
すると、テイルズは今までのふざけた態度が嘘のような真面目な表情となり、いかにも渋々とこう言い放った。
「……仕方ねえ、潮時か……まあ、いいだろう。おい、マインとか言ったな?今日のところはこれで引いてやろう。だが、その二匹を俺たちは必ず手に入れてみせるぜ、覚えておけ」
流石に、元王女からクランの解体をちらつかされれば、引くんだね。
捨て台詞を残して、テイルズとちゅんすけご主人?はクランハウスから出て行ったのだ。
だけど、本当に何を考えているんだ?王家とうちのクランが繋がっている事は式典でも分かっただろうに……。
テイルズ達の姿が完全に見えなくなり、クランハウスの中の空気がようやく元の穏やかな物へと戻っていく。
「……ふう、行ったか。戦闘になったらかなり厄介だったからな」
シルフィがライナス・スワードを仕舞いながら、そうつぶやくとフランツ団長も大きく頷きながら同意する。
「ええ、あいつが使役する精霊は闇の精霊です。通常攻撃が効かないも問題ですが、一番の問題は闇の精霊が人の精神に作用する力を持っている事でしょう」
精神へ作用する力?一体どんな力なんだろう。それに精霊の姿って見えないんじゃないの?聞いてみよう。
「“”精神へ作用”って、具体的にどんな力なんですか?……それから精霊って見えないんじゃないの?」
僕がそう問いかけると、アイシャが答えてくれる。
「精霊は戦闘時になると、その姿を見せるのよ。何でなのかはよく分かっていないけど……」
なるほど、ずっと姿を見せない方が有利な筈なのに、わざわざ姿を見せる意味が分からないよね。
そして、次はフランツ団長が答える。
「そうですね、簡単に言えば隷属の首輪の劣化能力とでも言いますか。継続性はありませんが対象相手の精神に働きかけをして、ある程度までは意のままにできるようです」
「ある程度?」
「はい、例えば死ねとか誰かを殺せとか、対象者の生命を脅かしたり、対象者にとって禁忌とされる行動などは無理みたいですね」
ふむ、という事は「そこで転べ」とか「それを俺によこせ」とかは大丈夫なのかな?
ひょっとしたら、その力を使って僕にわっふるとクゥを譲れと命令するつもりだったのかもしれないね。
……これは対策を講じておく必要があるね。
「取りあえず、私の方から父上にクランとして抗議を申し立てておこう。
このような勝手を行うのならば、本当にクランの解体を行う必要がある」
◆◇◆◇◆
「ち、下手うったぜ……あそこにフランツの野郎がいたのがまずかった」
「テイルズさん、そのフランツって奴と何かあったんですか?」
俺のつぶやきが聞こえたのだろう、隣にいた「従魔の輪廻」に最近入ってきたばかりの新人、カッポレがそう問いかけてきた。
「あの野郎には、何度も痛い目にあわされているからな……つい、絡んじまったわけだ」
そう、あの野郎は歩く正義感の塊だ。
俺とは正反対の考え方を持ち、地位を持つあの野郎は、俺が何か行う度に王都からの査察だかなんだかで邪魔をしてきやがる。
そんなクソ野郎が騎士団長を首になって、田舎に左遷になったと言うじゃないか。
久々のグッドニュースだ、このニュースを聞いた途端、胸がすぅーっとしたね。
そのフランツの野郎が……左遷になったばかりのクソ野郎が目の前に居たんだ。
つい、興が乗ってしまい絡んじまっても仕方ねえ事だ。
……だが、今回だけはまずかった。
引くに引けなくなっちまったところで、シルフィードが介入してくれたのはありがたかったが……。あの堅物のシルフィードの事だ、下手すりゃ王家から何かしらのお咎めをもらっちまうかもしれねえ。何かしらの手を考えておく必要がありそうだな。
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/03/04
・全般の誤字を修正。