第155話 テイルズと言う男
「すまないが、今日はまだクランとしての活動は行わないんだ」
騎士団のメリッサさんが、入ってきた男達にそう声を掛ける。
『『わふっ!(きゅきゅっ!)あいつは!!』』
ん?二人はあの男達と知り合いなのかな??少なくとも僕は知らない人達だから、この前二人で森に行ったときに知り合ったんだろうか。
わっふるもクゥも基本的には、いつも僕か家族の誰かと一緒に居るから、僕らが知らない人物と接触したとすれば、この前のタイミングしか無いはずだよね。
『二人ともあの人たちを知ってるの?』
『さいしょに、はいってきたやつは、おれたちしらないぞー』
『あとから、きたのは、ちゅんすけのごしゅじんです、きゅっ』
ちゅんすけ?ご主人?一体何を言ってるのかさっぱり分からないよ……。
それにしたって、ここに何しに来たんだろう?一応、クランハウスの周辺は招待客しか近寄れない筈なんだけどなあ。
「悪いが、ちょっくらこのクランに用事があってな……邪魔するぜ」
メリッサさんの制止を無視して、ズカズカと僕たちが座っている場所へと歩いてくる。
……メリッサさんも招待客の可能性があるから強い態度には出られないみたいだね。相手の正体が分からない以上、力ずくで追い出す訳にはいかないようだ。
「……ん?」
「あら?」
不意にシルフィとアイシャがその男の顔を見て、声を上げる。おや?二人はこの人を知っているのだろうか?……だが、その男の正体は僕のお嫁さん二人では無く、フランツ団長によって明かされる事となった。
「おや、どうされましたか?クラン:従魔の輪廻のテイルズ殿、何かご用ですかな?」
…… 「従魔の輪廻」ああ、そうか。三大クランの中でも変わり種で有名なクランだっけ。
なんでも珍しい魔物をテイムし、集めているんだっけ?
今日は確かに三大クランの代表者が招かれている。
クラン:錬金術図書館の代表、ルイス殿下。「クラン:舞い上がる砂塵」のカシューさん。
そして、従魔の輪廻の代表がこの人なのか……。なんか、僕の苦手なタイプのような気がするよ……。
「ほう、第一騎士団のフランツ団長じゃねえか、あんたも災難だったな?王都からこんな片田舎に左遷されちまってよ」
テイルズと呼ばれた男は、ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような態度でフランツ団長に話しかける。そして、その言葉を聞きフランツ団長の右の眉がピクっと動いた。
「相変わらずのご様子ですね……で、私の問いに答えてはくれないのですかね?」
……ああ、怒ってる……怒ってるよフランツ団長……。普段、温和な人が怒ると本当に怖いよね……。この人もなんて失礼な物言いをするんだろう、フランツ団長は決して左遷なんかじゃない。エルフであるエイミさんの護衛という重要任務を国王様から直々に与えられてここに来たんだ。これは国王様からの深い信頼が無ければ、絶対に来ない任務だ。
端から見れば、確かにそう取られてしまう事もあるだろう。だけど冷静に考える事ができる人ならば、そうじゃない事が分かるだろう。この国の次期国王であるお義兄さんとその弟であるルイス殿下がわざわざ時間を取って挨拶に来るほどの場所なのだ。左遷の筈がない。そんな事も分からない人物なのか、それとも挑発のための言葉なのか……。
それに……確かにここ……ルーカスの町は王都から見れば片田舎だ。それは否定しないよ。
けど、僕は自信を持っていえる。決してこの町は左遷の対象と呼ばれるような町なんかじゃない。
町中の人達が優しさに溢れる素晴らしい町なんだ!それに、お父さんが……お母さんが命を賭して守った町、僕を今日まで育ててくれた町なんだ。この男はフランツ団長だけでなく、そんなルーカスの町をも馬鹿にした。僕は絶対にこの男を許す事はできないし、仲良くする事もできないだろうと思う。
「へへへ、そんなにカリカリすんじゃねーよ。いいじゃねえか、左遷ぐらいされたってよぉ。首になったわけじゃねえんだろ?それとも何だ?うちのクランで雇ってやろうか?もっともテイムができねえあんたじゃ、任せられる仕事はお茶くみくらいだがな、うひゃひゃひゃ」
……どこまでも失礼な奴だな。なんでこんなのがクランの代表をやってるんだ?
確か、クランって国から審査をされて設立できるんだったよね。
「人様のクランに来て、言いたい放題か?しばらく見ないうちに随分といい身分になったものだな……テイルズよ……貴様一体ここに何をしに来た?」
テイルズのあまりの素行の悪さに、シルフィがとうとう切れたようだ。
普段見せない殺気だった様子で、テイルズに話しかける。
「おお!麗しのシルフィード様ではありませんか!聞きましたぞ!ご結婚をなされたとか……私という者がおりながら、何という事なのか!分かっております!そう、分かっておりますとも!!何か弱みを握られたのですね!もう大丈夫ですぞ!この私がきましたからね!」
……何なんだ、コイツ……会話が成立してないし、口調までてんでバラバラだ。
それに何だと!僕との結婚の事まである事、ない事言いまくってるじゃないか。
……フランツ団長の質問にも、シルフィの問いにも答えずに自分の言いたい事しか話さない。コイツ本当、何しにきたんだ?
「私の問いにも答えず、シルフィード様の問いにも答えないか。これ以上、居座るというのならば、不審人物としてつまみ出させてもらうぞ」
フランツ団長が腰の剣に手を掛けながら、テイルズに警告を発する。
だが、それでもテイルズは涼しい顔でニヤニヤと笑っている。
「……テイルズさん、あれです。あの狼とピンク色のふよふよと浮いている奴ですよ」
もう一人の来訪者の男(さっきクゥが“ちゅんすけのご主人”と呼んでいた男だ)男がわっふるとクゥを指さしてテイルズに耳打ちをする。
すると、嫌らしそうな笑みを浮かべて、指された先に居るわっふるとクゥに目を向ける。
「おう、このクランに珍しい魔物がテイムされてるんだってな?俺たち従魔の輪廻が高値で買い取ってやるからよ、喜ぶんだな」
……なるほど、目的はわっふるとクゥなのか。珍しい魔物を集めるのが目的のクランって言ってたもんな。わっふるとクゥが神獣だなんて分からないだろうけど……。
「何をふざけた事を言ってるんですか?あなた達は“馬鹿”なんですか?」
流石に僕も切れたよ。大事な家族を金銭でやりとりをする物扱いするなんて!
「あん?……おお?てめえがここの責任者のマインって奴か」
……どうやら、またも厄介な事になりそうだ。
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