第154話 クランハウス完成式典(3)
「ふう、これで一通りの顔合わせは終わったかなあ……」
新しく紹介された面々とのやりとりが一段落ついた辺りで、アイシャとエイミさんがわっふるとクゥを連れて僕たちの元にやってきた。
「これで「永久なる向日葵」が全員集合かな?」
フランツ団長、ガンツさん、メリッサさんの三人はフォルトゥーナ騎士団として活動をするのでクラン員では無い。勿論、状況によっては彼らがクランの活動に協力する事はあるのだが、基本的にはクランハウスを拠点として貸し出すという体を取る形となる。
文官をやってもらうイクサー兄妹については「永久なる向日葵」のメンバーとして登録となるわけだ。……まあ、外に対しての建前という奴だね。
結果的には臨機応変に行動するし、「永久なる向日葵」+【フォルトゥーナ騎士団】で一つの組織のような形にはなるだろうと思う。
【永久なる向日葵 所属員】
マイン・フォルトゥーナ
シルフィード・フォルトゥーナ
アイシャ・フォルトゥーナ
エイミ
エアリアル・オーガスタ
ケイト
レオン・イクサー
ミラ・イクサー
わっふる
クゥ
【フォルトゥーナ騎士団】
フランツ・ワークス
ガンツ・フォーラム
メリッサ・ウイルス
「マイン君、そろそろ式が始まるからクランハウスの前の広場に集まれってルイス殿下が言っていたわよ」
わっふるを抱きかかえながら、アイシャがそう僕に声を掛けてくる。
ああ、もうそんな時間なのか……。気が重いけど頑張るしか無いね。
その場にいる全員に声を掛けて、揃って広場へと移動を開始する。
……だが、僕らは気がついていなかったんだ。この時、まだ挨拶が終わっていない人物がいた事に。広場へと移動する僕らをじっと観察している者がいた事を。
◆◇◆◇◆
式典がとうとう始まった。今、お立ち台の上で話をしているのはこの町の町長さんだ。
「……という訳で、我々の住むこのルーカスに新たにクランが誕生致しました。永久なる向日葵、この名前を皆さん是非、覚えて頂きたい。先日ご結婚をなされたシルフィード様や元ギルドの受付嬢だったアイシャ殿が所属しているという事も大変な事ではあるのですが……私たちルーカスの住民が知っておかなければならない事があるのです」
更に町長さんの演説は続く。
「いいですか、皆さん。このクランの代表者は実はシルフィード様ではありません。そうですシルフィード様とアイシャ殿の伴侶であるマイン殿が代表者なのです。マイン殿といえば皆さんはご存じですよね?私たちルーカスの住民にとっての英雄。ダイン殿とユキノ殿が残された一人息子こそ、マイン殿です。そのマイン殿が代表のクランなのです。心から祝福しようではありませんか!」
広場で町長さんの演説を聞いていた住民達から、一斉に歓声が湧き上がる。
そして何人もの人たちが僕に視線を向け始めるのだ、……ただ、その視線は決して不快な物ではない。感謝や親しみ……そう言った暖かな感情を含んだ視線が僕に向かってまっすぐに飛び込んでくるのだ。
お父さんとお母さんが亡くなって5年も経過したと言うのに……如何にこのルーカスの住民のみんなからお父さんとお母さんが尊敬されているかよく分かるよね。
「お父さんとお母さんを覚えていて下さってありがとうございます!二人は僕の自慢の両親なんです!!本当に嬉しいです!!」
広場に集まってくれた多くの人たちに向かって僕は深く頭を下げる。
そんな僕に向かって、一人の男の人が僕に向かって大声で声を掛けてきた。
「俺たちにとってもダインさんとユキノさんは自慢の英雄だ!俺たちがあの人達を忘れるこたあねえ!胸を張れ、マイン!お前はあの二人にとっても自慢の息子だったんだ!そしてマイン!お前は俺たちルーカスの住人にとっても自慢の息子みたいなもんだ!いいか!頑張るんだぞ!俺たちがついているからな!」
そして湧き上がる先ほどよりも大きな歓声が広場一帯に広がっていく。集まったみんなが笑顔で僕の名前を呼び、応援してくれている。
声を掛けてくれた男の人。町で顔を見かけた事はあるけれど、よく知らない人だった。
……だけど、こんな暖かい言葉を掛けてもらえた。結婚式から帰ってきた時も思ったけれど僕はなんて幸せ者なんだろう。ルーカスの町の住人で本当に良かった。
その後、歓声はお義兄さんが登壇するまで、続くのだった。流石に自国の王子が話すとあって、皆静かに話を聞く姿勢を見せている。この国の王族は、本当に国民から人気があるんだよね。
「……今の様子を見る限り、私が何かを言う必要は無さそうだな。私からは一言だけにしておこう」
お義兄さんが、ゆっくりと広場を見回してそう述べる。
先程までの歓声が嘘のように静まりかえり、住民達の意識が壇上のお義兄さんへと切り替わる。
流石に王子様だけあって、こう言った演説などは手慣れた物である。この辺りはどれだけ頑張ってみても、僕には真似出来ないよね。
お義兄さんはいくつかの祝辞を述べ、王家が期待しているクランだという事を告げてお立ち台から降りていく。
……そして、ついに僕が登壇する番が来たのだ。
うう、すっごく緊張するよ……。結婚式の時もそうだったけど大勢の人の前で話すのはどうにも苦手だよ。
「皆さん、こんにちは!先ほどはありがとうございました!すっごく嬉しかったです。改めまして僕がこのクランの代表者のマインです。ルーカスの町は皆さんの心が暖かくて、僕はすごく大好きです。だからこそ、僕の家族を含めたクランの仲間達ともっともっと素敵な町になるように頑張りたいと思っています、何かあればどんどん言ってください!皆さん、これからも宜しくお願いします!」
僕はルーカスの人たちへの心からの感謝の気持ちを込めて話し出す。
途中から自分でも何を喋ったのか分からなくなってしまったが、お立ち台から降りた時のシルフィとアイシャの笑顔を見て、ちゃんと話せたんだとほっと胸をなで下ろした。
その後は、何人かの貴族の人が登壇をして、王家同様、僕たちへに期待している事を表明して、無事に式典は終了を迎える事になった。
「……ふぅ、やっぱり僕はこういうのは苦手だよ」
クラン、騎士団の面々と完成したクランハウスの1階で寛ぎながら話していると皮鎧をまとった戦士風の男性と少し目つきが悪い同じく皮鎧をまとった男がクランハウスに入ってきた。
「すまないが、今日はまだクランとしての活動は行わないんだ」
騎士団のメリッサさんが、入ってきた男達にそう声を掛ける。
『『わふっ!(きゅきゅっ!)あいつは!!』』
男達を見たわっふるとクゥがいきなり声を上げる。ん?二人はあの男達と知り合いなのかな??
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【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。




