第153話 クランハウス完成式典(2)
カシューさんと別れた後も、次々に来客が我が家にはやってくる。
「こんにちは、マイン殿」
今、僕に挨拶をしているのは元騎士団長のフランツさんだ。
フランツ団長の背後に無骨な鎧をまとった大柄なご年配の男性騎士さんと肌が褐色な……恐らくシルフィと同じ年齢位の女騎士が控えている。多分、この二人が以前、聞いていた騎士団員の人なんだろうね。
エルフの生き残りであるエイミさんを護衛する訳だから腕前も確かで人格者であるという事は間違いない。どちらの騎士さんもきっと凄い人なのだと思う。
……あれ?そう言えば文官さんも二人来るって聞いてたけど、見当たらないよね。どうしたんだろう。まさか、ルーカスへの異動が嫌になって来れなくなっちゃったとか!?
そ、それはまずいよ!エイミさんだけに受付嬢を任せられないし、事務仕事だってあるのだし……。
フランツ団長は僕の内心の焦りを知ってか知らずか、にこやかに話を続けている。
取りあえずは、こちらに集中しよう。話に区切りがついたら聞けばいいや。
「……それでは、紹介致しますね」
団長の一言で、後ろに控えていた二名の騎士さんが前に進み出てくる。
う~ん、ご年配の騎士さん……間近で見るとすごい迫力だよ……。鎧のせいだけでは無く、本人から感じられる圧がとんでもない。
とにかく、がっしりとした体つきと白髭が特徴的な人だね。
「儂の名前はガンツじゃ!マイン殿、宜しく頼みますぞ!ガハハハハハ」
年配の騎士さん……ガンツさんはお義兄さんと一緒で僕の背中をバシバシ叩きながら、凄い大声で挨拶をしてきた。見かけ通り豪快そうな人みたいだ。
「はじめましてメリッサです。これから宜しくお願いします」
褐色肌の女騎士さんは、メリッサさんって言うんだね。
何というか一言で言うならば、すごい美人さんだ……。シルフィやアイシャとは違った方向性の美しさで、活動的というか、凜々しいというか……そんな印象を受けるよ。
フランツ団長から、二人について聞いたところ、どちらも凄い経歴の持ち主だった。
まずは、ガンツさん。元近衛騎士団長だった人らしい。性格も豪快だが、戦いも同じく豪快との事。
使用している武器は、両手斧だ。所持しているスキルについても隠す事なく公開しているそうで【両手斧・聖】と【正面突破】の二つだそうだ。
一時、国王様とも一緒に戦った事があるらしい。
……ちなみに国王様が国王になってからの事なので、うちのお父さん、お母さんとは面識は無いそうだ。
名前:ガンツ・フォーラム
種族:ヒューム
LV:51
性別:男
年齢:62歳
職業:元近衛騎士団長
【スキル】
両手斧・聖Lv8
正面突破LV10
手芸LV7
うん、確かに公開している通りのスキルを持ってるみたいだけど……【手芸】?
地味にLVも高いぞ……。容姿から全く推測出来ないスキルだよね……。
……そして、メリッサさん。彼女も中々すごい経歴の持ち主だ。
なんでも第二騎士団の副団長だった人らしい。人格的にも実力的にも第一・第二騎士団を合わせた中でトップクラスで、フランツ団長も一目置いている逸材との事。
本来なら第一騎士団からフランツ団長が抜け、さらに第二騎士団から副団長であるメリッサさんまで抜けるなどあり得ない事らしいのだが、そこは事情という奴があったようだ。
彼女が所属していた第二騎士団の団長が無類の女好きらしく、日頃から当たり前のようにメリッサさんをはじめとした女性団員に頻繁にセクハラを行っているようだ。
そんな性格的に問題があるのだが、戦闘の才能と指揮の才能がずば抜けている為、それでも団長として国は渋々認めているらしい。
だが、メリッサさんは我慢の限界に来ていたようで、先日お義兄さんに直接辞表を提出したのだそうだ。まあ、上司のセクハラが理由で辞めるというのにその当人に辞表は出せないよね……。
彼女をみすみす辞めさせるのは勿体ないと考えたお義兄さんがフランツ団長と相談して、うちの騎士団の事を話して誘ってみたというのだ。
元々彼女はシルフィに憧れており、フランツ団長の事も信頼していた為、トントン拍子で異動が決まったと言う事だ。
名前:メリッサ・ウイルス
種族:ヒューム
LV:34
性別:女
年齢:20歳
職業:元王国第二騎士団副団長
【スキル】
両手槍・聖Lv5
片手槍・極Lv4
補助魔法・速度低下Lv7
へえ!お義兄さんとフランツ団長が揃って優秀というわけだ。
彼女は、槍のエキスパートさんなんだね。補助魔法まで持っているし……。
確かに彼女を辞めさせてしまうのは、勿体ないと感じてしまうかもしれないね。
ふむふむ、年齢は……シルフィの一つ上なんだね。
シルフィに憧れてるって事だし、きっと良い話し相手になってくれるんじゃないかな?
うん、フランツ団長を含めたこの三人がフォルトゥーナ騎士団のメンバーと言うわけだ。
「こちらこそ、宜しくお願いします!僕はまだまだ若輩者ですし、見ての通りの田舎者です。色々な事で皆さんに迷惑を掛けてしまうかもしれません。だけど、皆さんを先生として色々と学び成長したいと思ってます!」
僕がそう言って深々と頭を下げると、ガンツさんとメリッサさんは呆気にとられた表情になる。
ああ、そういえばアイシャも冒険者ギルドではじめて会った時に同じような表情をしていたよな。
「ガハハハハハ!なるほど、なるほど。陛下が言われた通りじゃわい!」
「マ、マイン殿、どうか頭をお上げ下さい!私たちは貴方の部下となるのですから……」
二人がそれぞれの反応を見せる中、ふぅっとため息をつきながらフランツ団長が会話に割り込んでくる。
「……メリッサ、マイン殿はこういう方なのですよ。ガンツ殿は陛下から話を聞いていたようですが」
「ん?まあそうじゃなあ。だからこそ、隠居していた儂がこうして表舞台に再び戻ってきた訳なんじゃがな、……まあ何にせよ、この前途ある我らの主殿がこれから成長していく姿を見ていく事が出来るのは楽しみな事じゃな」
「……はぁ」
騎士団の三人が僕の事を話しているのを見ていると、シルフィが二名の男女を引き連れてこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「旦那様、ここに居たのか?……お?メリッサか、なるほどお前が来てくれたのなら心強いな」
「ん?なんじゃ姫様、儂もここにおるんじゃがな?」
「ガンツ爺、言われなくとも分かっている。その大きな体が目に入らない訳がないだろう?……しかし、ガンツ爺が現場復帰とか、驚きだな」
やっぱり、シルフィはメリッサさんだけでは無く、ガンツさんも知ってるんだね。
まあ、元近衛騎士団長なんだもんね、知らないわけは無いよね。
「シルフィ、そちらの二人は?」
シルフィの後ろで、若干緊張気味に立っている二人を見ながら尋ねてみる。
「ああ、すまない。この二人は「永久なる向日葵」に配属になった文官だ」
シルフィがそう紹介をすると、二人はぎこちなく前に進んでペコリと僕にお辞儀をした。
「「は、はじめましゅて!」」
……噛んだね。というか、二人揃って噛むなんて息ぴったりだね……。
おや??この二人妙に似てる気がするな……まさか……。
「「は、はじめまして!本日から文官としてお世話になります」」
「レオン・イクサーです」
「ミラ・イクサーです」
ああ、同じ家名という事は、やはり兄妹?姉弟?……いや双子なのかもしれないね。
……どちらにせよ、良く似てるよね。
「見ての通り、二人は双子なんだ。レオンが兄でミラが妹だな」
シルフィの説明によると、二人はブラインという王都からかなり北上したところにある町に住んでいたらしい。
彼らの実家、イクサー家は中堅の貴族で、王家からの評判もそれなりに高い評価を得ているそうだ。だが、レオンさんとミラさんは三男と四女と言う事で家督を継ぐ必要も無いため、イクサー家の親戚筋である王都の商家に預けられ、そこで商売について真面目に勉強をしながら手伝いをしていたらしい。
たまたま、フランツ団長の奥さんがこの商家に出入りをしており、彼らの勤勉な働きぶりを知っていた。貴族の出であり、人柄もよい事もありフランツ団長に話をしていたようだ。
その話を聞いたフランツ団長がこっそりと二人の仕事を確認し、その人柄と仕事の正確さを見て判断をし、スカウトしてきたとの事だった。
「エイミさんの事はご存じなんですか?」
いくら貴族の子とはいえ、エイミさんの秘密を共有するのには、かなり心配である。
「ああ、知っているよ。大丈夫、人に言わないと思うよ」
僕の問いにフランツさんは自信ありげにそう答えた。
絶対なんてあり得ないと思うんだけどな……。
そう思っていたら、こっそりとシルフィが教えてくれた。
何でも例の錬成師さんが作った腕輪型の魔道具をつけていて、禁則事項は話す事が出来ないようになっているとの事だ。
う~ん、そんな魔道具を簡単に用意できる錬成師さんか……。
やっぱり、一度会ってみたいよね。
とにかく、そんな魔道具があるなら問題はきっと無いだろう。
「分かりました、レオンさん、ミラさん!宜しくお願いします!!」
こうして、僕たち「永久なる向日葵」の初期メンバーが正式に決まったのだった。
お読み頂きありがとうございました。
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