第152話 クランハウス完成式典(1)
今日は朝早くから、多くの人が我が家を訪ねてきている。
……そう、とうとう念願のクランハウスが完成したのだ。
つまり、いよいよこれからクラン「永久なる向日葵」が本格的に動き出すと言う事だ。
新しく出来たばかりのクランではあるが、姫騎士の二つ名を持つ、シルフィード元第一王女や元B級冒険者で、やはり聖弓を二つ名に持つアイシャが所属するというクランである。注目を浴びない訳が無い。
さらにこの建物だ。
相当の金額が王家より投入されている事も周知されている。
とはいえ勿論、税金など国庫からは一切使われてはいない。
投資された金額は全て王家から個人的に捻出されたお金だ。
元第一王女が所属している事もあるのだろうが、それだけが理由で王家が大量の資金を投入するはずがない。
これだけの資金を出資した事を考えれば、それだけ王家に期待を掛けられているクランと言う事に他ならない。
それ故、結成されたばかりの新規クランだと言うのに、すでに大手クランと肩を並べる存在として周りからは認識されている。
……そう今日はクランハウスが完成したという事で記念式典が開かれるのである。
僕は最後までそんな事はしたくないと主張したのだけど、国王様やお義兄さんに強く説得を受け、やむなく行う事になってしまったという訳だ。
とまあ、そんな訳なので現在このルーカスの町には各町の貴族や有力者達、他大手クランの代表者達などの人物がこぞって集結しているんだ。
ちなみに、当然というか、何というか……王家を代表してアルト義兄さんが、この式典に参加する事になっているのだが、「クラン:錬金術図書館」の代表者として、ルイス殿下も来ているのだ。図らずも王子が二名も集まると言う異例の式典となってしまったのである。
「どうした義弟、そんな顔をして……」
僕の困ったような、気が乗らないような、そんな表情を見てお義兄さんが問いかけてくる。
うん、お義兄さん……わかってて言ってるよね?目が笑ってるのが見えますよ?
「マインお義兄様はきっと緊張しているのですわ!」
ああ、そうか。エアリーも居たよね。王子二名だけでは無く、王女(元王女もいるけど)も二名居るのか……。 ますます大げさな催しになってきた気がするよ……。
「……いや、お義兄さんわかってて言ってますよね?」
「ああ、わかってるとも。そんなに記念式典は嫌なのか?」
「結婚式でもそうでしたが……いくら貴族となったからと言っても所詮僕は庶民なんですよ?こんな大勢の人前で何かをやるなんて、嫌に決まってるじゃないですか……」
お義兄さんに愚痴をこぼしていると、エイミさんが僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
「マインさ~ん、どこですか~?お客様ですよ~」
うん?お客様……誰かな?今日挨拶に来ているのは、貴族や有力者達ばかりだから、どちらかというとシルフィ目当ての人が多いんだけど……。とにかく行ってみるか。
お義兄さんとエアリーの二人に暇を告げ、急いで玄関へと足を運ぶ。
「エイミさん、お待たせです。お客様って聞いたけど……?」
居間に戻ってきた僕は周りの様子をキョロキョロと見回す。式典が始まるまでクランハウスには入る事は出来ないから、来客は僕の家の客間で行っているんだ。だけど、お客様らしき人は見当たらない。
「ああ、マインさん!探してましたよ、もう!お客様は玄関でお待ちです!
中に入るよう勧めたのですが「俺はここで構わない」と言って聴かないんですよ」
……一体誰なんだろう?話の感じからすると貴族では無いと思うんだけど……。取りあえず急いで玄関に行かなきゃ!お客様を待たせちゃいけないもんね!
「……お待たせしました!僕がフォルトゥーナ家の当主、マイン・フォルトゥーナです」
僕がそう声をかけながら、玄関口に足を踏み入れると……そこに居たのは。
「おう!マイン!約束通りスピードシューズをもらい受けにやってきたぞ!!」
「カシューさん!」
お客様はなんと「クラン:舞い上がる砂塵」のリーダーで元A級冒険者のカシューさんだった。そうか、各大手クランの代表者が来るならカシューさんが来ない訳ないよね!
そういえば、スピードシューズを取りに来るって言ってたし、今回の式典はまさに渡りに船という事だったんだろう。
「やっと来る事が出来たな……改めて礼を言おう。今回の申し出は本当に助かった。
依頼人が中々捕まらなくてな、こんなに時間がかかっちまったよ。だが、契約以上の代金で買い取ってもらえる事になった、これで俺たちの一ヶ月も報われるってものだ」
力の迷宮での一ヶ月を思い出したのだろう。カシューさんは思い切り顔をしかめながら、僕に話してくる。
「それで、物は今渡す事が出来そうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
収納袋からスピードシューズを取り出して、カシューに手渡す。
すぐさま、カシューさんはそのまま、上下左右から手渡された靴を観察する。
「……確かに、間違いない。スピードシューズだ。それで金額だが……」
「いいですよ、それ差し上げます」
「は?」
僕の発した一言があまりにも予想外の答えだったのだろう。間抜けな声を出した後、呆然とした表情で僕の顔を見つめている。実はこの金額の件は家族会議で話し合った結果だったりするのだ。
◆◇◆◇◆
「さて、スピードシューズだけど……いくらでカシューさんに売る?」
力の迷宮で新たに手に入れてきたシエルスーリエをアイシャが持っていたスピードシューズと交換しながらアイシャとシルフィにそう問いかけてみた。
「旦那様、その事なんだがな……この際、無料であげてしまってはどうだろうか」
「無料?なんで?」
あれだけ苦労していたんだから、高い値段でもきっと買ってくれると思うんだけど、何で無料にしようと言うんだろうか。
「いや、正確には無料ではないか。カシューとの信頼度を対価にもらえばいいと思うのだ。カシューは知っての通り、元A級冒険者で実績も信頼度も非常に高い人間だ。そんな相手と知己を得るというのは、正直中々機会があるものではない」
「……けど、シルフィもアイシャも二人とももう面識があるんだよね?」
「ああ、確かに私たちは古くからの知り合いなのは間違いない。だが、旦那様は違うだろう?旦那様とカシューの縁を繋ぐという事に意味があるのだ。何せ我々のリーダーは旦那様なのだからな」
シルフィがそう言うと、今までのやり取りを静かに聞いていたアイシャが口を開く。
「マイン君、私も姫様の意見に賛成よ。お金に困っているなら、まだしも全く困っていない今、カシューとマイン君の縁を繋ぐ事の方がメリットが大きいと思う」
なるほど、僕は以前から貧乏だったから、どうしても目先のお金に心が動いちゃうけれど確かに現時点で、お金には全く困ってはいない。
ちょこちょこと魔物を狩っては、お肉屋さんやルイス殿下のクランに売りに行っているため以前のようにお金に困るという事は全く無くなっている。兎を罠でちまちまと狩っていた頃がなんだか懐かしく感じてしまう。
確かに人と人との繋がり、縁というものは大事にしないといけないよね。
今まで僕が暮らしてこれたのは、間違いなくお父さんやお母さんが残してくれた人と人との縁のおかげだ。
肉屋のおじさん、武器屋のおじさん、防具屋のおじさん、錬金屋さんのお兄さん。
町長さんに工房の親方、門番のエドガーさん。……感謝してもしたり無い位だ。
だから、シルフィとアイシャの言う事はよく分かる。
「そうだね!お近づきの印にカシューさんにプレゼントしちゃおう!」
◆◇◆◇◆
「カシューさんとお知り合いになれた記念です!」
僕がニコニコしながら、そう言うとやっと我に返ったのか、頭をかきながらスピードシューズを見つめる。
「ふう、おまえの嫁二人も変わり者だが……夫婦ってのは似るって言うのは本当なのか?分かったよ、ありがたく貰っておこう。なんでもルイス殿下んとこのクランと提携したって言うじゃないか。うちとも良かったらどうだ?」
「はい!是非!喜んで提携させてもらいます!」
こうして僕らは、心強い友人を得る事になったのだった。
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【改稿】
2017/02/25
・全般の誤字を修正。