第151話 王宮にて(4)
「さて、マイン……魔人国の有力な情報と言ったか。ヨルムンガンド様から聞いたと言う話、教えて貰えないか?」
国王様とお義兄さんが真剣な目で僕を見つめている。
僕の話す言葉を一句も残さず、聞き取ろうとしているのだろう。
「……えっと」
魔人国の王が、代替わりをした事、既に周辺国をいくつか滅ぼしている事。
多くの人間を奴隷として捕まえ、魔人国に連れ去った事。
実際に魔族が町を襲撃している現場を見た事……そしてヒュームらしき人物が魔族と共に襲撃に参加していた事。
ヨルムンガンド様も大雑把にしか教えてくれなかったので、聞いた事だけを簡潔に話していく。
「何だって?ヒュームが居ただと……どういう事だ?」
「……分かりません、ヨルムンガンド様は遥か上空を飛んでいましたし。ただ……」
「……ただ?どうした?気になる事があれば、どんどん話してくれ」
「そのヒュームらしき人物ですが、遥か上空を飛んでいた僕に気が付いていた節があるんです。
何かしらのスキルが無ければ、絶対に分からない状況だったんですけど……」
そう、あの時……あの男は確かに僕を見て笑ったんだ。間違いなく僕の存在に気が付いていた。
僕の【視力強化・中】のようなスキルを持っていなければ、確認出来る訳がない。
「何かしらのスキル?なんだ【鑑定】はしなかったのか?」
「……ヨルムンガンド様の移動速度が余りに速すぎて【鑑定】を使う前にその領域を過ぎてしまったんです」
そう、あの時に【鑑定】出来なかった事が凄く悔やまれる。
何となくだけど、あの男とはいつか戦う時が来る……そんな予感がするんだ。
「ふむ、そうか。確かにその男、気になるな」
お義兄さんが顎に手を当てて考え始める。
「本当にヒューム族なのか?……いくらお前でも遠目で見ただけで判断はつくまい」
国王様がそう僕に尋ねる。
「う~ん、そう言われると絶対とは言えないのですけど……けど、見た目は人型でした」
僕がそう答えると、国王様もお義兄さんのように顎に手を当てて考え始める。
どうでもいい事なんだけど、親子だなあと思う。ああ、そう言えばシルフィも良くこの仕草をするよね。
「これは、可能性なんだが、その男は……魔族を率いていた魔人では無いのだろうか?」
国王様が、不意にそう僕達に話しかける。
魔人?ああ、そうか。魔人国という位だもんね、魔人って言う種族がいるのだろう。
「過去に一度だけだが、私は……いや私達のパーティは魔人と戦った事があるのだよ」
そもそも魔人族というよりも魔人国の情報は僕達ヒューム族はよく理解していない。
交流が全くと言っていいほど無いからだ。
どんな種族がいて、魔人と魔族とどのように暮らしているのか等、その詳細は全く謎に包まれている。
そんな謎だらけの魔人と国王様は戦った事があるというのだ。
「僕が見たのは、その魔人だったという事ですか?」
「可能性はあると思う。そもそも魔族にヒュームが囲まれて一緒に行動など出来る訳が無いからな。
魔人の可能性を考えておくに越した事は無いだろう、魔人はスキル以外にも不思議な能力があると言うしな。
空にいたお前を見つけたのも、そういった能力だったのかもしれん」
なるほど、あの時はそんな事は知らなかったからヒュームだと思ってしまったけど……。
確かに魔人国が絡んだ侵略戦争ならば、尖兵である魔族の中に指揮官として魔人がいたって不思議ではない。
国王様の考えは恐らく正しいのではないだろうか。
「とにかくだ、これで冒険者ギルドからの報告と今のマインの話から、魔人国が侵略戦争を始めたのは間違いが無いだろう。
我がオーガスタ王国は距離的な問題から、今の所差し迫った脅威は無いが、今のうちに何かしらの対策は考えておく必要があるだろう」
「父上、ふと思ったのだが……クレオ、クレオ大公国はどう動くだろうか……?」
うん?聞いたことのない国の名前が出てきたよ……。
国王様もその名前を聞いた途端、苦虫を噛みつぶしたような表情となる。
「……分からんが、恐らくあいつらの事だ、ろくな事はしないだろうな」
◆◇◆◇◆
色々と今後大きな問題に発展しそうな魔人国の話もひとまず終わり、僕達はお茶を飲みながら寛ぐ事にした。話題は、再び移動扉に移っている。
「しかし、マインのあの扉には驚かされたな。確かに言い出したのは私だが、本当に出来るとは思わなかった」
国王様が上機嫌に僕にそう話しかけてきた。
欠点こそ、見つかったもののその有用性については疑いようのない事実だ。
「現状でも何か使い道は無いものだろうか……」
お義兄さんがそんな事を口にすると、突然エアリーが立ち上がって僕たちに向かって話しかけてきたのだ。
「お父様、この前お話をしましたマインお義兄様のクランへの私の加入の件ですが、改めてお願いをします」
ああ、そうか。どうやらエアリーは僕が出した条件である国王様と王妃様、お義兄さんへの許可がまだ取れていないのか。
あれから何も言ってこなかったから、どうしたのかと思ってはいたのだけど……。
確か、今回シルフィが僕についてきたのもエアリーの様子を見に来るためだったよね。
さて、国王様……どんな結論を出すんだろう?
「前にも言った通りだ、いくらマインやシルフィ、アイシャが居るとはいえ、必ずフォローが出来るわけではあるまい?万が一お前の身に何かあってはいかんのだ。あきらめなさい」
予想通りの回答だよね。親の立場からすれば、体調が良くない娘を目の届かない場所に長期で置いておくのは不安でしか無いだろう。
「父上、ちょっといいだろうか?」
ん?シルフィが一体何だろう?エアリーの味方をするつもりなのだろうか。
確かにさっき、エアリーと色々話をしてきたみたいではあったけど……。
「旦那様が作った今回の“扉”だが、これを利用すればエアリーの問題は解決するのではないだろうか。ルーカスに居住するのでは無く、王宮から毎日通うのなら父上も安心出来るのではないかと思うのだが……どうだろう?」
……なるほど。早めにこちらに来て風呂に入って魔力を補充して一日を過ごし、定時になったら再度、お風呂で魔力を補充すれば帰ってからも元気でいられるか。
馬車で王宮とルーカスを行き来すると言うのなら厳しいだろうが、僕の移動扉を使用するなら、毎日の通っても何とかなりそうな気がするよ。
「むぅ……いや、駄目だ。緊急事態に陥った時、そばにこの扉の事を理解している人間が居なかったら結局は同じ事になる」
「むむむ、お父様……頑固じじいですわ」
いや、エアリーの気持ちもわかるけれど、国王様は君の事を心配しているからこそ、言ってるからだから、頑固じじいは無いよ、頑固じじいは……。
「それならば、メイドのケイトに同行してもらうというのはどうだろう?」
シルフィがそう提案をする。メイドのケイトさん?誰だろう……。
ひょっとして、いつものメイドさんの事かな?だけど、同行ってずっとクランハウスに居なきゃ駄目だよね?メイドさんって忙しいんじゃないのかな?
「……ケイトが良いと言うのならば、それはそれで有りなのかもしれんな……」
先ほどまで口を挟まなかったお義兄さんもシルフィの提案に興味を示し始めたようだ。
ここが勝負所とエアリーも一気に国王様に畳みかける。
「そうですわ!ケイトが一緒に来てくれれば問題は全く無いのですわ!お父様!お願いですの!お義兄様のクランに入らせて下さい!!!」
すごく熱のこもった家族バトルだけど、僕とわっふるとクゥは完全に蚊帳の外だよね……。ちなみにわっふるは僕の頭の上、クゥは僕が抱きかかえているんだけど、どちらもすごく眠そうだ。
僕はエアリーの気持ちも国王様の気持ちも理解出来るから、双方が納得出来る答えが出ればそれでいいんだよね。
「……おまえ達の言い分はよくわかった。ガーネットとも相談するから明日まで待て」
結局、僕が家に帰る時になっても、結論が出なかったのでシルフィはそのまま王宮に泊まる事になった。今回作った扉は新しいものが完成したら差し替えるという条件でガーネット様の部屋に置く事になったんだ。
ガーネット様の私室なので、基本的に入室するのは王様と家族、そしてケイトさんと言うメイドさんだけだ。フェンリル様から“神獣の契約”を授かっていない第二王妃とレクタル殿下も来る事は無い。取りあえずのセキュリティは問題が無いはずだ。
……そして、翌朝アイシャが作った朝ご飯を食べている家族の和の中に、満面の笑みを浮かべるエアリーとメイド服姿のケイトさんが加わった事は言うまでも無いだろう。
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/02/25
・全般の誤字を修正。




