第149話 王宮にて(2)
「なに!?本当に完成したのか!でかしたぞマイン!」
国王様もすぐに僕が言っているのが、移動扉の事だと分かったらしい。
先程まで、場を和ませようとわざとらしく明るい態度を見せていた国王様だったが、僕の報告を聞いた今では心の底から喜んでいるのが感じられた。
「ええ、詳細は……」
僕が再び、モルグ宰相の顔を見ながら、言い淀むと国王様も理解したのだろう。
「すまんが、モルグ外して貰えるか?」
「……それは構いませんが、宰相である私にも話せないような事なのですかな?」
モルグ宰相もさっきから僕がことあるごとにチラチラと様子を伺っていたのは、当然気が付いていただろう。
だからこそ、国王様の言葉を怪訝に思ったのだろう。
「そうだな、文字通り“命”を掛けて、誓えば話せない事は無いのだがな」
恐らく国王様はフェンリル様の“神獣の契約”の事を思い浮かべているのだろう。
だが、あれはフェンリル様に会い、フェンリル様に認められなければ授かる事が出来ない物だ。
確かに僕のスキルの事を誰かに話したりすれば、死ぬほどの激痛を受けるのかもしれないが、話さなければ加護を受けているのと同じなのだ。
フェンリル様もおいそれと授ける事はしないだろうと思うし、人間の都合で受けてくれる物では無いだろう。
「ほう?何を誓えば良いのですかな?」
ああ、どうやら国王様の一言はモルグ宰相の興味を引いてしまったらしい。
まずいぞ、国王様が約束してしまったら、どうなるんだろう……。
「モルグよ、何にでも興味を持って知識を高めようとするお前の姿勢は嫌いではないがな……世の中には知らない方が良いこともあるのだぞ」
国王様のその一言を聞いたモルグ宰相は眉毛をピクっと動かす。
予想外の返答だったのかもしれない。
僕も一瞬、“神獣の契約”を話すかと思ってドキドキしちゃったよ。
けど、考えても見れば“神獣の契約”の事を話す事だって、契約内容を破る事になるんだ。
そんな迂闊な事を国王様がするわけないよね。
「ほほう、そこまで陛下が仰るとは……くわばらくわばら、ならば私は退散しましょうか」
肩をすくめながら、そう言って宰相は執務室を出て行ったのだ。
何となく人を食ったような態度が気にはなったものの、これで執務室に残ったのは僕のスキルの事を知る身内だけとなった。
『わっふる念のため、周りの様子を探ってみてくれる?』
わっふるにそう頼むと「わふ!」と早速確認を始めてくれる。
僕がスキルを使っても良かったのだけど、やはり感知能力と言えばわっふるだからね。
ここは、わっふるに任せるのが正解だろう。
『だいじょうぶだぞ、まりょくのけはいもないし、ひともいない』
『ありがとう!わっふる』
僕がお礼を言いながら、頭の上から目の前に垂れ下がっている尻尾を優しく撫でてあげるとわっふるは嬉しそうに眼を細めるのだった。
僕達の様子を見ながら、少し興奮気味にお義兄さんが問いかけてきた。
「それで、義弟よ。お前のスキルを封じた扉が本当に完成したのか?」
「ええ、ちょっと……いや、大分大変でしたけど……」
そう言いながら、僕は事前に作っておいた我が家の解体部屋に繋がっている扉を収納袋から取り出す。
国王様もお義兄さんも、僕が取り出した見た目は、何の変哲もない扉を凝視している。
「……お父様、お兄様……この扉がどうかしたんですの?」
事情が分かっていないエアリーが首を傾げてそう質問する。
父親と実の兄の興奮気味な様子を見て、疑問に思ったようだ。
「これがさっき言っていた旦那様の用事だよ。エアリーの希望を叶えれる事が出来る可能性さ」
シルフィがそうエアリーにそう説明をしているが、やはりよく分からないのだろう。相変わらず首を傾げて不思議そうに扉を見ている。
シルフィもそれ以上は説明する事は無かった。
これから起こる事をみれば分かるからとでも思っているのだろう。
論より証拠、まさにその通りだ。
「この扉は、僕の家の解体部屋に繋がっています」
その僕の言葉を聞いて、エアリーはやっとこれが何なのかを理解したのだろう。
驚いた表情を見せている。
「こ、これってまさか……お義兄様の移動スキルと同じ事が出来るのですか!?」
エアリーの言葉を聞き、国王様が僕に問いかけてくる。
「……ふむ、では早速試してみてもいいかな?」
「はい、一応安全の証明という事で、僕が先に入りますね」
問題が無いのは事前に十分確認はしたけれど、国王様に使う時に何か事故でも起こったらとんでもない事になってしまう。
それこそ、オーガスタ王国全域が混乱に陥りかねない。
だから、先に僕が目の前で使ってみせて、その安全性を証明するのだ。
僕と頭の上のわっふるが、まず扉をくぐる。次はシルフィとクゥが続く。
フォルトゥーナ家の面々が執務室から姿を消し、残された王家の面々は顔を見合わせて頷きあう。
「では、私が参りますわ!」
王家からは、まずエアリーが扉をくぐる。エアリーが僕のスキルでの移動を経験しているからね。
余り不安は感じないのだろう。
エアリーが扉に飛び込んだのを見て、アルト義兄さんが後に続いた。
「ふむ、本当にこんな物を作ってしまうとはな……錬成師のマイヤ以外にこんな事が出来る者が現れるとは……」
そして、国王様が最後に扉をくぐり抜けたのだ。
◆◇◆◇◆
「……ここが、ダインとユキノが住んでいた家か」
僕達は、解体部屋から居間へと移動し、お茶を飲んでいる。
本当はすぐに戻る予定だったのだけど、国王様がどうしても家を見たいと言うので一通り案内をしてからこうして一服していると言うわけだ。
国王様は僕のお父さん、お母さんと一緒にパーティを組んでいた仲間だった。
だから、この家の事が気になっていたんだろうと思う。
この家の中をゆっくりと見て回っていた国王様は懐かしそうな、それでいて寂しそうなそんな複雑な表情だった。
きっと、昔を思い出しているんだろうね。
僕には当たり前の光景だから分からないけれど、きっと国王様の目にはお父さんとお母さんがここで暮らしていた痕跡が分かるんだろうね。
「マイン、よくやってくれた。“神獣の契約”の手前、大手を振って使う事は出来ないのは残念ではあるが……」
国王様が、そう言って僕の事を褒めてくれた。
「……義弟よ……この扉、素晴らしいとは思うのだが一つ欠点があると私は思うのだが……」
扉をくぐる前まではあれだけ興奮していたお義兄さんが、冷静な口調で僕にそう告げる。
「欠点……ですか?」
ん、ん、ん?何だろう?全く、思いつかないんだけど……。
シルフィも何だろう?と首を傾げている。
全く関係ない事なんだけど、シルフィが首を傾げる仕草、さっきのエアリーにそっくりだね。
流石、姉妹だな。と妙な所で感心してしまったよ。
……おっと、話が逸れてしまったね。欠点、欠点か……。
「……ごめんなさい、お義兄さん。分かんないです」
僕がそう答えると、お義兄さんはこの扉の欠点を指摘する。
「この扉の欠点は……」
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/02/19
・全般の誤字を修正。
・言い回しを修正。